とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝

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47 魔族の街角

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 私こと沢良宜花蓮は、リースさんと一緒に城下町を散策中。
とっても広いのでコツコツと脳内地図を埋めている最中です。
 石畳が敷き詰められた通りは、ゴミひとつ落ちていません、綺麗ですね。石造りの建物の中にはコンクリートっぽいモノもちらほら、きっと色んな建築技術があるのでしょう。
 お世話になっている商人さんの立派な店舗に顔を出し、適当に買い食いを愉しみながらの街ブラ。色んな種族の方がおられますが、みなの顔が総じて明るいのが印象的です。それだけ暮らし向きが安定しているのでしょう。物乞いの類も見当たりませんし、スラムもありません。きっと魔族の庇護欲の発露なのでしょうが、弱者救済が徹底されています。
 もしも人間領で同じ政策をしたら、怠け者が量産されるのでしょうが、生憎と魔王様の御膝元では怠惰は許されません。ひと睨みで全力で走り出すことでしょう。

 何だか行く先々で、やたらと皆様が笑顔で好意的です。
 これも例の影響なのかと思っていたら違いました。
 新聞に私の名前と姿がデカでかと掲載されていたからです。可愛らしい犬娘の売り子さんから購入した新聞の記事に目を通すと、多額の寄付のことや、文房具の流通、新しい遊びの考案、食の革命……、異世界より中央塔に舞い降りた女神さまの申し子、とかなんとか書かれておりました。まず女神の申し子ってところが間違っています。私はどちらかというとゴリマッチョなオジ神様の申し子、そして功績はすべては他人に丸投げした結果にすぎません。それはお城の皆様もご存知のハズなのに……、なにやら情報操作の匂いがプンプン。

「いえいえ、元を辿れば花蓮さんのお手柄なのですから、あながち間違いとはいえません。知ってますか? 貴女のおかげで食堂の売り上げが爆発的に伸びているのを。前期だけですでに昨年度分を倍する勢いだそうですよ。文房具は子供たちを中心に広がっておりますし、オセロやゴーレムファイトに至っては、いずれプロリーグも発足されるとの、もっぱらの評判なのです。ほら、すべて花蓮さん発起のモノばかりでしょう」

 何故だか喜色満面にて語るリースさん。あとこれは情報操作ではなく、きっとガラシャさまの茶目っ気だという話です。少しでも早く、魔族領に馴染むための裏工作、もとい優しさらしい。これって完全に囲い込みに入っていますよね? 心配なさらなくても、私の魔族領での永住は確定しているのに。

 あちこちをブラブラとしていて、気がついたのですが、この城下町にはアレがありません。

「アレですか? そもそもアレを建てる意味があるのですか? そもそも建物に宿るのではなくて、各々の心の内に宿るモノでしょう」

 リースさんの言葉に、はっとしました。
 そう、神様は華美な神殿になんていないのです。信仰とは心の内に根づいてこそ、初めて価値を持つのですから。己の心こそが神殿であり、祈りを捧げる場所。どうやら魔族たちはそれを体現しているようです。彼らの信仰の前には張りぼても、ポーズもいらないのです。そして女神さまは敬う者であって、縋りついて甘える者ではない。だから人間側の神官どもみたいに「勇者くれ」とか祈ったりしないのです。この分だと女神さま当人も、魔族たちの敬虔な信仰に気がついていないと思われます。知っていたら勇者召喚なんてしないだろうし。さすがは安定の残念美人です。きっと表面上の信仰に、コロっと騙されていたのでしょう。いっそのこと、「女神さまは死んだ」とか広げてしまおうかしら。そして代わりに頼りになる、上司のゴリマッチョなオジ神様を軸にした新たな信仰を……。そこまで考えてハタと思考を止めました。
 ヤメましょう。だってもの凄く面倒そうですもの。

 気を取り直して、私はリースさんとの散策に専念することにしました。


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