上 下
65 / 101

65 偽女神の福音

しおりを挟む
 目標をゲットした私たちは一目散に王都を脱出して、魔族領に帰還しました。
 ずっとアルティナさんの背中の上で空輸です。
 宮原さんは、間近にしたドラゴンの迫力でポテンと気を失ってしまいました。
 そんなポニーテールの彼女を、これ幸いと縄でグルグル巻きにして、一気に運んじゃいました。
 関所とか面倒なので、王都郊外から飛び立ち、夜陰に紛れて、ぶっ飛ばしてもらいました。
 砦を経由して、私の軌跡を辿るかのように魔王城へと連れて来られた、宮原さん。
 個性豊かな魔族の方々に泡を吹いては倒れ、じきに慣れたと思ったら、今度はその繁栄ぶりに目をぱちくりしている姿は、可愛らしかったです。
 髪型や口調などが、どこかザックリとして男勝りなのに、よく気を失ったり、趣味が料理っていう点がギャップがあっていいですね。
 魔王様との謁見を済ませて、そのまま厨房に突撃して、料理長や他のゴツイ面々ともすぐに意気投合、晴れて厨房勤めと相成りました。
 彼女はいちからカレーが作れるお人なので、新しい環境に慣れた頃を見計らって、お願いしてみるつもりです。

「……に、しても魔族ってみんな凄いよね。こんなのに喧嘩売るって、人類連合は馬鹿なのかな」

 魔族領での新生活に慣れるにしたがって、王国の連中が言っていた嘘を知り、現実を目の当たりにして、宮原さんがしみじみと仰いました。

「ぶっちゃけると、うちのリースさんだけでヤれますね。蛇神さま降臨で連合なんて一方的に蹂躙です。王国程度なら、厨房の皆さんだけでも楽勝です。魔王様が本気だしたら、大陸ごと沈没です」
「マジでか! 私、魔王様のこと、ちょっと冴えないおっさんかなって思ってたんだけど」
「騙されてはいけません。人化を解いたら魔王城より巨大です。拳一発で大概のモノが粉砕です。魔王剣という強力無比な武器もあるそうですし、なによりあのガラシャさんの旦那が、ショボいわけないじゃないですか」
「あー、あのカッコいい人でしょう。前に食堂にきたときに、わざわざ声をかけてくれたんだ。王妃様なのに気さくで素敵、あっちのクソ連中とは大違いだよ。ただし騎士団長は除く」

 宮原さんお話しでは、王様はふんぞり返ってブヒブヒ命令口調、王子は上からのエロ目線で盛った猿、お姫さまは目の奥が笑ってなくて笑顔が怖い、他の貴族や神官どもは露骨過ぎて反吐がでる、唯一、騎士団長さまだけが、丁寧かつ親身になって接してくれたんだとか。そういえば訓練でも一番、熱心に指導なさっていましたよね。
 勇者組の跳ねっかえりの野郎どもも、彼の言葉にだけは耳を傾けていたらしいですし、みなの良き兄貴分といったところですかね。教師になったら、いい先生になりそうです。

「ところでさぁ、なんで沢良宜さんは、塔の上の女神さま扱いされてんの?」
「……いろいろあったんですよ。気がついたときには、もう手遅れでした」

 遠い目をする私に、「そっか、あんたも色々と大変だったんだなぁ」と宮原さん。
 すみません。たいして苦労はしていません。すべて成り行きです。運と逃げ足だけで、ここまで来てしまいました。ただ、流れに身を任せていたら、こうなっていました。
 でも、それは黙っておきます。だって怒られたくありませんから。

 そんなこんなで魔族領は、新たな異世界人の住民を得ました。
 彼女のもたらした元の世界の料理の知識に、料理長の腕と情熱が合わさって、これにより魔族領の食文化は、加速度的に進化していきます。
 そして、そんな人材をもたらした、私の評価も当人の預かり知らぬところにて、勝手にうなぎ昇りするのでした。

しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ
ファンタジー
 シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。  あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。  テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

初恋の幼馴染に再会しましたが、嫌われてしまったようなので、恋心を魔法で封印しようと思います【完結】

皇 翼
恋愛
「昔からそうだ。……お前を見ているとイライラする。俺はそんなお前が……嫌いだ」 幼馴染で私の初恋の彼――ゼルク=ディートヘルムから放たれたその言葉。元々彼から好かれているなんていう希望は捨てていたはずなのに、自分は彼の隣に居続けることが出来ないと分かっていた筈なのに、その言葉にこれ以上ない程の衝撃を受けている自分がいることに驚いた。 「な、によ……それ」 声が自然と震えるのが分かる。目頭も火が出そうなくらいに熱くて、今にも泣き出してしまいそうだ。でも絶対に泣きたくなんてない。それは私の意地もあるし、なによりもここで泣いたら、自分が今まで貫いてきたものが崩れてしまいそうで……。だから言ってしまった。 「私だって貴方なんて、――――嫌いよ。大っ嫌い」 ****** 以前この作品を書いていましたが、更新しない内に展開が自分で納得できなくなったため、大幅に内容を変えています。 タイトルの回収までは時間がかかります。

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

処理中です...