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77 勇者ごぼう抜き作戦

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「えぇーっ! 皇帝にプロポーズされたのに断ったの! なんてもったいない……、超玉の輿なのに」

 食堂にて先の遠征について宮原さんとお話をしていたら、素っ頓狂な声を上げられてしまいました。集まった周囲の視線が痛いです。どうやら彼女は地位に目が眩んでいるようなので、懇々と教えて上げました。
 王妃様なんてなるもんじゃないって、苦労ばかりでシンドイだけだって、あんなのやってたら眉間に深い皺が刻まれて、顔面小じわだらけになって、ストレスでイボ痔を拗らせて、寿命を縮めるだけだって……、そうしたら、いつの間にやら背後に立っていたガラシャさんに、もの凄い笑顔でオカッパ頭を鷲掴みにされました。

「ほほーう、花蓮の目には、私はそのように見えていたのだな」

 いえいえ、あくまで世間一般の偏見に塗れた意見を述べただけで、決してガラシャさまのことでは……ああ、そんなに力を入れないで下さい、私の頭は皆さま方と違って、卵の殻のようにデリケートなんですから。
 言い訳は聞いてもらえず、そのまま訓練場に連行されて、散々に的にされました。
 そりゃあ、もう、必死に逃げましたとも。岩をも軽く貫通する銀色のレーザーみたいな攻撃なんて、当たらなくても怖いものは怖いのです。死と紙一重の逃避行は、精神をガリガリ削ってくれました。
 たっぷり三時間も絞られて、私はヘロヘロになって塔の上の自室に戻りました。
 するとリースさんが台所で包丁を研いでいました。
 ときおり切れ味を確認しながら、「皇帝殺す」とか呟いていましたが、聞かなかったことにしておきます。もしものときはセラーさんに取り抑えるようにお願いしましたが、無理だと断られてしまいました。

 そんなこんなで久しぶりにのんびりと魔王城で過ごしていると、勇者組の窮状を報せる情報が続々と入って来ました。
 他国に渡った連中は初めこそ、丁重に持て成されていたようですが、所詮は元高校生のガキどもです。組織での在り方、人の使い方、その他諸々の社会生活に必要な経験が足りなさすぎて、すぐに馬脚を現したようで、すっかりお荷物扱いされているんだとか。
 なまじっか勇者なんて肩書があるから増長するんですよ。自分が特別だなんて思い上がった子供が辿る末路なんてこんなものでしょう。それでも一人ぐらいは巧い事やれても良さそうなものなのに、さすがは後先も考えずに行動するだけのことはありますね。そんな人たちは放置しても構わないでしょう。
 問題は王国に残ったクラスメイトたちです。露骨に王子やお姫様に媚びれるようなタイプは、上手に渡世を渡っているようですが、教室の生態ピラミッドの下層域に生息する大人しい子たちは、そういうのが苦手です。そのせいでかなりご苦労なさっている様子。
 モンスター相手に手間取っている子たちに、人間を斬れとか、同窓の子を殺せとか、ちょっと無理があるでしょうに。なにせ彼らは私と違って、互いがちゃんとした顔見知りなんですから。
 でもね、その辺の方たちって、けっこう知識が豊富だったり、特定の分野に秀でていたりするんですよねぇ。趣味に生きる! みたいに。
 そこんところ、どう? って宮原さんに訊ねてみたら、何人か面白そうな子がヒットしました。
 人類連合がいい具合に傾いていることですし、ここいらで勇者組をごそっと引き抜きませんか、と魔王様と宰相様に提案すると、「花蓮の好きなようにやってみろ」との了承を得ました。
 そこで砦にいるアルティナさんやフリージアさんにも協力を仰ぎ、「勇者ごぼう抜き」作戦を敢行することとなりました。

 作戦なんて大袈裟なことを言っていますが、たんに王都にて目星をつけたクラスメイトらを、掻っ攫ってはドラゴンにて空輸直送便しちゃおう、という雑な内容です。
 彼らを押し込めるコンテナは工房長に頼んで作ってもらいました。箱型ながら内部はカプセルホテルのようになっており、中に放り込んだら、到着するまでグッスリという仕掛けがついています。さすが工房長、相変わらずいい仕事をしてくれます。

 今回の作戦では主に女子を中心にして、あとは男子もついでに適当に拾ってくる予定です。

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