とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝

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88 彷徨う信心

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 創成魔法で作り出したプラスチック爆弾を、ぺたぺたと女神像に張り付けていきます。色々と考えた結果、私はとりあえず神殿のシンボルを木っ端みじんにすることにしました。そしてその後に小細工を弄して、教会のみなさまには混乱してもらいます。
 信仰の根底が揺らげば、しばらくは迷走して、自分たちのことに手一杯になるでしょう。少なくとも王国にちょっかいを出す余裕はありません。

 右見て、左見て、安全確認。
 周囲に人影なし……、ではポチっとな。

 爆音が鳴り響き、女神像が瓦解、神殿全体が盛大に揺れて、山そのものが震えました。
 思ったよりも威力があったので、神殿の一部も巻き込んで破壊されましたが、たぶん大丈夫でしょう。

 もうもうと上がる砂煙にて視界不良の中を、最後の仕上げにセラーさんが元女神像のところに向かいます。手早く仕事を終えた彼女が戻り次第、私たちは撤収しました。



「な、なんだ……、これは一体……、女神さまが……」

 現場の惨状に絶句する教会関係者の男。
 大神官と呼ばれ、神殿を預かる偉い身分の彼は、変わり果てた光景に言葉もない。他の神官らも信仰対象が、突如として失われて呆然とするばかり、中には泣き崩れている者もいる。そんな中にあって一人の神官が、女神像の残骸のそばにある品を発見し、それによって教会内に大激震が走った。
 見たことのない着物を召した、黒いオカッパ頭の人形が、ちょこんと置かれてあったのである。足元の石床には「女神は死んだ。これからは我をあがめよ」との文言が刻まれてあった。

 これが神殿どころか、すべての信者をも巻き込んでの物議を醸しだすことになる。
「女神さまは去り、新たな神が降臨なされた」という者や「信仰は死なぬ。女神さまが居なくなることなどありえぬ」という者、「神々の闘いに女神さまが敗れた」と声高に唱える者、「神の思し召しだ」と信じる者もいれば、「何者かの策略だ」と陰謀論を上げる者も現れて、どんどんと収拾がつかなくなっていく。
 教会の内部とて一枚岩ではない。野心家もいれば、心から信仰に生きている者もいる。近頃の教会の在り方に異を唱えていた者もいて、女神像の消失という事件を機に混迷の度合いを深めていくことになる。
 教会上層部は、このことを憂いて打開策として新たに女神像を急造するも、急ぎ仕事が祟ったのか出来があまりよろしくなく、多くの信者らから「なんか微妙」「これじゃない感じ」「前のほうが良かった」との不興を買い、挙句にまたしても像が吹き飛んでしまって、その後に市松人形がポツンと置かれているという事態を受けて、まるます頭を抱えてしまった。



「セラーさん……、これはどういう事なのでしょうか?」

 問い詰める私に、ひゅーひゅーと口笛を吹いて誤魔化す彼女。
 当初の予定では床に刻まれる文字にて「女神は死んだ」だけのハズだったのです。なのにいつの間にやら、「市松人形をあがめろ」とのいらないオマケが付いていました。
 上司の命令を無視しての独断行為、とんでもない部下です。
 罰として彼女は当面の間、オヤツ抜きです。
 泣いても許しません。

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