とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝

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33 魔王城

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 国境の砦より紅いドラゴンの背に揺られること五日目。
 ついに目的地が見えてきました。
 翼よ! アレが魔王城の灯だ! っていうか、大き過ぎませんか? 魔王城。随分と前にその姿を現してから、すでに一時間ぐらい飛び続けているのに、いっこうに近づかないんですが……。

「気のせいじゃないよ。実際に馬鹿でかいんだ。何せ私らのところには色んな奴がいるからねぇ。人化してもデカい奴はデカいし、だからみんなの出入りの多い場所になるほど、自然と建物が大きくなる傾向があるんだよ。まぁ、魔族の文化みたいなもんだな」

 アルティナさんの言葉になるほどと頷く私。
 それにしても魔王城って名前の厳めしさのわりに、えらく美麗なお城です。夢の国のお城が陳腐に見えるほどの白亜の大城、天界に喧嘩を売っているかの如く鎮座する中央の超巨大タワー、それをぐるりと囲むように沢山の尖塔が摩天楼のごとくソソリ立っております、しかも完璧なシンメトリー状態で。
 やはり魔王様は、あの中央塔の最上階にて、日夜、下界を見下ろしては、ほくそ笑んでいるのでしょうか。

「魔王様? たしか地上二階の執務室に詰めてるって話だ。仕事山積みなのに、あんな上にいたら不便でしょうがないだろう」

 どうやら思った以上に魔王という役職は過酷なようです。挙句に過渡期には執務室のソファーにて寝泊りしているんだとか、完全にブラックな職場です。きっと世界の半分を支配するには、それぐらい頑張らないといけないということなのでしょう。そりゃあ、みなさんから尊敬もされるというもの、本当に頭が下がりますね。

「私もそう思うよ。あー、中央勤めにならなくって本当によかったぁ。あんなところに缶詰にされたら、三日で逃げ出す自信があるね」とアルティナさん。
「それほど過酷ですか?」
「やってもやっても減らない書類の山、なんとか片づけても翌朝になったら復活しているんだから、私に言わせりゃ、あれは悪夢だね、悪夢」
「……まるで賽の河原の石積みのようです」

 耳慣れぬ言葉に小首を傾げた彼女に、一つ積んでは母のため……、とかいう賽の河原の不毛なエピソードを聞かせてあげたら「あんたの元いた世界は酷すぎる。小さな子を虐めるとは何事か!」と憤慨なされました。私も心からそう思います。さすがにあの話はないですね。考えた人はよっぽど鬼畜な性根をしているのでしょう。思いつくだけで精神性を疑いたくなりますから。

「なんだか花蓮の話を聞くほどに、あっちの世界って狂気じみてる気がしてきたよ」

 紅いドラゴンさんが巨体をぶるると震わせました。
 もしも自分たちの世界を何度となく滅ぼせるほどの兵器を、ゴロゴロ所持しているって知ったら、彼女はなんて思うでしょう……、ちょっと気になりましたが、これ以上は口を噤んでおくことにします。

 そうこうしているうちに、ようやく魔王城に到着です。


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