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024 絵馬、一枚目
しおりを挟む追いかけてくる岡っ引きたちをどうにかまいた。
長屋の奥にある稲荷の祠の裏でコソコソ身を潜めつつ、わたしたちは一問目のナゾナゾを解くべく知恵を絞る。三人寄れば文殊の知恵というやつだ。
『いたちとたぬき、たすといくつ?』
という問題を前にして、わたしたち三人と一羽は「う~ん」と首をひねる。
「ふつうに足したら、二匹だけど……」
「いやいや、それじゃあナゾナゾでもなんでもないだろうに」
「ならば足の数を合わせるとか、シッポの数を合わせるとか、あるいは歯の数とか」
「足だと八、シッポは二になるが……はて? いたちやたぬきは、歯が何本生えていたかのぉ。ちなみにそれがしは三十二本あるぞ」
「くっ、さすがの吾輩も獣どもの歯の数までは知らん」
あーでもない、こーでもないと話し合うも、なかなか答えが出てこない。
そのうちにジンさんはしゃがみ込んでしまう。熟考するあまり自分の世界に入ってしまったようだ。拾った木の枝で地面に『いたち』と『たぬき』と書いては、ブツブツにらめっこをしている。
だから邪魔をせずにしばらく放っておいたら……
「あっ、わかった!」とジンさんが急に立ち上がった。
「ハハハ、なんてことはない。むずかしく考えすぎた。文字通りに『いたち』と『たぬき』を合わすだけでよかったんだ」
『いたち』はそのまま。
『たぬき』は『た』を抜くとの意味。これはナゾナゾでは定番の使い方だ。つまりはマイナスの『た』となる。
そして『いたち』にマイナスの『た』を足せば、答えは……
「「「いち!」」」
わたしと一枝さんとカクさんが同時に叫んだ。
ジンさんがうなづく。
「おそらく一枚目の絵馬は、『いち』にちなんだ場所にあるはずだ。ミユウ、どこか心当たりはないか?」
わたしはむーんと口をへの字にして考える。
この映画村のある下出部地区には、モニュメントや旧跡のようなものはない。これぞ『いち』というようなシンボルもない。
だとすれば、あとは……
「う~ん、壱さんっていう名前の人ならいるけれど」
映画村の敷地内、南南東の隅の辺りが実際の住所の一番地に該当し、そこに壱さん宅はある。
一番地の壱さん。
珍しい苗字と組み合わせゆえに、地元の子どもたちの間ではちょっとした有名人である。とはいえ当人は可愛らしいお婆ちゃんだけれども。
他にはそれらしいものを思いつかない。
だから、とりあえず行ってみようということになったのだが。
長屋から出たところで「あっ」
ばったり遭遇したのは岡っ引きの手下である。彼ひとりにて、どうやら手分けしてわたしたちのことを探していたらしい。
地味な見た目ゆえに気づくのが遅れた。
手下が「見つけたぞ!」と言うなり、口にくわえたのは小さな竹の筒。
何をするのかとおもえば、いきなりピリピリピリーッ!
かん高い音が鳴った。
手下が吹いたのは呼子笛(よびこふえ)という道具で、現代でいうところのホイッスルである。
音を聞きつけて、岡っ引きたちがゾロゾロと集まってきたもので、わたしたちは「うわぁーっ」と逃げ出した。
それを「待てーっ」「御用だ」と捕り方連中が追ってくる。
懸命に逃げる途中――
「このまま固まっていては、まとめてお縄にされてしまうぞ。ここはいったん散って、一番地で集合しよう」
と言い出したのはジンさんだ。
たしかにその通りにて、だからわたしたちは「それじゃあ、また後で」「おうとも」と次の辻で三方に別れて、バラバラに逃げた。
なお一枝さんはわたしの付き添いなので、こっちについてきた。
でもって、なぜだか追っ手の大半もわたしの方へとついてくる。
「げっ、なんでこっちにばかりくんのよっ! ジンさんとカクさんの方にも行きなさいよ!」
わたしが文句を言えば、肩にとまっている一枝さんが「チチチ」とさえずった。
「なんでって……そりゃあ一味のなかで一番足が遅くて、捕まえやすそうな小娘だもの。弱そうなのから狩られる。自明の理というやつさね」
理不尽この上ないけど、納得の理由であった。
もしも自分が逆の立場だったら、きっと同じことをしただろう。
だからわたしは、黙って足を動かすことに専念する。
一番地を目指しつつ、逃げるうちにお堀のところにまでやってきた。
好都合なことにすぐそこに橋もある。
これを渡れば目的地は、もう目と鼻の先……
だからさっそく渡ろうとしたのだけれども、橋のたもとにこんな立て札があった。
『このはしわたるべからず』
それをチラッと目にしたわたしは――はは~ん。これはアレだね。ポクポクチ~ンで有名な小坊主さんのトンチだ。ようは、はしっこを通らなければいいんでしょ。
というわけで、橋の真ん中をズンズン進む。
でも、ちょうど橋のなかほどまで来たところで、ピキリパキリ。
足下で不穏な音がしたとおもったら、いきなり橋板が割れた。腐ってもろくなっていたみたい。
板を踏み抜いたわたしは、そのままお堀にドボン。
あっ、一枝さんなら濡れるのを嫌って、さっさと飛び去ったから大丈夫。
そしてすっかり濡れ鼠になったところで、引き揚げられたわたしは御用となってしまった。
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