水色オオカミのルク

月芝

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05 黒いカラス

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 夜明けとともに朝モヤの中を出発した一行。
 草原をお昼前には抜けて、続く花畑へと入りました。
 なだらかな丘陵地帯に、黄、白、青、色とりどりの小さな花が咲いており、辺りにはいいニオイが漂っています。

「ルクの言った通りだ。本当にお花畑があったよ」
「こいつはキレイだ。あぁ、ティーのやつにも見せてやりたかったなぁ」

 兄弟たちは景色に目を奪われつつも、心はやはり病床の末妹にあります。
 だからいっそう、魔女の持つ花の雫を必ず手に入れようと、決意を固めるのでした。

 そんな三匹の前に、姿を現したのは、花畑の中に横たわる一羽の黒カラス。
 用心して近づと、カラスがわずかに首を動かして、ルクたちを見ました。

「かわった色をしたオオカミに、野ウサギどもか……。へんてこな組み合わせだが、ちょうどいい。オオカミさんよぉ。ひと思いに、あっしの首をガブリと、やっちゃあくれないかい」

 いきなりかみつけとは穏やかではない。
 理由をたずねたら、飛んでいる途中にうっかり腰をグキリとひねって、痛さのあまり、花畑に落ちてしまったという。
 飛べない鳥に生きる価値はない。だからこのまま朽ちるに任せていたのだが、思いのほかにこの体がしぶとい。かといって苦しみが続くのもしんどい。
 だから、ひとおもいにやっちゃってくれと、センバという名前のカラスは言った。

「えー、ボク、イヤだよー」
「そこをなんとか。あっしを助けるとおもって」

 顔をしかめて嫌がるルク。そもそも水色オオカミは他者の血肉を欲しない。
 それを知らないセンバは、カアカアと鳴いてお願いするばかり。
 オオカミと寝ころんだカラスの押し問答。
 見かねたタピカが、「そんなに楽になりたいのなら、オレがやってやるよ」と言い出して、落ちていた石を手にとる。
 寝ているカラスの頭に、石をふりおろそうとする弟。
 あわてて止めに入る兄のフィオ。

「やめないか! これから魔女に会って妹を助けようってときに、縁起でもない」

 兄のフィオに諭されて、それもそうかと考えを改め、石を投げ捨てる弟のタピカ。
 そんな兄弟のやりとりを目にしたセンバ。

「おや、アンタたちはあの魔女のところに行くのかい? だったらこの先のことを教えてやるから、あっしの願いを叶えてはくれないだろうか」

 カラスのセンバの言いようからして、この先にも、まだ何かがあるみたい。
 妹を助けるためにも、昨日の森のような難所があるのならば、事前に知っておきたい。だけれども、そのために他者の命を狩るのは違うような気がする。
 たとえ本人が強く望んでいたとしても。
 どうしたものかと兄弟が悩んでいると、ルクが言いました。

「かみ殺すのはイヤだ。だけど苦しんでいるのに置いていくのもイヤだ。だからいっしょに連れて行ってしまおう。そして魔女さんに治せるか聞いてみようよ」

 この提案には野ウサギの兄弟も賛成。

「ちょ、ちょっと待って! あっしはこのキレイな花園で静かに眠りたいだけなんだ。だから、だから、あーっ」

 カラスのセンバの抗議はムシ。
 ルクはご希望どおりにセンバの首筋を傷つけないようにやさしくくわえると、自分の背中にポイっとのせました。
 このまま動くと落ちてしまうので、フィオがかばんから取り出した蔓(つる)のロープにて、ぐるぐると縛りつけます。
 これを手伝っていたタピカ。「オレ、いいこと思いついた!」と言い出し、ちょっと席を外します。
 そして戻ってきた手には、どこかで拾ってきた木の皮が二枚。

 カラスのセンバをルクの体にくくりつけたロープのはしを、だらりと後方へと伸ばし、それを掴むフィオとタピカ。足元にはさっき拾ってきた木の皮を敷きます。

「これでヨシっと。はじめはゆっくりでたのむな」
「わかったー。じゃあ、いくよー」

 タピカの合図でルクが、ゆっくりとうごき出す。
 とたんに引きずられるような形にて、フィオとタピカの体もスルスルと動き出した。
 水色オオカミの犬ゾリが花畑を進んでいく。
 思いのほかにうまくいったと、タピカは大喜び。
 これまでとは比べものにならない移動速度にて、フィオも大喜び。
 これならば、きっと、旅の遅れを取り戻せる。
 ルクもみんなの役に立ててうれしい。思わずシッポが左右にふさふさゆれる。
 ギャアギャアとうるさいのは背中のセンバ。
 なにせオオカミの背はゆれるので、乗り心地はイマイチですから。
 あと痛めている腰にも響きますので。


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