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30 願い事
しおりを挟む起動を司る心臓のパーツをとり戻し、動けるようになったガァルディア。
まず最初にしたのは、神殿の正面入り口をふさいでいた土砂の撤去。
なんとなくずっと、うっとうしく感じていたようです。
拳の一発で、ドカンと吹き飛ぶ土砂、砕ける岩石たち。
ものすごいチカラにて、あっという間に片づけてしまいました。
おかげでスッキリした神殿の入り口。
ずいぶんと風通しがよくなりました。
ガァルディアはそのまま外へと出て、すっかり変わり果てた都市の遺跡を、ゆっくりと時間をかけて見てまわります。
ハクサもこれにつき合います。
ルクはつかれもあり、また友だち同士を二人っきりにしてあげるために、神殿に残って休ませてもらうことにしました。
かなり水色オオカミのチカラを使ったので、思っていた以上につかれていたルク。
すぐにスゥスゥと安らかな寝息を立てて、深い眠りへと。
ガァルディアとハクサの仲良しぶりを前にしたせいか、夢の中では数日前に別かれたばかりの野ウサギの兄弟や黒カラスが登場しました。
みんなそろって食事をする楽しい夢。
その食卓にはエライザやラナやハクサ、ガァルディアの姿もありました。
ヨダレをたらして、すっかり眠りこけていたルク。
目を覚ましたら、太陽は真上近く。すでにお昼前になっていました。
「おはよう、ルク。あまりにも気持ちよさそうに寝ているものだから、あえて起こさなかったのだ」
いつの間にか大聖堂へと戻って、これまでと同じような姿勢にて片膝をついているガァルディア。
「あれ? もう自由に動けるんでしょう。なんでまた元のところに戻っているの」
「あぁ、これかね。さすがにうろつき回るには、この体はあまりにも大きすぎるからね。昨夜もちょっと浮かれたせいで、あちこちと都市の遺跡を壊してしまった」
あれだけの巨体とチカラの強さですから、それもムリのないことかと納得するルク。
そこにハクサも顔を見せました。
「ようやく起きたか。まぁ、あれだけ派手に氷を出し続けたのだから、つかれもするわな」
「うん。自分でも思っていた以上につかれていたみたい」
「そのヘンについても十分に用心することだ。ある程度の余力を残しておかなければ、いざというときに動けないからの」
「なるほどー、わかったー」
ぶんぶんとシッポをふって調子のよい返事をするルク。
さすがに御使いの勇者に選ばれるだけあって才能はあるものの、年のせいかどうにも心配性にて、不安がぬぐえないハクサなのでした。
霧の老オオカミと水色オオカミの子どもとのやりとりを、微笑ましげに見つめていたガァルディア。
「ところで、ルクよ。キミは私の大恩人となるわけだが、どうすればこの厚恩に報いることができるであろうか。何か望みはないか? いまならば神殿にある機能や、都市にて生きているカラクリも動かせるので、いろいろとかなえてやれることもあると思うのだが」
ぜひともお礼がしたいというガァルディア。
とはいえルクは旅の身の上。そこで彼が考えた末にお願いしたのは、残してきた友だちのこと。どうにも気になってしかたがありません。
だから彼らをそれとなく見守ってくれないかと願ったのです。
「ふむ。ここよりずっと西にすむ野ウサギたちを守ればいいのか……。わかった、その願い確かに引き受けた」
バロニア王国の守護神の名において、彼らを守ることを誓ってくれたガァルディア。
「おいおい、気軽に請けおってよいのか? オヌシのその体だとかえって、野ウサギどもが危険ではないかのぉ」
うっかり踏みつぶしはしないかと心配するハクサ。
するとガァルディアが「しばし待て」と言って静かになりました。
双眸の青い光も消えています。ですが神像の体がかすかに振動を続けています。
なにごとかと様子を見守るハクサとルク。
しばらくすると再び神像の双眸に光が戻りました。
「よし。これでいいだろう。待たせたね」
プシューと蒸気が神像の広い背中より吹き出し、真ん中あたりがパカッと開きました。
そして中から姿を現したのは、黒いワンピースを着たかわいらしい女の子。
「うむ。はじめて動かしてみたのだが、各部位に問題はなさそうだな」
肩口で揃えられた黒髪に円らな黒目。色白で華奢な体のカラクリ人形。
愛らしい見た目に反して、落ち着いた口調と物腰。
これを見たハクサ、「もしや、ガァルディアなのか!!」とたいそうおどろきました。
あの大きな巨像の中に、こんな小さな女の子が入っていたのですから、ルクも開いた口がふさがらないぐらいにおどろいています。
「あぁ、そういえばハクサにも教えてなかったか。こいつは私の分体の一つでね。あと同じモノが四つある。キミたちが心臓をとり戻してくれたおかげで、本体だけでなく分体も起動させられるようになったんだよ」
遠隔操作にて動かせるこの分体に、野ウサギたちの面倒を見させようと提案したガァルディア。
この大きさならば彼らの迷惑になりませんから、ルクに異存はありません。ハクサもこれなら大丈夫だろうと太鼓判を押してくれました。
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