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81 蛇神降臨

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 人間領には大小で六十二もの国がひしめいております。
 そのうちの二十一カ国は、あの皇帝さんのところの傘下に入っているらしく、今回の騒動には加担なさっていません。訪問してお尋ねしたところ「馬鹿な真似をしないように、しっかりと締めている」とのことでした。久しぶりに会ってまた口説かれましたが、今はそれどころではないので、さっさとお暇します。
 他に魔族領と国交を結んでいるところは六つだけでしたので、そちらも順繰りに回って状況を確認、今のところは大丈夫みたいですが、たしかにちょっと空気が良くないとの意見が多数寄せられました。
 揉めてる国を赤、怪しい国を黄、大丈夫な国を青として、集められた情報をもとに地図に記していくと、私たちを召喚した王国を中心にして、渦をつくるように騒乱が拡大しているのが一目瞭然でした。
 とりあえず私の部隊は、この渦を外側から逆に辿るように行動することに決めました。
 外堀から埋めて行って、最後に王国を泣かします。
 それぐらいの意趣返しをしても罰は当たらないでしょう。

 行く先々で対応はまちまちでした。
 わりと小国の方が動きやすい分、反応がよかったですね。伊達に小さいながらも生き残ってきたわけではないらしいです。フェンリルたちをずらっと並べたら、みな快く提案に応じてくれました。誰だって戦争なんて本当はしたくないのですよ。
 中位の国もほとんどは好意的でした。どうやらあの皇帝さんから事情が漏れ伝えていたようです。人間領最大の戦力を保有する彼のところが、すでに降参しているのですから、魔族と戦っても益はないと、良識ある方は判断なされたようです。
 ですがどこにでも頑迷な主戦派はおられます。
 人間としての矜持や誇り、お国のために死ね! と部下に命じる阿呆ども。
 こうなるともう、四の五の言わずにチカラでわからせるしかありません。
 穏便に話し合い? あんなものに問題解決の糸口なんてなりませんよ、時間と労力の無駄です。もっともらしい妥協点にて、問題を先送りしているだけですから。結果として子孫たちが、利息で膨れ上がったツケを、払わされることになります。
 物事は中途半端に済ませると、あとで尻拭いが大変なのです。
 だからボッコボコにしました。
 正々堂々と正面から向かってくる相手には、こちらも正々堂々とお相手をし、卑劣な手段に走る輩は問答無用で地獄送りです。私は殺るときは殺る女なのです。

 なんとか中位の国も押さえたところで、問題は大国です。
 皇帝さんのところは完全に例外でしたね。
 あそこは絶対的に彼が頂点に君臨しているおかげで、行動も決断もすべてが早い。巨大な組織が一体の生き物のように動けます。
 ですが他の大国は違います。王様の身柄を押さえたら、代わりがひょっこり現れます。一人を説得したら反対する一人が沸きます。話がまとまりかけたら横やりが入るなんて日常茶飯事。付き合っていると、まるでモグラ叩きゲームを延々とやらされているような気分になってきます。
 元々からして全然まとまっていないのです。一枚岩なんて程遠い状況にあるところに、降って湧いた魔族との和睦の申し出、事が重大過ぎてまったく決められません。
 フェンリルを並べても駄目、跳ねっかえりどもをぶちのめしても駄目、下手に出たら途端につけ上がる。追いかけたら蜘蛛の子を散らす、そのくせコバエのようにブンブンとまとわりつく。挙句にゲスな貴族が、狼のお面を被ったちんまい市松人形に、色目を使ってくる始末。
 ついにウチの部隊では一番の良識と忍耐を誇るリースさんがキレました。
 人化を解いて蛇神降臨!
 その巨体にて彼らの都を何重にも取り囲みました。
 シャーと赤い舌を出し、ギロリとひと睨みすれば、都中が大パニック。
 阿鼻叫喚の果てに全員が地べたに平伏して、許しを請うという異常事態に……。
 なお私に色目を使ったゲス貴族は、物陰で騎士たちからリンチにあって、ズタボロにされていました。どうやら日頃から素行の悪い方だったようですね。


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