下出部町内漫遊記

月芝

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005 縁もゆかりも

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 なぜに海夕が佳乃さまの代理人に選ばれたのか?

「もちろんちゃんとした理由がある」と一枝さん。

「まぁ、ぶっちゃければ、ミユウに貸しがあったからだな」
「わたしに貸し? ……まるで身に覚えがないんだけど。う~ん、なにか願い事とか叶えてもらったかなぁ」
「あー、正しくはミユウの祖母だな。ほら、おまえさんは小さい頃、体が弱くってよく熱を出しては寝込んでいただろう」
「うん。いまではすっかり元気だけど」
「じつはそれって、ミユウの祖母の願いをヨシノさまが叶えたからなんだよ」

 足繁く咲耶神社に通っては「孫娘が元気になりますように」と、それはもう熱心に祈っていたらしい。
 さらには冬の寒空の下、夜更けにこっそりお百度参りなんぞもやったんだとか。
 これにたいそう感銘を受けた佳乃さまが、願いを叶えてあげたからこそいまの海夕がある。
 当人はまるで気がついていなかったけれども、じつは佳乃さまの神通力をほんのちょっぴり分けてもらったことにより、すっかり丈夫になってスクスク育っていたのだ。

「えっ、そうだったの? あぁーっ! だとしたらこの前、車にはねられてもたいしたケガをしなかったのって、もしかして……」
「あぁ、ヨシノさまの恩寵の賜物だな」

 佳乃さまと海夕。
 じつは縁もゆかりもばっちりあった。
 それどころか返しきれないほどの恩恵を受けている。
 これをいま返さないでいつ返すというのか。

「というわけで、しっかり気張るんだよミユウ」

 翼を広げて発破をかける一枝さんに、わたしはうなづくしかなかった。

  〇

 そんなわけでさっそく迷宮と化した学校に挑むことにしたのだけれども……

「う~ん、さっぱりわかんない」

 いくら進んでも四階の廊下は終わりがなく、同じ景色が延々と続く。
 階段にすらも辿り着けやしない。
 ならば反対側だと向かってみたのだけれども、こちらもまったく同じ。
 攻略の糸口がまったくわからない。
 ばかりか、この第一の試練には恐ろしい仕掛けが施されていることがわかって、わたしの心は早くも折れそうである。
 その仕掛けというのが……

 キーン、コーン、カーン、コーン♪

 体感で十五分ほども経つと鳴り始めるチャイム。
 それを合図に、ドドドド……
 猛然と彼方より駆けてくるのは二宮金次郎の銅像だ。
 かつては正門近くに飾られ、登下校する子どもたちを見守っていたものだが、昨今の学校を取り巻く諸事情によって撤去されて久しい。倉庫の奥へと引っ込められてからは、すっかり埃をかぶり、その存在を忘れられていた。
 そんな金次郎像が、スプリンターばりのキレイなフォームで向かってくる。

 ――学校の怪談! 怖い!

 もちろん、わたしは「あんぎゃあ~~」と泣きべそをかき必死に逃げた。
 でも逃げられない。
 二宮金次郎像ってば、めちゃくちゃ足が速かった。
 伊達にふだんから大量の薪(まき)を背負っちゃいないらしい。足腰の強さが半端なくて、現代っ子ではとても太刀打ちできない。
 あっという間に追いつかれて、わたしは捕まった。
 で、ひょいと肩にかつがれ、そのまま六年四組の教室へと運ばれ、ポイっ。
 どうやら一定時間が経過すると、鬼役の二宮金次郎像がやってきて、ふりだしに戻されるっぽい。
 なんてイジワルな仕掛けなんだろう。

 かくして、ふりだしに戻されること四度。
 教室の床に四つん這いとなり、わたしは「もうヤダー」と泣き言を吐いた。
 これを見かねた一枝さんが「チチチ、まさかあんたがここまでポンコツだとはおもわなかったよ。しょうがないからヒントをあげる。いいかい? 自分のまわりをよぉく見てごらん。そうすればおのずと答えがわかるはずさ」と言った。


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