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054 卵ポコポコ
しおりを挟むいよいよレースが始まった。
「いくぞ、せ~の!」
「おうとも!」
「よっしゃーっ!」
ジンさんの号令に応えて、カクさんとわたしは気合いを込めてペダルを踏んでは「えっさ、ほいさ」
「ガーンとぶちかましてやんな」
船首にとまっている一枝さんが「チチチ」とさえずる。
「「「うぉおぉぉぉぉぉ」」」
三人そろってペダルをガリガリ漕ぐ。
これにより船体後部にある水車がギュギュル回っては水をかき揚げ、推進力を得たボートが前進を開始した。
他のチームも同じく懸命な足漕ぎ、各艇の後方に水飛沫が盛大にあがっては一斉にスタートする。
だが、そんな六チームのなかで突出するチームがはやくもあらわれた。
頭ひとつ分抜け出したのはオオカミさんチーム。彼らが乗るハクチョウタイプのボートはどうやら出足が速いらしい。
スタート直後、みながもたついているのを横目に、本物さながらの優雅な動きにてスイスイ、水面を滑るようにして進んでいく。
動力となる水輪が見えないのは、完全に水中に潜っているから。おそらくは船体の底についているのだろう。
見えないところで必死に水かきをしているくせして、ツンと澄まし顔なのもまた本物のハクチョウのようだ。
最高速や加速はさほどではないが、開始一分も経たずにオオカミさんチームのハクチョウボートはトップスピードにのった。
いきなり後塵を拝することになったわたしたちは、これを「ぐぬぬ」と悔しがる。
が、ことはそれだけでは終わらない。
先行飛び出しに成功したオオカミさんチーム。
男女二人組のうちの女の方が、ちらりと後方をみては口元を手で隠し、さも愉快そうな仕草をする。マスク越しに「プププ」と、のろまなわたしたちをあざ笑っているかのよう。
でも、それだけじゃなかった。
「ポチっとな」
あろうことか、オオカミさんチームの女はこの最序盤ともいえる場面で、いきなりボタンを押してシークレット機能を発動させたのである。
ポン、ポン、ポポポ、ポンポン、ポポポポ、ポンポポン。
ハクチョウのお尻からポコポコ放流されたのは……
――へっ、卵?
ぷかりぷかりと浮かんでいる。
前方に大量の卵たちがばら撒かれた。
とたんにグイッとハンドルを切ったのはジンさんである。
「はっ、まさかアレは! いかん、だとしたらまずいぞ。すぐに漕ぐのをやめるんだっ」
血相を変えたジンさんに命じられて、カクさんとわたしはピタっと足を止めた。
わたしたちのボートは進路上に浮かんでいる卵群を回避すべく、岸近くへと寄っていく。
阿蓮のマガモボートは反対に中央へと迂回し、ウマさんチームのフォルクスワーゲンタイプもそれに続く。
ゴリラチームのカヤックタイプは、オールを逆に回して急停止をした。
一方で「知ったこっちゃないね」とばかりに突っ込んで行ったのが、アヒルさんボートを駆るポメラニアンチームだ。オバちゃんたちは強引に突破するつもりのよう。
だがしかし――
ちゅど~~~~~~ん!
アヒルさんボートの船体に卵が接触したとたんに、盛大に爆ぜた。
連鎖して他の卵たちも次々に爆発していき、幾本もの大きな水柱が立つ。
卵の正体は――機雷!
これがハクチョウ型のボートのシークレット機能。
あのバカカップルどもめっ、やりやがったな! いきなり切り札をきってきやがった!
いくら機雷が設置型の武器とはいえ、まさかこのタイミングで仕掛けてくるだなんて、大胆不敵にもほどがある。
ジンさんがいち早く危険を察知してくれたおかげで難を逃れたもの、横波と爆風を受けてボートがガクガク揺れたもので、わたしは「キャーッ」とフレームにしがみつく。
わたしたちとは反対方面へと逃れた阿蓮とウマさんチームも同じく横波を受けたものの、そちらはさほど影響を受けず。ひらけた中央へと向かったおかげで余波がある程度分散した模様。
後方に留まる選択をしたゴリラチームも被害は軽微、でも波に押し戻されてしまい、おおきく出遅れることになってしまった。
そしてポメラニアンチームはまともに機雷群へと突っ込んでしまったもので、ち~ん、アーメン、憐れ海の藻屑(もくず)ならぬ湖の藻屑に……
……なっていない!?
「「「「はあぁあぁぁぁぁぁん」」」」
その光景を目にして、わたし、ジンさん、カクさん、一枝さんらはそろって素っ頓狂な声をあげた。
オバちゃ――げふんげふん、もといポメラニアンチームが操るアヒルさんボートなのだが、バッと両翼を広げては空を飛んでいるではないか。
いや、より正確にはジャンプをしている。
どうやらあれこそがアヒルさんボートに備わったシークレット機能であったらしい。
死地から切り札を使って見事に脱出を果たした模様。
わたしたちがポカンと呆気にとられているうちにも、アヒルさんボートはグングン飛んでいき、ついには先行していたオオカミさんチームをも追い抜いてから、ドボンと着水、一躍トップに踊り出た。
いきなり大技の応酬。
レースは序盤からの波乱続きにて。
はやくも混迷の度合いを深めつつあった。
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