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18 魔族の砦

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「おい、起きろ」

 すびーといい気持ちで寝ていたら体を揺すられました。もちろん拒否です。

「おい、おいったら」

 ゆさゆさと執拗です。その手を払い除けようとしたら、ボヨンとした感触を手の平に感じました。なんとかく揉んでいると楽しくなってきました。そしたら頭をポカリと叩かれました。

「……痛いです」
「痛いじゃねぇ! 起き抜けに人の胸を鷲掴みにして、揉みしだく奴があるか!」

 瞼を開けたら、赤髪の野趣溢れるタンクトップの女性の姿がありました。目つきが鋭いですがエロ格好いい系の姉御の登場です。ですがその雰囲気にはなんとなく見覚えがあります。

「もしかして……、さっきのドラゴンさんですか?」

「ほぅ、よくわかったな。さすがは異世界からきた勇者といったところか」と姉御が目元を細めました。どうやらこちらの正体を知った上で攫ったようです。ですがいささか誤解があるようなので、そこはきっぱりと申し開きしておきます。

「私は勇者ではありません。勇者のフリをして紛れ込んでいただけの部外者です。そこのところお間違えなきよう」
「勇者じゃないだって? でも一緒に行軍していたじゃないか、だからあの中から一番強そうなのを見繕ったんだぞ」

 どうやらドラゴンさんは感覚的に強者が分かるようです。懸命に抑えようとも、滲み出る私の才能を鋭く察したようですね。王城の連中とは違って見る眼があります。

「無理矢理つれ出されたんですよ。だから一人、荷台で不貞寝を決め込んでいたんです」
「うーん、そういえば他の連中が突っかかってきたのに、お前は微動だにしなかったな」
「そんなワケで異世界から召喚された人間ということは正しいのですが、断じて勇者なんかじゃありませんので、そこんところよろしくお願いします」
「まぁ、いいだろう。どのみちお前は魔王様のところに連れて行くように、命じられているしな」

 なんとドラゴンとの遭遇どころか序盤にして、いきなり魔王様の登場です。もうパワーバランスが滅茶苦茶ですね。こういう時はなんと言うんでしたっけ……、確か「現実なんてクソゲーだ」でしたか、そう言うんだって、あの子供の神様に教わりました。

「とりあえず、一週間ほどこの砦で過ごしてもらう。心配せんでも大人しくしている限りは、丁重に持て成そう。我々、魔族は弱者に寛大だからな。ただし、余計な真似をしたら、その限りじゃないぞ」
「了解しました。ところで姉御のことは、なんてお呼びすればよろしいのでしょう?」
「姉御って……、まぁ、いい。私の名前はアルティナ、魔王軍第一部隊に所属しているドラゴンだ」
「わかりました、アルティナさんですね。私は沢良宜花蓮(さわらぎかれん)と申します。どうぞ花蓮とお呼び下さい」
「わかった、花蓮だね。しっかし名字持ちってことは、貴女、いいところのお嬢さんだったんだな」
「あー、そういえば、こっちの人間は位の高い家には名字があったんですよね。違います、私がいた世界では普通にみな名字があるんです。私自身はいたってごく普通の一般人です。その辺の村人と変わりませんから」
「ほぅ、ところ変わればというが面白いな。どうせしばらく逗留することになるんだし、いろいろとアッチの話を聞かせておくれよ」
「構いませんよ。ついでに王国の内情から勇者らの能力についてまで、洗いざらい白状しますので、ドシドシ遠慮なく聞いて下さい」
「おいおい、仮にも仲間のことを、そんなにあっさり売ってもいいのかい?」

 私の物言いに呆れ顔のアルティナさん。だからこれまでの経緯を軽く説明してあげたら、彼女は涙目になって腹を抱えて笑い出してしまった。ドラゴンさん的には、満足に挨拶も交わしていないくせに、仲間面された辺りがツボに入ったようだ。

「やばい……花蓮、あんた面白すぎる。あー、腹筋が痛てぇ。こんなに笑ったのは久しぶりだ。後で旨いもんでも差し入れに行くから、また話を聞かせてくれ」

 そう言い残してアルティナさんは、私の身柄を他の方に預けてどこかに行ってしまいました。私は青い肌をした少し蛇っぽい雰囲気のある綺麗な女性に連れられて、広大な砦内の一室へと案内されました。
 彼女はリースさんという方で、砦内の世話役の一人なんだそうです。蛇っぽいというのは当たっていたらしく、リザードマンとかいう爬虫類系の種族の亜人さんなんですって。それにしてもシナをつくって歩く姿がとても色っぽいんですけれど……、なんだか無性に腰の辺りに抱きつきたくなる衝動にかられて困ります。
 案内されたのはとても大きなお部屋でした。リビングに寝室に浴室までが隣接した高級リゾートのスイートのような部屋、あまりの豪華さに、「何かの間違いなのでは」と言いましたが、ここで合っているとのことです。客人として扱ってくれるのは本当みたい。
 どうやら魔族の懐はとてつもなく深いようです。


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