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42 勇者と水色オオカミ
しおりを挟む目的地である荒地の古城を目指していた勇者一行。
そんな彼らの目に飛び込んできたのは、ボロボロの城なんかじゃなくて、太陽の光をあびてキラキラと輝く青白い巨大な何か。
近づいてみて、それが氷の壁だとわかったときの五人の反応はまちまち。
「なんじゃこりゃー!」と、たまげるばかりの勇者シュウ。
「おいおい、ボルバどころかロガリアの王都の城壁よりも高いんじゃないのか。どうすんだよ、コレ」と、のんきに見上げているのは戦士ガントン。
「うむ。魔法であろうか? じつに興味深い」と、さっそく調べようとする魔法使いドック。
「……」無言のままで氷の壁を見つめている弓士ピピン。
「おかしいですね。話では、長いこと放置されていた、朽ちかけの廃城だと聞いていたのですけど」と神官エリエール。何度も手元の地図にて場所の確認をしますが、どうやらここが目的地であるのは、間違いないようです。
ボロボロの古城だから、どこからでも忍び込めると安易に考えていた勇者一行。
なのに待っていたのは堅牢なる氷の城。
予想外の展開、これにはすっかり弱ってしまいました。
戦士がためしに愛用の大剣にて思いっきり斬りつけてみます。大木を両断し、岩をも砕く一撃。ですが、表面が少し欠けただけで、ビクともしません。
魔法ならばどうかと、エリエールがドックにたずねましたが、黙って首を横にふられてしまいました。
いかに身軽で崖や壁のぼりに長けたピピンでも、この高さでは専用の道具なしではお手上げ。
いっそのこと聖剣にてぶった切るかという勇者の案はムシです。
光の聖剣のチカラを開放すれば、あるいはこの氷の壁を打ち砕けるかもしれません。ですがそれだと中にいるはずのティア姫まで、こっぱみじんになってしまいますから。
「これは困りました。どうしましょう……。いったん戻って装備を整えたいところですが、あまりのんびりともしていられませんし」
「そうなのか? あんがい今頃、サイラス王子がグリフォンをやっつけちまってるかもしれないぜ」
壁を前にして、どうすべきか考えているエリエールに、シュウがそんなことを口にしました。
勇者と王子は気が合うのか、皇国滞在中、よく一緒に鍛錬をする間柄。互いの実力は知っています。勇者が個人のチカラならば、王子は集団のチカラに長けている。その彼の用兵をもってすれば、あるいはとシュウは考えていたようです。
ですがこの意見にエリエールはけっしてうなづきません。
「いえ、おそらくムリでしょう。誤解しないで下さい。王子の指揮官としての能力はズバ抜けています。間違いなく歴史に名を残す英雄の器。皇国の軍神との異名も伊達ではありません。ですが相手はそれ以上の化け物なのですから」
「グリフォンとはそれほどのモノなのか?」
「ええ、強国が総力戦をしかけて、ようやく撃退できるかどうか。よしんば撃退できたとしても、勝利にはほど遠い結果になります。だからこそ荒地のグリフォンは、いろいろとおかしいのですよ」
「?」
「その気になれば、ボルバ王国なんて半日ともちません。一人残らず全滅です」
「へー、そうなんだー」
「へー、そうなんだぁって、何を他人ごとみたい……にいぃっ!!」
神官のエリエールがヘンな声をあげて、急に黙り込んでしまいました。
氷の壁の方を見上げながら会話をしていた勇者さま。背後が突然、静かになったので、どうしたのかと振り返ると、彼女のとなりにて、ブンブンとシッポをふっている青い獣の姿が。
すぐさま腰の鞘より聖剣をひき抜く勇者。
その音で戦士や弓士も即座に武器をかまえます。
魔法使いは後方にて攻撃魔法の準備にひそかに入っていました。
神官以外が、すみやかに戦闘準備を整えた勇者一行。
その様子を興味深げに、円らな茜色の瞳で見つめていたのは、水色オオカミのルク。
なにやら氷の壁の向こう側がさわがしいので、ちょっと様子を見に来たところ、見知らぬ五人組を発見。
くんくんニオイをかいだかぎりでは、イヤなニオイはしません。悪い人たちではなさそう。
だから近寄って声をかけたのですが、おどろかせてしまったみたいです。
「青いオオカミとは面妖な。もしや魔王の手のものか! ひょっとして一連の事件の裏には魔族の陰謀が」
まるで冬の晴れた青空のような毛色をしたオオカミを前にして、とたんに思考が勇者っぽくなったシュウ。かってに盛り上がりイキリ立つ。
ですがそう言われても、ルクにはなんのことやら。魔王? 魔族? 事件に陰謀? 困惑するばかりなので、とりあえず自己紹介をして誤解をとくことに。
「ちがうよー。ボクは水色オオカミのルク。よろしくね」
ですがその言葉が終わるやいなや、聖剣をふりかぶった勇者がルクへとおそいかかってきました。
おそろしい光のチカラを秘めた聖剣の刀身がギラリとひかり、ルクの首を一刀のもとに落とさんとせまる。
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