106 / 106
106 さくら、はらはら
しおりを挟む自室の鏡を前にしては、くるくるふり返りっては制服姿を確認する。
チェックのスカートの裾がひるがえっては、ふわり。
ちょっとブレザーの袖が長くて、肩のあたりがぶかぶかしているのはご愛敬。
どうせすぐに背がのびるからと、少し大きめのサイズなのだ。
「よし、どこもヘンなところはないわね。いや、それどころか我ながらけっこうイケちゃってるのでは?」
なんぞとわたしがニヤニヤしていたら、「孫にも衣装だな」「スカートのたけ、ちょっと短くないかのぉ」とジンさんとカクさんが余計なことが言う。
古ぼけた人体模型と骨格標本。
今日から中学生になるうら若き乙女の部屋にあるまじきインテリア。
では、なぜジンさんとカクさんがうちに居候しているのかとえば、廃棄処分されそうになっていたところを引き取ったからである。
試練の儀が終わってパーティーも解散となったものの、小学校の理科準備室へと戻ったジンさんとカクさんを待っていたのは、残酷なリストラ宣告であった。
じつは倉庫の肥やしであった二宮金次郎像も、仲良くいっしょに処分されることに決まっていたのだけれども、彼だけは早々に市役所の方から「ぜひうちで引き取りたい。立派な人物の銅像なんだから市庁舎の一階フロアに飾りたい」との打診があったのだ。
市長いわく「はぁ、歩きスマホを助長する? バカを言っちゃいかん。なんでもかんでもイチャモンをつければよいというものではない。時代背景をちゃんと考慮せんか。ダメなことはダメと周囲の大人たちがその都度ちゃんと教えればよろしい。むしろその程度の想像力も欠如しておるヤツの方がよっぽど危ういわい」とのこと。
至極ごもっともにて。
かくして三期目を勤め市民からの信任厚き市長の鶴の一声にて、金次郎像だけはリストラからの大逆転にて出世を果たす。
でも、残されたジンさんとカクさんは「納得がいかん!」「あいつ、授業の手伝いとか何もしておらんではないか!」とブーブー文句を垂れたあげくに、「ミユウ、どうにかしてくれ」と泣きついてきた。
共に数々の冒険を繰り広げた仲にて、このまま廃棄処分されるのはさすがにしのびない。
そこでわたしはダメ元で親と空知先生に「あのぅ、いらないんなら、うちで引き取りたいなぁ……なんてね」と頼んでみたら、あっさり許可された。
「いまのご時世、処分するのも金がかかるんだよ。焼却炉で燃やしたら叱られるし。かといって学校の備品をネットオークションとかに出品するのも、いろいろ手間がかかるからな。
こちとら新学期の準備でそれどころじゃないんだ。余計な仕事なんぞはしてられん。持っていってくれるんなら、むしろ万々歳だ。なんなら先生が仕事終わりに、鈴山の家に届けてやろうか?」
渡りに船だと空知先生は即OKである。
でも両親の方はちょっとしぶった。
「どうしてあんな不気味なモノを欲しがるのかしらん」
「やはり事故の後遺症では? もう一度大きな病院で診せたほうが……」
なんぞとヒソヒソ、わりと本気で心配された。
そりゃあ、いきなり人体模型と骨格標本が欲しいなんて娘が言い出したら、まともな親なら誰だって戸惑うよね。
だからそこは「この前の検査入院の時にステキな看護師さんにであって、医療関係に進むのもいいかなぁ」と適当を言ってごました。
もちろんウソである。お父さん、お母さん、ごめんなさい。
医者を目指すことは、勉強をがんばるということ。
そう勝手に解釈した両親は「あら、そういうことならしょうがないわね」「だな」とあっさり手の平を返した。
っと、そんなことを思い出しているうちに、時計をみれば八時になろうとしていた。
うちから進学先の中学校までは徒歩でニ十分ほどかかる。
「げっ、いけない! いきなり遅刻とかありえない」
悪目立ちにもほどがある。
わたしはカバンを引っ掴むと、ドタバタと自室を飛び出した。
「う~遅刻、遅刻~」
と駆けながら通りがかったのは、咲耶神社へと続く石段だ。
時間がないから素通りしたけれども、やっぱり戻って挨拶をしていこうとしたところで、見上げた先に居たのは、竹ほうきを手に境内の掃除をしていた碓氷である。肩にウグイスの姿もあった。
わたしを見た碓氷は口をへの字に曲げては仏頂面にて、シッシッ。
「いいからとっとと学校へ行け。仮にも見習いの分際で、初日から遅刻なんぞというみっともないマネをしたら、承知せんからな」
そうなのだ。
試練の儀のあとに佳乃さまと面談をしたわたしは、結局、神座とやらを引き受けることにした。
でないと佳乃さまが安心して昇殿できないからね。
わたしにとっては命の恩人みたいなものだし、おばあちゃんやご先祖さまたちも、たいへんお世話になったみたいだから、ここいらでいっちょう恩返しをしておかないと。
あと、もし断って自分が住む町にヘンテコな神さまとか来られても迷惑だし。冗談抜きでシャレにならないワガママな神さまとかもいるんだってさ。お~怖わ。
だったらわたしが……ということになった。
でも、さすがにいきなり神さまになれるわけがなくって、学業のかたわらまずは見習いとして修行を積むことに。なおジンさんとカクさんも従者見習いとなった。
朝っぱらからイケメンに叱責されて、わたしは「うひゃあ」
首をすぼめて「いってきまーす」
桜の花びらが舞う並木道を元気よく駆けていく。
鈴山海夕、12才。
ピカピカの中学一年生。
この春から神さま見習い始めました。
―― 下出部町内漫遊記(完) ――
10
お気に入りに追加
7
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。
第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。
のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。
新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第三部、ここに開幕!
お次の舞台は、西の隣国。
平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。
それはとても小さい波紋。
けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。
人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。
天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。
旅路の果てに彼女は何を得るのか。
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」
からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
辺境のド田舎を飛び出し、近隣諸国を巡ってはお役目に奔走するうちに、
神々やそれに準ずる存在の金禍獣、大勢の人たち、国家、世界の秘密と関わることになり、
ついには海を越えて何かと宿縁のあるレイナン帝国へと赴くことになる。
南の大陸に待つは、新たな出会いと数多の陰謀、いにしえに遺棄された双子擬神の片割れ。
本来なら勇者とか英傑のお仕事を押しつけられたチヨコが遠い異国で叫ぶ。
「こんなの聞いてねーよっ!」
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第七部にして最終章、ここに開幕!
お次の舞台は海を越えた先にあるレイナン帝国。
砂漠に浸蝕され続ける大地にて足掻く超大なケモノ。
遠い異国の地でチヨコが必死にのばした手は、いったい何を掴むのか。
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部~第六部。
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?四本目っ!海だ、水着だ、ポロリは……するほど中身がねえ!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?六本目っ!不帰の嶮、禁忌の台地からの呼び声。」
からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。
いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑!
誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、
ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。
で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。
愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。
騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。
辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、
ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第二部、ここに開幕!
故国を飛び出し、舞台は北の国へと。
新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。
国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。
ますます広がりをみせる世界。
その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか?
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から
お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?六本目っ!不帰の嶮、禁忌の台地からの呼び声。
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
国内外を飛び回っては騒動に巻き込まれつつ、次第に時代の奔流に呑み込まれてゆく。
そんなある日のこと。
チヨコは不思議な夢をみた。
「北へ」と懸命に訴える少女の声。
ナゾの声に導かれるようにして、チヨコは北方域を目指す。
だがしかし、その場所は数多の挑戦者たちを退けてきた、過酷な場所であった。
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第六部、ここに開幕!
お次の舞台は前人未踏の北方域。
まるで世界から切り離されたような最果ての地にて、チヨコは何を見るのか。
その裏ではいよいよ帝国の軍勢が……。
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部~第五部。
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?四本目っ!海だ、水着だ、ポロリは……するほど中身がねえ!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。」
からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる