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24 独演会 勇者編
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私は一応は女神さまから一緒に召喚されたことになっている、異世界からの勇者について語り始めます。
数名を除いて、途端にみなの表情が真剣なものに変わりました。やはり勇者という存在は気になるのでしょう。
私はみなの方を見つめつつ、ちょっと溜めをつくって、聴衆を焦らします。この演出に何やら得たいの知れないモノを感じた誰かが、ごくんと喉を鳴らしました。
「勇者たちの正体……、それは、ただの、ごく一般的な、ふつーの学生です」
瞬間、みなさんの目が点になりました。
しつこい神官らの要請に、しぶしぶ女神さまが応じて、適当に連れてきただけの人間。確かにスキルなどの付与もありますし、能力の底上げもされています。こちらにきてからの訓練のおかげで、そこそこにはなっていますが、それでも所詮は人間の尺度での、そこそこでしかありません。ぶっちゃけ、ここにいる皆さんの誰ひとりとして、負ける方はいないでしょう。
そう力強く言い放つと、「なんでそんなのわざわざ連れて来たんだ?」という素朴な疑問が上がりました。
だから私は言ってやりましたとも。
「女神さまが残念美人だからです」
仮にも自分たちが暮らす世界を管轄しているという女神さまの実態を知って、少なからずショックを受けている魔族の方たち。いや、あの人、貴方たちを倒すために勇者っぽい連中を転移させたんですから、これっぽっちも敬う必要なんてないんですよ。
「女神さまの真意はともかく、そんなガキどもを矢面に立てて、連中も大概だねぇ」とはアルティナさん。
そんなガキどもを、つい数日前にぶっ飛ばしたのは貴女なのですが。
「とりあえず三十九名の勇者たちについては、別途、配布した資料をご覧ください」
資料というか一枚のプリントですね。勇者の名前と能力、特技などの一覧表です。私が夜なべして作成しました。原本があれば転写できる魔法があるので、簡単に人数分が揃えられました。すでに勇者への興味がかなり薄れてしまった皆さんが、一応は資料に目を通します。
「へえー、一軍を率いると全体の能力が上がるのか、これは凄そうだな」
「あぁ、それはほんのちょびっとです。せいぜい一割も伸びませんよ。誤差の範囲ですね」
「おっ! 剣聖の称号ってなんか凄そうじゃないか!」
「あぁ、それはあくまで剣を用いての一対一が前提らしくて、乱戦になると話になりませんでした。ボッコボコです」
「じゃあ、この魔導の極みってのはどうだ? 大火力でバーンとか」
「あぁ、残念ながら、その方は頭の出来が悪くって、ロクな魔法を覚えられていません。魔導書とか分厚くて中身も難しいですから、きっとこの先も駄目でしょう」
「それならコイツはどうだ? 盗賊王のスキルって、王とは豪気だ、とにかく凄そうじゃねぇか」
「あぁ、すみません。それ誤植です。正しくは盗賊応でした。わらわらと盗人が寄って来るんです。悪人ホイホイですから、うまく使えば治安維持に貢献できるかもしれませんが」
途中から質疑応答というより、なんとかして勇者たちの良い所を発掘しようとする皆様の淡い希望を、私が容赦なくバッサリと斬るという、不思議な流れになりました。
アルティナさんは腹を抱えて笑っています。やたらとご機嫌だと思ったら、手に酒瓶を握っていました。足元に数本空き瓶が転がっていますので、かなり召し上がったようです。
途中で顔を出したフリージアさんは資料を一読して、「ふむ」と言ったきり黙って会場を後にしました。
三十九人分をきっちりと斬り伏せたところで、誰かがこんな事を言い出しました。
「もしも勇者らに会うことがあったら、優しくしてやろう」
よかったね、クラスのみんな。これで生存確率がググンと上がったよ。
こうして独演会は、どこかほっこりムードにて終了しました。
数名を除いて、途端にみなの表情が真剣なものに変わりました。やはり勇者という存在は気になるのでしょう。
私はみなの方を見つめつつ、ちょっと溜めをつくって、聴衆を焦らします。この演出に何やら得たいの知れないモノを感じた誰かが、ごくんと喉を鳴らしました。
「勇者たちの正体……、それは、ただの、ごく一般的な、ふつーの学生です」
瞬間、みなさんの目が点になりました。
しつこい神官らの要請に、しぶしぶ女神さまが応じて、適当に連れてきただけの人間。確かにスキルなどの付与もありますし、能力の底上げもされています。こちらにきてからの訓練のおかげで、そこそこにはなっていますが、それでも所詮は人間の尺度での、そこそこでしかありません。ぶっちゃけ、ここにいる皆さんの誰ひとりとして、負ける方はいないでしょう。
そう力強く言い放つと、「なんでそんなのわざわざ連れて来たんだ?」という素朴な疑問が上がりました。
だから私は言ってやりましたとも。
「女神さまが残念美人だからです」
仮にも自分たちが暮らす世界を管轄しているという女神さまの実態を知って、少なからずショックを受けている魔族の方たち。いや、あの人、貴方たちを倒すために勇者っぽい連中を転移させたんですから、これっぽっちも敬う必要なんてないんですよ。
「女神さまの真意はともかく、そんなガキどもを矢面に立てて、連中も大概だねぇ」とはアルティナさん。
そんなガキどもを、つい数日前にぶっ飛ばしたのは貴女なのですが。
「とりあえず三十九名の勇者たちについては、別途、配布した資料をご覧ください」
資料というか一枚のプリントですね。勇者の名前と能力、特技などの一覧表です。私が夜なべして作成しました。原本があれば転写できる魔法があるので、簡単に人数分が揃えられました。すでに勇者への興味がかなり薄れてしまった皆さんが、一応は資料に目を通します。
「へえー、一軍を率いると全体の能力が上がるのか、これは凄そうだな」
「あぁ、それはほんのちょびっとです。せいぜい一割も伸びませんよ。誤差の範囲ですね」
「おっ! 剣聖の称号ってなんか凄そうじゃないか!」
「あぁ、それはあくまで剣を用いての一対一が前提らしくて、乱戦になると話になりませんでした。ボッコボコです」
「じゃあ、この魔導の極みってのはどうだ? 大火力でバーンとか」
「あぁ、残念ながら、その方は頭の出来が悪くって、ロクな魔法を覚えられていません。魔導書とか分厚くて中身も難しいですから、きっとこの先も駄目でしょう」
「それならコイツはどうだ? 盗賊王のスキルって、王とは豪気だ、とにかく凄そうじゃねぇか」
「あぁ、すみません。それ誤植です。正しくは盗賊応でした。わらわらと盗人が寄って来るんです。悪人ホイホイですから、うまく使えば治安維持に貢献できるかもしれませんが」
途中から質疑応答というより、なんとかして勇者たちの良い所を発掘しようとする皆様の淡い希望を、私が容赦なくバッサリと斬るという、不思議な流れになりました。
アルティナさんは腹を抱えて笑っています。やたらとご機嫌だと思ったら、手に酒瓶を握っていました。足元に数本空き瓶が転がっていますので、かなり召し上がったようです。
途中で顔を出したフリージアさんは資料を一読して、「ふむ」と言ったきり黙って会場を後にしました。
三十九人分をきっちりと斬り伏せたところで、誰かがこんな事を言い出しました。
「もしも勇者らに会うことがあったら、優しくしてやろう」
よかったね、クラスのみんな。これで生存確率がググンと上がったよ。
こうして独演会は、どこかほっこりムードにて終了しました。
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