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74 魔王剣

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 赤いマイカーにて城内を流していると、何やら呼び止められた。
 キョロキョロと周囲を見渡すも誰もいない。気のせいかと思って、また走り出すとやはり声がする。よくよく耳を傾けてみると頭の中に直接、声が響いていた。
 テレパシーですか……、まぁ、魔法があるんですから、今更って感じですが。
 声に導かれるままに向かったのは、お城の中庭にある立派な聖堂。
 てっきりあの駄女神さまを、祀っているものとばかり思っていたのですが、どうやら違ったようです。なにせ厳重にゴツイ扉が封印されていましたから。
 指紋認証というヤツでしょうか、石板に手を当てると開く形式のようです。声の主はこの建物の中にいるようで、早く、その板に触れろと五月蠅いです。
 脳内にキンキンと声が響くので、イラっとします。
 石板をペタっと触ると、ガコン、ドコン、カリカリ、と重苦しい機械音が鳴って、扉の封印が解除されました。
 そして踏み入れた聖堂内で私は一振りの剣と出会います。
 見上げるほどのデッカイ両手剣が、床に突き立てられていました。
 その辺の一戸建て住宅より大きいです。鋳つぶしたら釘がたくさん作れそうですね。

「なんちゅうことを考えるじゃ。この罰当たり娘めが!」

 いきなり剣に怒られました。どうやら彼がさっきから私を呼んでいた方らしいです。
 彼こそが噂に聞いた「魔王剣」なんだそうです。魔王様の愛剣ですね。それぐらいは知っています。思っていたよりもデザインがシンプルなのですね。もっと、こう、ゴテゴテしているのかと思っていました。
 それで私に一体、何の御用?

「いや、ちょっとオヌシのことが気になってな。どうして異世界人が神気を帯びておるのかと」
「神気?」
「神の気配みたいなもんじゃ。オヌシの体からは、それが微かに漂っておる」
「……、しばらく神域にお邪魔していたせいかもしれません。もしくは能力を授けられたからとか」
「その程度で移るほど安くはないんじゃがなぁ。もしや両親のどちらかが、神族なのかもしれんな」
「両親ですか? お母さんは確かにちょっと変わってはいましたが、事故で亡くなる程度には普通の人でしたよ。お父さんについては知りません。私が生まれる前に失踪したようで、母の話ではいい人だけど甲斐性はなかったそうです」
「うーむ、事故で亡くなったか……、だとすると父親の方が怪しいのぉ」

 まさか遠い異世界にて魔王剣から、父について言及されるとは……。さすがの私もちょっと戸惑いが隠せません。甲斐性なしという言葉を聞いてから、まるで興味を無くして、それ以来、まったく、ただの一度も母に話を聞くことがありませんでした。それがいきなり神様だったかもとか言われても、どんな顔をしていいのかわかりません。

「そんな顔をするでない。べつにオヌシを困らせたかったわけではないのだ。すまなんだな。本当にちょっと懐かしくなってしまっただけなのだ」

 なんでも魔王剣は、元々が神域出身なんだそうです。あちらで作られて、素振り中に手からすっぽ抜けたのが、こちらの世界にまで落下して、そこを魔王様がキャッチなさったんだとか。もしも魔王様が受けとめ損ねていたら、大陸の九割が消滅していたそうです。
 まさに神々の戯れですね。

「モノは試しだ。ちょっとワシに触れてみるがよい」

 言われた通りに黒光りする逞しいモノに、そっと触れると、ビクンビクンと反応した後にシュルシュルと縮んで、私の手の中に短剣となって納まってしまいました。

「ほほう! 誇るがよい。ワシを扱える奴は魔王に続いてヌシで二人目だ。姿こそは小さいがチカラはそのままだから、一振りで海を割き、大地をも砕こうぞ」

 そんなことをほざく魔王剣を、私はポイっと投げ捨てました。

「こりゃ、なにをする!」
「何をする、ではありません。私は逃げ専なのです。そんな過剰戦力はいりません。だからこうします」

 短剣をさっきまで剣が刺さっていた穴に、放り込みます。
 するとすぐに大きな元の姿に戻ってしまいました。

「なんと欲のない。その気になれば、この世界の王にもなれるのだぞ」と煩い魔王剣。
 だから私は言ってやりました。「今度、ヘンなことをしたら男湯に放り込んで、沈めるぞ」と。ガチムチの汗臭い野郎どもに揉みくちゃにされて、彼らの出汁がたっぷりとしみ出たお湯に浸かり続けながら、ゆっくりと汗の塩分で錆びて朽ちていくのです。
 想像した魔王剣が悲鳴を上げました。
 もう二度と不穏なことは口にしないと約束してくれたので、許してあげました。


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