水色オオカミのルク

月芝

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25 地底湖

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 古代都市に張り巡らされた水路。
 その一つから地下へと続く階段を降りていくハクサとルク。
 ぐるぐると螺旋状になった階段が真っ暗な地の底へと続いている。
 壁のところどころに埋め込まれた石がぼんやりと光っているので、歩くのに問題はありません。ですが同じ景色が続いて、たいくつです。
 薄闇の中、延々と階段を降りるだけに飽きたルクが、ハクサに話しかけました。

「ハクサはいつからここに住んでいるの」
「ワシか? ワシが住み着いたのは、この都が滅びる少し前じゃったかの。御使いの勇者として各地を転々とした後に、ここへと流れ着いたのじゃ」
「ふーん。でもどうしてここだったの? やっぱりガァルディアさんと仲良くなったから?」
「いいや、ちがうの。ヤツと知り合いになったのは、住み着いてから後のこと。まさか神像に意志があるとは思わなかったもんでな。はじめて話しかけられたときには、たまげたもんじゃわい。おっと、ソレでどうしてこの地を選んだのかということじゃったな。それはここの景色を見た瞬間に、ピコンと閃いたからじゃよ。『あぁ、自分はこの地に来るために長い旅を続けていたんだ』とな」
「えー、そんなので選んじゃうのー」
「他の勇者どもは知らんが、ワシの場合はそうじゃったのだからしょうがあるまい」
「うーん。そうなのかなぁ」

 瞳の色がかわって、御使いの勇者に選ばれた水色オオカミは、天の国より地の国へとおもむき、各地を放浪した後に、自分の居場所を決める。
 それが勇者の使命だと長老から聞かされていたルク。
 悪いドラゴンを倒したり、囚われの姫を救い出したり、物語に登場する勇者とはあまりにも違うので、ちょっと疑っていたのだけれども、どうやら本当であったみたい。
 納得したわけではないけれども、とりあえずそういうものであると理解しておくことにルクはした。

 下へ下へと階段を降りていくほどに、空気がひんやりとしていき、水気もましていく。
 おどろくほどに単調な道行。
 眠くなってきて「くわぁ」と大アクビをするルク。

「そういえば、ガァルディアさんの大切なモノを盗った悪い人たちは、どうやって地底湖まで運んだの。やっぱりこの道を通ったの?」
「悪党どもがそんな手間をかけるもんかね。地上から地下へと通じているタテ穴から落としたんじゃよ」

 そんな乱暴なことをされて、ガァルディアの心臓は大丈夫なのかと心配するルク。
 すると「カカカ」とハクサが笑いました。

「案ずるな。その程度で壊れるぐらいならば、誰も用心してヤツの神殿の入り口をふさいだりはせぬよ」

 バロニア王国の初代の王様が造った特別製のガァルディア。
 侵略者たちはこれを壊そうとやっきになったそうですが、かすり傷ひとつつけられません。神殿そのものにも。
 心臓を奪われているので動きようのないガァルディアなのですが、それでも万一のことが起きないとはかぎりません。侵略者たちは、恐れるあまりに神殿の入り口をふさいでしまったとのことです。

 御使いの勇者のことや王国のことなどを聞いているうちに、ようやく階段も終わりが見えてきました。
 それにともなって、魔女王の呪毒が放つイヤなニオイもきつくなっていく。

「体の方は問題ないか?」とたずねるハクサ。
「くさいけどへいき」ルクは鼻の先にシワを寄せながら答えました。

 最後の一段をおり、短いトンネルを抜けると、姿を現したのは広大な地下空間。
 緑や赤、青に銀や金、いろんな色の鉱石が混ざり合った岩肌。ところどころに突き出た大きな水晶の塊。それらがぼんやりとした淡い輝きを放ち、かつて古代都市の生活を支えていたという、地底湖の水面を七色に染めている。
 湖面が波打つたびに、色彩が変化する姿は幻想的でステキ。
 ですが、ここに満ちているのはとっても邪悪な気配でした。
 あのイヤなニオイが満ち満ちています。

 湖岸にてたたずむ霧のオオカミと水色オオカミのルク。
 そんな彼らを暗い水底より見つめる何者かの姿が……。


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