98 / 106
098 蝋燭と人形劇
しおりを挟む橋がかけられていない。向う岸にある建物へと行くには池を迂回するしかない。
一行は戸惑いつつも地面に敷き詰められた玉砂利を踏みしめては建物の正面入り口へと。
するとそこにいたのは紫の袴をはいた神職姿の青年であった。
「どう?」と百人に問うたら百人ともに「イケメン」と答えるであろう容姿だ。
もしも町中で見かけたら、つい二度見してしまうほどに整った風貌をしている。
惜しむらくはやや目に険があること。
口元も固く結んでおり、いかにも「無駄口は叩かない」といった感じにて。
自分にも他人にも厳しくて、とっつきにくそう。
もっともそれすらもが「きゃあクール」とか「凛々しくてステキ」なんぞと良いように勝手におもわれちゃいそうだけど。
「ここまでよく来たな、スズヤマミユウ。まずは大儀であると褒めておこう。自分は碓氷(うすい)という」
いきなりのフルネーム呼び!
袴を着たイケメンは声もまたイケメンであったけど、その態度の端々からにじみでていたのは、わたしの来訪をあまり歓迎していないという気持ちであった。
もっともこちらも来たくて来たわけじゃないから、しぶしぶなのはお互いさまである。
「第七にして最終の試練の儀は『観劇』だ」
用意されてある席に座っては人形劇を観る。
観終わったらその舞台の近くに灯されている燭台の火をフッと吹き消す。
人形劇は全部で四幕あって、北翼廓、南翼廓、尾廓と順番に回り、最後が本堂での公演で締めとなる。
碓氷の話にわたしは片眉をピクリ。
額面通りに受け取れば、とても楽ちんである。
これまでのドタバタした喧騒ぶりがウソのよう。
が、そんなことありえるのか? いよいよあとがない状況だというのに。
どうにも怪しい、うさん臭い。
というのが、わたしの率直な感想である。
「本当にそれだけなの?」
何か裏があるんじゃないかとかんぐり、わたしは念を押すも碓氷はわざわざ「神かけて」とさえ言ってのけた。
場所柄からして、さすがにウソはなさそう。
肩にとまっている一枝さんの方を見れば、彼女も小さくうなづいたもので、わたしは「わかった」と了承した。
〇
ここは十円玉に刻まれている平等院鳳凰堂にそっくりだ。
でも明確にちがう点がひとつだけあった。
それは鳳凰堂中堂に鎮座しているはずの阿弥陀如来坐像がいなくて、代わりに十二単を着たお姫さまの像が飾られてあること。
平安絵巻からそのまま飛び出してきたような雅な姿だが、ややうつむいており、扇子で隠しているから顔はわからない。すき間からチラッと額の生え際の辺りが見えるだけ。
もっと近寄ればのぞけるのだろうけど、手前には柵が設けられており、そこから先には行けないようになっていた。
ようは無粋なマネは許さないということ。
「ほぅ、これは美しい。まさに深窓のご令嬢だな。どうせならばこんな女性とごいっしょしたかった」
「うむ、右に同じ。たおやかたおやか。やんごとなき姫君だのぅ」
柵越しにジンさんとカクさんは惚けている。
へーへー、悪かったわね、小学校を卒業したばかりのガキンチョのお供をさせて。
わたしは「けっ」と唇を尖らせる。
でもそのタイミングで一枝さんはぼそり。
女人の像を前にして「……あれは佳乃さま」とつぶやいたのを、わたしは確かに聞いた。
佳乃さまは昨夜神社の祭神であらせられる。そして一枝さんがお仕えする主人でもある。
一枝さんが敬うのはわかる。
だって彼女のご主人さまだもの。
でも、そんな女神さまをどうして碓氷が祀っているの?
そもそも碓氷や彼の仲間たちは、佳乃さまに禅譲を迫るために今回の事を起こしたんだよね?
いわば敵同士である。
なのにその敵を大事にしている。
少なくとも碓氷は粗略に扱うつもりはないらしい。
七葉たちと一枝さんもまったく知らぬ仲ではないということは、これまでのやり取りやいきさつで、おぼろげながらわかっている。
対立はしているけれども、心の底から憎み合っているとか、いがみあっているという風ではない。
そうなると根本的な問題として「試練の儀って何なのかしらん?」と首をかしげることになるわけで、わたしは「う~ん」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。
Mayoi
恋愛
ウェスリーは婚約者のオリビアの出自を調べ、公爵の実の娘ではないことを知った。
そのようなことは婚約前に伝えられておらず、騙されたと激怒しオリビアに婚約破棄を告げた。
二人の婚約は大公が認めたものであり、一方的に非難し婚約破棄したウェスリーが無事でいられるはずがない。
自分の正しさを信じて疑わないウェスリーは自滅の道を歩む。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる