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34 お姫さまの事情
しおりを挟む仲良くなったティアやルシエルの勧めもあり、しばらく古城に滞在することにした水色オオカミの子ルク。
荒地の城に住んでいるのは彼らだけ。
話によるとティアは、ルクがここに来るときに素通りした国のお姫さまだという。
お姫さまといえば、お城にて幼い頃より周囲にかしずかれて生活するもの。きっと一人では満足に着替えもできないはず。
けれども、そのわりには何でもテキパキと自分でやってしまうティア。
掃除、洗濯、料理に針仕事、家事全般から、大工道具片手に住まいの修繕(しゅうぜん)まで。職人や熟練メイドも真っ青な手際のよさ。
「ちょっと、そこ、じゃまです」
ホウキを持ったティアに言われて、部屋から追い出されるルシエル。
すごすごと退散するグリフォンには、初見時の威厳はまるでありません。
どうやら家の中のことは、すべて彼女がとり仕切っているみたいです。
おとなしく中庭にてぼんやりと日向ぼっこをする城の主に付き合って、ルクも適当なところにて四肢を投げ出しダラけます。
ティアのお手伝いをしてあげたいのは山々なのですが、なにせこの身は水色オオカミ。人のように掃除道具が使えませんので、かえって作業の足を引っぱってしまいます。
せいぜいバケツやツボに、キレイな水を出すぐらい。あとは彼女が育てている小さな畑に水をまきました。
その点、人間に変身できるグリフォンならば、モリモリお手伝いできそうなのですが、やっぱり足手まといになるらしくって、チカラ仕事以外では呼ばれることがないそうです。
「ティアって、お姫さまなんでしょう。地の国のお姫さまって、みんなあんなに働き者なの?」
「そんなワケがあるか。あいつの場合は、ちょっと背景が複雑なんだよ」
「?」
「じつはなぁ……」
ボルバ王国は近隣の国たちと代々友好な関係を守ることで、どうにか生き残ってきた小さな国。
ティアはそんな国の長姫として生まれました。
父親のルト王は幼い頃より優柔不断にて、煮え切らない性格。国を統べる者としてはとても頼りない。ですがそんな彼を支えていたのがティアの母親である王妃ティル。
経済にあかるく、政治バランスにすぐれ、交渉ごとにも長けている。その手腕は国の内外から高く評価されていました。
そんな母親の薫陶(くんとう)よろしく、「やれることは、なんでも自分で」という教育方針にて、甘やかされることなく幼い頃より厳しく育てられたティア。
ルト王がダメなぶん、そのシワ寄せがすべて王妃ティルに。
仕事が忙しいゆえに、どうしても家庭がおざなりになっていく。
そこで内向きのことを任せるためにと、第二妃をめとった王。
第二妃となったのは有力貴族の娘サブリナ。
若く、気のやさしい彼女にすぐに夢中となったルト王。
ほどなくして次姫が産まれました。
ファラと名付けられたその子は、まさしく珠のような愛らしい女の子にて、周囲はみなメロメロ。
母親は仕事にかまけ、父親は妹にしか興味がありません。周囲もまるで磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、ファラに群がるばかり。
ついつい放置されがちとなったティアは、それでも一切の不満を口にすることなく、さみしさを紛らわせるかのように、教育係からの課題をこなしていきました。
「さすがはティルさまの娘」と密かに感心されていることにも気づかずに。
ティアが十三歳に、妹のファラが九歳になったとき王妃ティルが倒れて、じきに亡くなりました。どうやら長年の過労と心労がたたったよう。
そしてここからティアの本当の不幸が始まったのです。
継母となった第二妃サブリナが、ついに本性を現したのです。
王の前でだけは貞淑な妻を演じ、裏ではことあるごとにティアに辛くあたる。
彼女は自分の娘を女王にして、自らも国母となる野心をずっと秘めていたのです。
背後に貴族の派閥を持つサブリナ。娘ファラ自身のかわいさもあって、ドンドンと影響力を強めていき、着々と準備を整えていく。
しかしティアにこれを防ぐ手立てはありません。
この頃には、周囲のほとんどがすでにあちらの陣営にくみしていたのですから。
政治の道具として他国に嫁に出そうか? 家臣に降嫁させて飼い殺しにしてやろうか? それともいっそひと思いに……、などとサブリナが悪だくみをしているとき、ボルバ王国に激震が走りました。
「荒地にグリフォンが出現! 古城を占拠」との報が、騎士団よりもたらされたのです。
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