水色オオカミのルク

月芝

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 東へ東へ。
 夢中になって駆けているうちに、すぐに陽がくれた。
 辺りがすっかり暗くなり、空に星がまたたく。
 丸いお月さまに照らされながら、水色オオカミが風のように疾走する。
 つかれたら木の洞やしげみの奥、あるいは大きな岩と岩が折り重なって出来たすき間にもぐり込んで眠る。そして眠りから覚めたら、再び前だけを向いて走り出す。
 野を越え、山を越え、草原を抜けて、森へと入り、目の前に現れた川。それでも立ち止まることはなく、水色オオカミのチカラで足場となる氷を造って浮かせては、その上を渡る。

 天の国から地の国へとやってきて、はじめて出来た友だち。
 野ウサギの兄弟のフィオとタピカ、黒カラスのセンバ。
 いろいろと思うところがあり、彼らの元から離れた水色オオカミのルク。
 自分で決めたことだけれども、やっぱりさみしい、かなしい。
 そんな気持ちを振り払うかのように、ルクは駆けに駆けた。

 ひとりぼっちになってから六日目のこと。
 いつしか深い山奥へと足を踏み入れていたルク。
 ゆるやかな傾斜が続く。
 視界の先には、そびえ立つとんがった山。
 スコップの先っぽのような形をしたソレを、目指すかのように走っていたところ、霧が出てきた。どんどんと濃くなっていく。
 ついには目の前のすべてが白く変わってしまい、目印の山どころか右も左もわからなくなる。陽もかげってきており、薄闇がしんしんと空から降りてくる。
 これではとても走れません。それどころかまっすぐに歩くこともむずかしい。
 しようがないとあきらめたルク。
 その日は、ここで一夜を過ごすことにしました。

 朝露のニオイで目が覚めたルク。
 明るくはなりましたが、まだまだ霧が立ち込めており、どうにも弱りました。
 これではどちらへ進んだらいいのか、まるでわかりません。

「どうしよう……」

 ぽつりとつぶやくルク。
 そんなとき、霧の中に浮かび上がった、いくつもの影。
 ボソボソと話し声みたいなのが聞こえてきます。何を言っているのかまではわかりませんが、どうやら人がいるみたい。
 地の国へとやって来てから、こちらの人間とは、まだ会ったことがありません。
 西の森の魔女エライザは、正しくは魔法使いという種族にて、人と姿形こそは似ていますが別のモノ。
 少しためらいましたが、このままでは身動きがとれません。だから勇気を出して霧の中の影に声をかけてみることにしたのですが……。

「ねぇ、ボクは水色オオカミのルク。ちょっと道を教えてほしいんだけど」

 そこまで言って、しばらく待ちましたが、返事はありません。
 影たちは、あいかわらずブツブツと何ごとかを言っては、霧の中をうろうろとしているばかり。
 聞えなかったのかと、今度はもっと大きな声で話しかけてみましたが、やはり反応はありません。違う影にも話しかけてみましたが、そちらも同じ。
 しかたがないので、相手に向かってゆっくりと近づくルク。
 ですが、すぐそばにまでいくと、フッと影がかき消えてしまう。
 その時になってルクは、ようやく何かがおかしいことに気がつきました。
 人がいるわりにはニオイがまるでしないのです。
 集中して鼻先をクンクンと動かし、周囲を探る。
 たしかに何者かの気配はあります。でも、それはとっても希薄にて、なんだかぼやけており、どうにもハッキリしません。

「あれ? おかしいな。『いる』はずなのに『いない』だなんて」

 小首をかしげる水色オオカミの子ども。
 周囲をうごめく影。
 かわらず濃い霧。
 得体の知れない状況が続き、怖くなってきたルク。彼が思わず駆け出しそうになったとき、「話しかけるだけムダじゃよ。そいつらは、ただの残りカスじゃからな」との声が霧の中に響く。

 四方を埋め尽くしている白い霧。
 その一部が渦をまき、いっそう濃くなったかと思うと、その中から浮かび上がったのは灰色のオオカミの姿。

「ワシは霧のオオカミのハクサ。忘れられた、いにしえの地へようこそ。水色オオカミの子よ」


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