とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝

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48 森の木陰から

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 料理長が食材を採りに行くというので、私も同行することにしました。
 リースさんにはお留守番をお願いしています。商人さんが文房具を引き取りに来てくれるので、その受け渡しです。
 ちまちまと受け渡しをするのも面倒になってきたので、近々、どこかに倉庫でも借りて、まとめてドバっと出そうかという話になっておりますが、本日のところはいつも通りです。
 ガタイのいいミノタウロスやオークの一団が、森の奥へとズンズン進んでいきます。
 途中で遭遇したモンスターらは彼らの包丁にかかって、サクサクと捌かれていきます。まさか食材を自分達で調達していたとは知りませんでした。

「いつもは出入の業者に頼んでいるぞ。たまにだよ、たまに。厨房に籠りっ放しも体に悪いからな。ときおりこうやって外に出て、体を動かして気分転換しないと。福利厚生の一環だな」とは料理長談。

 福利厚生にて森の奥に絶叫が響き渡り、血飛沫が舞っているのですね。中には素手で獲物を圧倒している方もいます。片手で首を掴んでポキリだなんて、凄いです。
 血で血を洗う抗争に、更に血に惹かれた猛者どもが集まって来て、この場はまさに修羅地獄。そんな最中にぼんやりと立つ市松人形の下にも敵が殺到しますが、もちろんひょいひょいと躱します。隙をついてギラリと光る目に地獄突きを放ってみましたが、結果は私が突き指をして涙目になっただけでした。どうやら非力な私ではモンスターの網膜一枚、傷つけることは適わぬようです。以前に魔王様とよもやま話に興じていたおりに、「それだけ速く動けるのなら、避けて近づいて、急所に一撃でイケるんじゃないのか」なんて言われたので試してみましたが、どうやら無理そうです。一応は護身用の短剣でも同様な真似をしてみましたが、まるで刃が通りません。
 モンスターでこれですから、きっと魔族の方々なんてもってのほか、もしかしたら人間相手ならばあるいは……、そのへんは追々ですね。

 本日の狩りが終了する頃には、森の奥に血の池地獄が現世に降臨していました。
 厨房勤務のくせして、みなさまとってもお強い。あのムキムキは伊達ではなかったようです。
 神域で遊んだゲームではミノタウロスやオークといえば、筋肉ダルマで鈍重という設定だったのですが、実物はもの凄く俊敏に動きます。あの巨体を支える筋肉は飾りではありません。振り下ろされる一刀が相手をぶつ切りにしちゃいます。拳の一撃で脳漿がこんにちわです。
 仕入れた大量のお肉は、料理長の持つアイテム収納の機能のついた、大きなリュックに収められました。なんでも魔王城支給の鞄なんだとか。魔王さまじきじきに拝領されたんだと料理長が嬉しそうに教えてくれました。なんだかんだで皆様、魔王様大好きですよね。
 余った骨をいくつか分けてもらいました。骨で出汁が取れないか試してみたかったので。結果が良好ならば、厨房にも報せることを約束させられました。

 狩りの後は、帰りの道すがら採取に精を出します。
 キノコわんさか、香草や薬草もわんさか、果物も一杯です、森の恵み万歳!
 山芋らしき蔓を見つけたので、お願いして掘ってもらったら、なんだかソレっぽいモノがでてきました。せっかくなのでコレも持って帰るとしましょう。
 そういえば卸し金なんてこちらにあるのでしょうか?

「なんだソレは? 食材をすり潰す道具ねぇ。少なくともウチの厨房には無いな。話を聞いた限りじゃ簡単な造りの道具みたいだし、なんなら帰ったら城の工房長を紹介してやるよ。花蓮の頼みなら、きっとすぐに作ってくれるだろうぜ」
「はて? その方とは一面識もなかったかと思うのですが」
「くくく、アイツは唐揚げが大好きでな。酔っ払ってはいっつも花蓮のことを『食の女神』とかいって讃えているんだ。おかげで工房の連中は全員、隠れ花蓮ファンだぞ。しょっちゅう深夜の酒場で、花蓮の名前を連呼しては盛り上がっているぞ」

 思わぬところから予想外の話が飛び出してきました。おのれ、酔っ払いどもめ……。
 しかし相手が好意的というのは利用しない手はありません。だからそれぐらいは大目にみましょう。もしもそれ以上に変テコなことに走ったら、きっとリースさんの雷が落ちると思いますので。

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