とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝

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30 タケノコ

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 羊の執事たちがお世話してくれる屋敷での一夜は素敵でした。
 気分はもうお姫さまです。上げ膳据え膳、至れり尽くせり、痒いところに手が届くどころか、ほとんど言葉を発する必要もありませんでした。
 例えばお茶が欲しいなぁ、って顔をするだけでお茶が出て来ます。ちょっと視線を向ければ、そこにあった本が手元に届きます。全ての行動が執事たちに先回りされて、しかも完璧にこなされます。
 ひたすら奉仕されるだけの時間、怠惰なのではなくて優雅らしいのですが、こんな生活を三日も続けていたら、きっと自分の中の大切な何かが腐ってしまいそうです。物語に登場する貴族の令嬢たちが、やたらと性格が悪いのにも納得です。こんな生活を日夜続けていたら、まともに育つわけがありません。でも一夜限りならば、それも別腹、思う存分におもてなしをされましたとも。
 なんでもコレは彼らの訓練も兼ねているのだそうです。定期的に里に客人を招いては、こうやって実地に日頃の成果を試しているのだそうで、私の周囲にいた執事さんたちは、どうやら新米さんだったようです。道理で行動がくどいと思っていました。各種所作などは完璧なのですが、まだまだ匙加減がわかっていないようで、今後の成長に期待ですね。

 翌朝、朝靄の中、私は里のすぐ側にある竹っぽい植物の林へと来ています。
 先日、お世話役の方に話を伺ったのですが、聞けば聞くほどにバンブーなんです。だからもしかしてタケノコが採れないかと欲をかきました。採って食べるつもりだと話したら、えらく戸惑われてしまいましたから、この地ではそういう習慣はないようです。で、朝早くに起き出して、地面に顔をつけるようにして這いつくばり、僅かな土の異変を探ります。達人になると普通に歩いているだけで、たちどころに在り処を見つけるらしいのですが、アマチュアの私には無理な芸当です。だから這いつくばって泥に塗れて探します。付き添いの羊の執事さんがアワアワしていましたが、そんなのは無視です。

 そして見つけた箇所を鍬でえんやこら、土の中からタケノコを掘り出しました。
 見た目はそっくりです、でも皮が固い! 非力な私では一枚たりとも剥けません。泣きべそをかいていたら、見かねたお付きの方が変わりにやってくれました。
 しゅっとしたスマートなスーツ姿でも、そこは獣人、とってもパワフルでバリバリと皮を剥いてくれました。
 白く瑞々しい中身をパクリと一口、コリコリ、もぐもぐ、ごっくん……、こ、これは!
 思わず目をカッと見開いてしまいます。

「これはとても美味しいです。エグみもまるでありません。歯ごたえも程よいですし、なにより少し甘味がありますね」

 そんな私の言葉に半信半疑なお付きの執事さんには、お嬢様強権を発動し、無理矢理に食べさせました。彼も目をカッと見開きました。その後は夢中になって咀嚼していたので、きっと気に入ってくれたのでしょう。

 せっかくなのでアルティナさんにも食べさせてあげようと思い、タケノコをいくつか掘ることにします。すると今度はお付きの方も手伝ってくれました。しかも一度、私が掘るのを見ていただけで、すぐさま地中に埋もれたお宝を探り出すコツを盗み、瞬く間に十ものタケノコを手刀で掘ってしまいました。名門一族は伊達ではないようです、基本性能が高い。

 二人して泥だけになって帰ったら、玄関先で執事の館の偉い人に懇々と説教をされました。でもタケノコは好評で、「良い物を教えてもらえた」と里の人たちから大層感謝されました。お土産に羊毛仕上げの上等なコートを頂戴しました。
 これも私が持つ運が左右しているのでしょうか?
 デザインが大人過ぎて今の私にはまるで似合いませんが、いつかこのコートを着こなせるような素敵女史になれたらいいな。


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