とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝

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98 ゆく年くる年

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 久しぶりに王国に足を運んでみれば、教会が真っ二つに分裂していました。
 旧女神派と、新女神派で袂を分かったようです。
 バインバインとツルペタ。
 それぞれの御神体の像を見比べる限り、巨乳派と貧乳派の不毛な争いにしか見えません。あれ? なんでだろう……、新女神派のオカッパ頭の石像を見ていると、自然と頬を伝う涙がポロリと零れ落ちました。

 おかしいですね。お母さんの遺伝子を受け継いでいる以上は、せめて人並に育つハズなのに、我が身に一向に成長が見られません。たっぷり栄養も睡眠も摂っているというに。
 もしや、甲斐性なしの方の血の影響なのでしょうか?

 歳月が流れるのは早いもので、すでに修行を終え帰国した王女様が、新女王へと即位なされるのが数日後に迫っております。お婆ちゃん女王様の下でビジネスのイロハを徹底的に叩き込まれた彼女は、出来る女となって戻ってきました。
 数字にドライで、効率を重んじ、情を知りつつも、決して情けに流されない鋼の女。
 ビッチ姫改め、働き蟻女王として、威風堂々の凱旋!
 師匠のお婆ちゃんが、「ごめん、やり過ぎちゃった。テヘペロ」とか言ってましたから、きっと馬車馬の如く、お国のために尽くしてくれることでしょう。
 なお彼女の即位に合わせて、魔族領と人間領とで締結される条約にて、大連合の樹立も同時に行われます。
 私はそれらの式典に魔族領の代表として参列するために、ここまでやってきました。
 人類側からの強い強い要請によるものです。
 これまでに一度だけ魔族側から、試しにフリージアさんにご足労をお願いしたことがあったのですが、蒼いドラゴンさんでも駄目でした。男装の麗人の気と美貌に当てられて、まるで会合になりません。しっかり者のお婆ちゃん女王さまですら頬を染めて「やっべぇ、抱かれたい」と呟く始末。
 リースさんに至っては蛇神さま降臨の余波が色濃く、名前を出しただけで、とある国の代表者が真っ青になって震えてしまいます。
 各国の代表の方に泣きつかれた結果、不本意ながら私が魔族側の顔として奔走している、今日この頃。

 そんなこんなで少々、お疲れで荒んだ私の心を癒してくるのは、この子だけです。
 現在、王都に滞在している私は、騎士団長さまのお宅にやっかいになっています。
 城にお婆ちゃんメイドさんが残っていたら、そちらにお邪魔していたんですが、生憎と彼女は城を出て、今では新女神派の急先鋒として頑張っています。うっかり顔を会わすと面倒になりそうなので、接触は避けることにしました。
 もうじき二歳になる騎士団長さまのお子様。
 奥さまに似て可愛いです。奥さまに似てお肌真っ白です。奥さまに似ていい匂いがします。奥さまに似て将来美人さんで勝ち組確定です。
 えっ? 目元なんてオレに似ているだろうですって? ハハハハ、そんなの気のせいですよ、騎士団長さま。
 今ならば旦那はいらないから、子供だけ欲しいという方の気持ちがよくわかる。
 ああ、このまま連れて帰りたい……。
 嘘です、冗談ですから、銃口を頭から外して下さい。
 うっかり本音がだだ漏れしていたら、いつの間にやら女型ゴーレムが、私の後頭部にゴリゴリ銃口を突き付けていました。
 彼女は私がこの子の出産祝いに贈った特注品のゴーレム。どうやらちゃんと子守り兼護衛の役割を果たしてくれているようですね。
 仮にも造物主たる私よりも、この子を優先するだなんて……、よろしい、合格です。
 今度、生まれる料理長と宮原さんのところにも一体、贈るとしましょう。


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