とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝

文字の大きさ
36 / 101

36 食券

しおりを挟む
 待てどもガラシャさんは戻ってこなかった。
 ぼけっと待っているのも暇なので、日課の創世魔法を繰り返して、せっせと文房具造りに精を出す。なんだかよくわからないのですが、いくらでも出せるんですよね、コレ。キリがないので、とりあえず千個ずつで止めていますが、魔力の消費量が少ないんでしょうか。
 沢山出せるのはいいのですが、後で纏めて整理するのがちょっと大変です。
 とりあえずリースさんの反応からして、色鉛筆は魔族領でも売れそうなので、いざという時のために溜め込んでおきましょう、他の品はおりおり様子見でしょうか。
 そんなことを考えながら作業に没頭していたら、早や陽が暮れてしまいました。最上階から眺める夕陽のなんと美しいこと。これを独り占めとは、なんとも贅沢な話です。

 翌朝、ベッドから起きると、リビングにて揃って土下座をしている方々がいました。なかにはアルティナさんより私の身柄を引き受けた士官や、ここまで案内して下さった犬耳青年の姿もありました。

「これはいったい……」

 困惑する私に、彼らを引っ立ててきたガラシャさんが言いました。

「どうやらこいつらが伝言を回している間に、連絡ミスが起きたようだ。推薦状も関係ない部署の書類に紛れ込んでいたし……、花蓮、済まなかったね。本当なら賓客としてもてなすハズだったのに、こんな場所に押し込めたりして」

 ガラシャさんにまで頭を下げられてしまい、こっちのほうが大恐縮です。
 こんなところって、私にしてみれば夢のタワーマンション暮らしなのです、むしろご褒美なのです。だから素直に「気にしないで下さい」と告げると、土下座の方々から涙ながらに感謝されてしまいました。どうやらここに連れて来られる前に、かなりガラシャさんからお灸を据えられたご様子。可哀想に、みなげっそりと頬はこけ、目の下に深い隈をつくり、明らかに憔悴しきっています。よほど怖かったのでしょう。

 朝一からのちょっとした騒動の後、土下座の皆様を見送っていると、ガラシャさんがふとリビングのテーブルに出しっぱなしにしていた、文房具に目を留めました。

「花蓮、これは何だい?」

 興味があるようでしたので、ノートに鉛筆で適当に文字を書き、これを消しゴムで消すという一連の動作を見せると、えらく不思議がられました。どうやら魔族領でもインクのペン字が普及しているらしく、このような道具は見たことがないとのことです。
 売れるかと訊ねたら、売れるとの回答が得られました。どうやら私はこっちでも喰いっぱぐれはなさそうです。とりあえず一式をお近づきの印にとプレゼントしたら、もの凄く喜んでくれました。
 なお私の滞在先は相談の上、このままにしておいてもらうことにしました。
 なにせここ、居心地いいですから。お世話役はすぐに手配して下さるとのことで、どうやらお弁当生活とはお別れのようです。あれはあれで良かったのですが、さすがに客人に、毎食、弁当とか魔族の沽券にかかわると言われてしまっては、我儘を通すわけにもいきません。
 さらば、焼肉弁当、また会う日まで。

「なんだ? アレがそんなに気に入ったのかい。だったら五階の食堂に行けば、いつでも買えるぞ。花蓮は客人だから後で食券の束を渡して置く、それで好きなだけ購入するといい」

 おかえり、焼肉弁当。そして、こんにちわ、タダ券。
 お世話役の人が来たら、ある程度、自由に出歩いていいとの許可も頂けました。どうやらガラシャさんは相当に地位の高い人のようですね。正直、気になります、でも私は訊ねませんよ、うっかり藪をつついてなんてことになったらゴメンですから。
 今日も危機察知がいい仕事をしてくれています。
 ビビビとこう予感が働くのです、触れるな危険って。

しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...