下出部町内漫遊記

月芝

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010 だるまさんがころんだ

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 ようやくだ。ようやく校舎の二階までやってきた。
 そこで海夕ら一行を待ちかまえていたのは、腕組みにて仁王立ちする二宮金次郎像。
 いきなりの登場に驚かされたけど、もっとびっくりしたのが廊下の光景である。

「げっ、ウソでしょう……」
「へぇー、こうきたか」

 わたしはあんぐり、一枝さんは「ほう」と目を細めては彼方をにらむ。

「むむむ」
「なんと面妖な」

 ジンさんはうなり、カクさんはいきなり夜になったことを訝しんでいる。
 そうなのだ。
 いままで明るかったのが、一転して暗くなっていた。
 窓の外も漆黒にて、廊下にあるのは非常灯の明かりだけ。緑色のランプの弱々しい光に照らされた床が歪み、ゆらゆら波打っているように映る。
 いちおう視界は保たれているものの、奥へ向かうほどに闇が濃くなっていく。ひとクラス分ほども離れたら、もう真っ暗。

 昼から夜へ、いきなり時間が跳んだ。
 これにより校内の雰囲気がガラリと様変わり。
 まるでお化け屋敷みたい。心なしか気温も下がっており、わたしはブルルと身震いする。

「こんな不気味なところで二宮金次郎像を相手に……だるまさんがころんだ?」

 それも少々変則ルールにて。
 よくある『動く』『動かない』だけでなく、背後から鬼役の金次郎像が追ってくるのだ。
 掛け声を唱えている間のみ動けて、終われば静止せねばならない。それは金次郎像も同じだが、途中で追いつかれてタッチをされたらアウト。なお万が一、鬼がアウトになった場合は廊下のスタート地点に戻る。
 ようは『だるまさんころんだ』に『鬼ごっこ』がミックスされたような遊び。

 わたしが「ムズカシイそう!」と嘆けば、「趣味が悪いな」「まったくだ」とジンさんとカクさんが追従する。
 そう言ったふたりだが、違和感なく暗い廊下に馴染んでいた。
 でも、一行がわちゃわちゃしていられたのはここまで――

『だ~るまさんが~~~~』

 心の準備が整う前に、いきなり掛け声が始まってしまう。
 校内放送で聞こえてきた声は、あの千歌というおかっぱ頭の女の子であった。
 このままスタート地点にジッとしていたら、すぐに金次郎像に捕まってしまう!
 戸惑いながらも、わたしたちは動き出す。

  〇

『――こ~~ろ~ん~だ』

 掛け声が終わるのと同時に、わたしたちはピタリと止まった。ちなみに一枝さんはわたしの肩にくっついて楽をしている。
 ギギギと目だけを動かし、うしろの様子をうかがう。
 金次郎像はスタート地点から微動だにしていない。ハンデのつもりか?
 ジンさんとカクさんは順調な滑り出しにて、おもいのほか進んでいる。
 安堵しているとふたたびスピーカーから掛け声が流れ始める。

 二巡目の掛け声のさなか、ついに金次郎像が動いた。
 一歩のスタンスが大きい。せっかく稼いだ距離が瞬く間に潰されていく。
 それでもまだこちらが優勢であったのだけれども、三度目の掛け声が終わり、静止中のときにソレは起きた。

 チャリン。

 不意に聞こえたのは小銭が落ちる音。
 おもわず誰もが振り返らずにはいられない、魅惑の音色。
 わたしもつい顔を向けそうになったけど、いまはゲーム中だからグッとこらえた。
 だがしかし――

「おっ、百円みっけ! ラッキー」

 ジンさんは自分のところに転がってきた小銭をひょいと拾ってしまう。
 とたんに『はい、そこの人体模型、アウト~』との校内放送が流れて、ジンさんの姿が廊下から消えた。足下にあらわれた穴に落ちたのである。
 不測の事態に、わたしは目を見張る。

 ――なんと姑息な、あの百円玉はトラップだ!

 ぐぬぬ、このゲーム……想定していたよりも、ずっともっとイジワルだ。
 背後から金次郎像で追い詰めるだけでなく、あの手この手でこちらに揺さぶりをかけては邪魔をするつもりなのだ。
 二階の試練もひと筋縄ではいきそうにない。


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