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93 記念日

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 その日、魔族領に激震が走りました。
 ついにアレが完成したとの報告が届いたのです。
 早速、食堂に赴くと、そこには緊張した面持ちの、料理長と宮原さんが私を待っていました。

 黙ってテーブルにつくと、すぐに料理が提供されました。
 匂い、見た目、ともに申し分なし。
 スプーンにすくってひと口、途端にほろほろと解けるお肉、凝縮された具材の旨味が科学反応を起こし、口内にて華やかな舞踏会が幕を開ける。あまりの楽しさに時も忘れて、私は夢中になりました。ですがどんな宴にも終わりは訪れます。
 幕が下りた時、私はただ深い溜息を零すことしか出来ませんでした。

 しかし祭りは終わらない!
「へい! おかわり!」パチンと指を鳴らして叫べば、すかさず厨房から「あいよー」との威勢の良い返事、すぐに新しいのが運ばれてきました。
 合計、五杯ものおかわりをした私の様子に、安堵の笑みを浮かべた料理長と宮原さんが、仲良くハイタッチなんぞをしています。
 その様子をニヤニヤと眺めていたら、お二人が揃ってハッとして、途端に離れてしまいました。お二人揃って顔が真っ赤でモジモジしています。いやー、若いっていいですねー。もう、いっそこの場で男を見せろよ、料理長。
 そう煽ってやったら、マジで告白しやがりましたよ、この野郎。しかも諸々の過程をすっとばして、結婚を申し込みやがった。なのに「嬉しい」とコクンと頷く宮原さん。
 途端に食堂は桃色空間へと転じ、やんややんやの歓声が巻き起こる。
 まさかのカレープロジェクトが、このような結末を迎えようとは……、いったい誰が予想しえたであろうか。
 君が美味しいねって言ったから、今日はカレー記念日、ってか!

「まったくだぜ。もぐもぐ、しっかしうめぇな、コレ」いつのまにやら魔王様が隣の席でカレーを頬張っていました。
「モグモグ、これが花蓮のずっと欲していた料理か……、コイツは天下を取れるね」やはりいつの間にやら席について、カレーを召し上がっていたガラシャさま。
「うまうま、でも何気に、このお二人って人類と魔族との初めての婚姻になるんじゃ? うまうま」私の影より出ていたセラーさんもカレーを食べつつ、そんなことを言い出します。
「それじゃあ、盛大にお祝いをしないと」とはリースさん。彼女はすでに完食されていました。
「チクショー! まさか奴に先を越されるとは! カレーの刺激が目に染みるぜ」工房長が悔しがりながらカレーをやけ食い。そういえば工房には小鬼さんばかりで、女っ気がまるでありませんでしたね。いつも頑張ってくれていますし、今度、合コンチケットを差し上げますので、どうか頑張ってみて下さい。

 この日、魔族領にカレーという料理がお披露目されました。
 そしてその製作に関わった二人が結ばれるという吉事が起こりました。しかも人類と魔族との初めての婚姻というオマケつき、これが注目されないワケがありません。
 早速、夕刊の一面を飾り、何故だか私のことまで大きく取り上げられていました。
 記事を要約すると、このようなことが書かれていました。

『縁結びの女神さま、ついに魔族と人類の垣根を越えて男女の縁を取り持つ』

 おかげで私を取り巻くカルト指数が、ますますエライことに……。

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