上 下
84 / 101

84 市松人形の心

しおりを挟む
 人間領との六十一カ国との仲を取り持ったことで、王国の様子が周辺国より逐一もたらされるようになりました。
 ふんぞり返っているだけで、何もしない王様派はついに解体され、王子とお姫様の両陣営に取り込まれて消滅、豚夫妻は絶賛蟄居幽閉中。
 騎士団長さまが所属する良識派は、完全に停滞した国の運営を一手に引き受ける代わりに、どちらにも与しないと表明。しかしあくまで国には変わらぬ忠誠を誓っているので、最終的に勝った方の支持に回ることを、両陣営に宣言なさりました。
 普通ならば日和見主義と蔑まれるところですが、実際に彼らのおかげで辛うじて国が維持されているのは、誰の目にも明らか。有言実行を地でいっているのも本当で、ですから両陣営からも、それならばとお目こぼしされている状況です。
 最終的に勝ち残った方が、優秀な良識派を丸ごと貰えるワケですしね。

 それで両陣営のパワーバランスは、たいして差がないそうです。
 もしも他国が介入とかしていたら、また違ったのでしょうが、すでに全ての国は魔族との新たな関係を着々築きつつあるこの頃。王国だけがその流れにポツンのとり残されています。どこも自分たちのことで手一杯、わざわざ火中の栗を拾うところは現れません。
 試しに皇帝さんに声をかけてみましたが、すげなく断られてしまいました。お婆ちゃん女王さまのところも同様です。揃って「面倒事はご免だ」と言われてしまいました。それでもお婆ちゃんの方は、ちゃっかり有力な商人はごっそり引き抜いていましたが。私が声をかけていた方の中にも、あちらに移った人がそこそこいました。さすがです、お婆様。
 魔王様にしても「だったら復興の邪魔にしかならない貴族や王族どもを、根こそぎ絶やしてこい」だなんて物騒な事を仰る。
 さて、困りました……、いっそ良識派の誰かが王に立ってくれたら、喜んで手を貸すのに。騎士団長さまは、仕えることに喜びを感じるタイプですし、どこかに手頃な人材なんて転がっていないもんですかねぇ。あの手の王族って隠し子の一人や二人、いそうなものなのに、あの豚王様、案外身持ちが固いのですね。

 あれ? そもそも何で私がそこまで必死になって、あんな国の行く末を案じなけれならないのでしょう。すでに周囲の包囲網は完成しています。
 これって、もう、放置でいいよね。

「花蓮さまは、なんだかんだでお優しいですから」とリースさん。
「そうでしょうか? この頃では魔族の皆さんの影響か、かなり容赦が無くなっているような気もしますが」

 小首を傾げる私にリースさんは優しく微笑み、「いいえ、それはご自身の中での線引きが明確なだけですわ。慎ましやかに日々を営んでいる人には手を差し伸べ、理の枠の外へと自ら道を踏み外した者には鉄槌を下す。それだけのことです」

 ふむ。どうやらリースさんの目には、私はそのように映っている模様。自分では特に意識していなかったのですが、言われてみればそんな気がします。婦女子に暴行を働くような外道には、バンバン実弾を喰らわせましたし。
 なるほど、そういうことだったのですね。彼女のおかげで、ようやく私は自分の気持ちに気がつけました。

「ありがとう、リースさん。貴女のおかげでようやく踏ん切りがつきました。私はあの王都の住民たちを助けたい。異世界から連れて来られたばかりの頃、街ブラをしているときに、優しく声をかけて笑いかけてくれた、あの人たちを守りたいです」
「すべては花蓮さまの想いのままに。私たち第七部隊の者たちは、ただそれに従うのみです」

 リースさんがそう言って頷くと、いつの間にか姿を現したセラーさんも同じように頷いてくださいました。

しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ
ファンタジー
 シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。  あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。  テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

処理中です...