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013 千歌のナゾ
しおりを挟むスタート地点である六年四組に戻った。
「くしゅん」
わたしはびしょびしょである。
でも、その首には一枚のスポーツタオルがかけられてあった。タオルにはほんのりフローラルな柔軟剤の匂いが薫っており、ふんわりやわらか。
どうやらこれで濡れた体を拭けということらしい。
親切なのかイヤ味なのかは判断に迷うところだが、風邪をひきたくないのでありがたく使わせてもらう。
わたしが頭をごしごし拭いていると、先に戻っていたカクさんが「その様子だと五番目は水攻めか?」と訊ねてきたもので「うん」とうなづく。手洗い場のところでやられたことをかいつまんで説明する。
話を聞き終えたカクさんは「水を粗末に扱うとは、けしからん」と怒った。「これは是が非でもこの迷宮を抜けて、あの童女の尻をひっぱたいてやらんとなぁ」
骨格標本にお尻ペンペンをされているおかっぱ頭の女の子。
その姿を想像し、わたしはププッと噴き出してしまった。
ほどなくして――
パカンと掃除用品入れのロッカーの扉が開き、バラバラになった人体模型が転がり出てきた。
「アイタタタ、やれヒドイ目にあった」
と、ジンさんはぶつくさ。
わたしたちは床に散らばったパーツを拾い集めるのを手伝ってあげる。
すっかり慣れたものにて、いまでは肝臓でも心臓でもへっちゃら。拾ったパーツを「はい、これ」と所定の場所にハメ込む。
「で、どうだった?」
「いかがであった?」
体の復旧がてらジンさんに訊ねたら「すまん。六番目はどうにかしのいだんだが、七番目でやられた」とのこと。
六番目の試練は「うわん!」
背後からいきなり吠えかけられたんだとか。
ずいぶんと原始的だが、だからこそドッキリ効果はバツグン。
もしもわたしだったら、飛び上がって腰を抜かしていたことであろう。
では、どうしてジンさんがやり過ごせたのかといえば「いやはや、近頃、歳のせいかすっかり耳が遠くなって……」という事情であった。
ジンさんってばやたらと大きな声で話していたのは、そのせいだったのかと、いまさらながらにわたしは知った。
自分の声の音量がわかっていないからこそのガナリ声。
ご近所のお年寄りなんかもそうであった。
う~ん、人体模型用の補聴器って売ってるのかしらん。
七番目の試練は――不明にて、よくわからないとのこと。
なんでも、いきなりガツン!
頭の上から何かが落ちてきて、ぶっ倒れてしまったんだとか。
「上から……ねえ。金タライとかかな」
最高視聴率50%越えを果たした伝説のコント番組が発祥とされる、タライ落としゲーム。
あいにくとわたしはリアルタイムで視聴はしていないけど、総集編の特番でならば見たことがある。毎週毎週、生放送にて舞台の上で大仕掛けなドタバタコントを繰り広げていたというのだから驚きだ。
(あっ、そういえばこの学校迷宮って、ちょっとあの番組の仕掛けに似てるかも……)
「のぉ、ミユウや。なにゆえタライなのじゃ?」とカクさん。
「ふん、おまえはそんなことも知らんのか。タライ落としはバラエティの罰ゲームの定番だぞ」
「いや、ジンよ。だからなぜタライを落とすのじゃ? あれは水を汲んだり、溜めたりするための道具であろう」
「なぜって……そりゃあ面白いからだろう」
「面白い? どこが? どういう具合に?」
「えっと……そうマジメに突っ込まれても困るというか」
ヘンなスイッチが入ったのか、カクさんの執拗な追求にジンさんはしどろもどろ。
しまいには、ふたりしてわけがわからなくなり、そろって「んんん?」と首をかしげてしまった。
そんな人体模型と骨格標本は放置して、わたしと一枝さんはサードチャレンジについての相談をする。
「いちおうこれで七つの試練の内容は明らかになったけど」
「チチチ、問題は七番目か。とりあえず頭の上に気をつけていればいいだろう」
「うん。ようやくゴールが見えてきたよ。あとは廊下を渡り切って、向こうの壁にタッチするだけだね」
二階廊下の攻略の目途はついた。
わたしは喜ぶも、一枝さんはクリクリ首を回し「だといいんだけどねぇ……、なにせ相手はあの千歌だからなぁ」とまだ不安そう。
「えっと、そもそもの話なんだけど、あの子って何なの? いや、七葉とやらのうちのひとりなのは知ってるけど」
じつはずっと疑問だった。
わたしたちを学校迷宮なんていう所に閉じ込めては、いろいろとイジワルをしてくる。けど、なんだかんだでこっちがケガをしないように配慮してくれているっぽいし、濡れたらタオルまで貸してくれるし。
(七葉は咲耶神社の神座を狙う悪いヤツのはずなのに……)
一枝さんはあの子と面識があるようだから、わたしは思い切って訊ねてみたのだけれども。
この質問に対する一枝さんの返事は「この学校迷宮をクリアしたらおのずとわかるさ」とはぐらかされてしまった。
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