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53 ことの顛末あれこれ
しおりを挟む翌朝、グリフォンの背にまたがって、古城をあとにしたサイラス王子。
それを見送ってから勇者一行も城を出ます。
「ルクさま、なにかアレば遠慮なく教会の連中をこき使って下さい。私から本部の方に連絡をいれておきますので。あとティア姫さまも何かあればサイラス王子を遠慮なくこき使って下さい。ボルバの連中はダメですがロガリア皇国の方はけっこう頼りになりますので」
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勇者たちはいったんロガリア皇国軍と合流した後に、後始末を見届けてから、また魔王討伐の旅へと戻るそうです。「縁があったらまた会おうぜ」などと光の勇者シュウは言っていましたが、はてさてどうなることやら。
あとに残るのは、まだフラフラして足下がおぼつかない水色オオカミのルクと、翡翠(ひすい)のオオカミのラナ、そしてティア姫のみ。
急に人がいなくなって、一気にさみしくなってしまった古城。
そこにパンっと音が鳴りました。
姫さまが元気よく手を叩いたのです。
「さてと、じゃあ、わたしはたまったお片付けをしますか。あのヘビさんが暴れたせいで、中庭もそうじしないといけないわね。石とかはルシエルさまが戻ったらお願いするとして、ルクはとりあえずおとなしく寝ていなさい。ラナさんは……」
「私はそのへんを適当に駆けさせてもらうさ。これだけ見通しのいい場所って、じつはあんまりないんだよね」
翡翠のオオカミがさっそく出かけていきます。内心でうれしいのか緑のシッポがゆらゆら。
そんな彼女をうらやましそうに眺めていたルク。ティアにうながされて、しぶしぶ城内へと連れて行かれてしまいました。
荒地にて待機を命じられていたロガリア皇国軍のところに、無事にサイラス王子が帰還して、側近や部下たちは、みなほっと胸をなでおろしました。
ここまで戻る道すがら、グリフォンのルシエルとサイラス王子が何を語らったのかは二人だけの秘密。ですがきっと友好な関係を築けたのでしょう。
別れ際に、ルシエルは自分の金色の羽をいちまい差し出しました。
「なにかあればその羽を天にかざせ。かならずや駆けつけよう」
「こちこそ、なにかあれば遠慮なく報せてください。人の身には人の身だからこそ出来ることもあるでしょうから」
天空の覇者と皇国の軍神との、このやりとりに男たちは胸を熱くし、歓声がわきます。
その場に居合わせた兵士たちは、まるで自分たちが神話となる場面に立ち会えたかのように感じて興奮を抑えられません。
最高潮の軍勢から敬礼にて見送られる金色のツバサ。
グリフォンの姿がはるか彼方に見えなくまで、敬礼がとかれることはありませんでした。
そんな陣地の片隅にて、周囲を厳重にかこまれて、肩身のせまいおもいをしていたのが、ボルバ王国より派遣されていた騎士団。
全員がティア姫をめぐる今回の一件に加担していたわけではありませんが、こうなっては同罪です。
しおれている連中を尻目にサイラス王子は側近の面々にある指示を下しました。それはこのたびの遠征にかかった諸経費の一切合切の見積もりです。
そこには相手がグリフォンであるのにもかかわらず、勇敢にもこの度の行軍に参加してくれた兵士らに対する、特別報酬を上積みすることもキチンと忘れずに計上するようにとの指示も添えて。
都をぐるりと軍勢に囲まれて、請求書を送られたボルバ王国。
その莫大な金額を見て、ルト王とサブリナ王妃は泡をふいて、バタンと倒れてしまいました。
すべての企みがバレてしまったこともあり、彼らに拒否権はありません。
なにせ同盟破棄されたうえに、攻め滅ぼされてもしかたがないようなマネをしたのですから。
それがお金だけですむのですから、かなりの温情なのでしょう。
あと、もちろん婚姻の話はナシです。
ボルバ王国側は、おずおずとティア姫がダメなら、ファラ姫なんてどうですかと言い出したのですが、サイラス王子の冷たい視線にさらされただけに終わりました。
ボルバ王国はこれより坂道を転げ落ちるかのようにして、凋落の一途をたどります。
なにせ大国の信頼と機嫌を損ねたのですから。周辺国もこぞって手を引くことに。関わりあいになって、とばっちりなんてゴメンです。
むしろ彼らがいままで無事であったのは、ティル王妃の残してくれた信用や遺産を喰いものにしていたから。ですが信用はすでになく、遺産もごっそりと失われることになりました。
この難局を乗り切れるような人材は城になく、国にもとっくに見切りをつけて出て行ってしまっていますので、どうしようもありません。
近い将来、ボルバ王家はもっと大きな代償を支払うことになるのですが、それは水色オオカミの子どもルクには関係のないこと。
こうしてグリフォンと姫を巡る物語はめでたく? 幕を下ろしたのでした。
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