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225 コロナと青いスーラと。
しおりを挟む女神との会合を終えて戻ったら、北の大地では三日も時間が過ぎていた。
神竜は大丈夫だと言っていたらしいのだが、その間中、ずっとピクリとも動かない青いスーラの側から、自動人形は片時も離れようとしなかったらしい。
まさか、ここにきてコロナがついにデレたのかと思ったら、「調子に乗るな、変態マスター」と怒られた。
その後も、三ヶ月ほど神殿に身を寄せていたオレとコロナ。
滞在が長引いた理由は、主にコロナの改良に時間を費やしたからである。
用事も済ませたことだし、そろそろお暇をという段になって神竜が、「せっかくだから何か土産をやろう」と言い出した。そしておもむろに人化を解いて金色のドラゴンの姿に戻ると、自分の鱗を数枚ペリっと剥がして、投げてよこす。
ドラゴンの、それも神竜の鱗だなんて、その価値は計り知れない。
どうせ世間には出せない品だし、せっかくだからコロナの素材に使おうと考えたところで、ハタと気が付く。
そもそもドラゴンの鱗って、どうやって加工すればいいの? とてもではないがオレの加工技術や錬金錬成では傷もつけられない。
そこで神竜に甘えてみると、「じゃったらワシが手伝ってやるから、一緒にやるか」という話になった。
それでなんやかやと自動人形の体に改造を施すこと二ヶ月、生まれ変わった体にコロナ自身が馴染むまでに更に一ヶ月もかかった。
秘術によって粉末にされたドラゴンの鱗を練り込んで錬成されたパーツで構成されたコロナの体は、これまでとは比較にならぬほどの性能を保有することになる。
もはや自動人形という枠を飛び越えて、竜人とでも呼べるような新人類に昇華しているといっても過言ではない。
途中からノリノリになった神竜の手によって、彼女の体内に組み込まれた七つの魔石も一新、螺旋状の人造魔力回路の中央部には人魚の女王より貰った海皇玉を配置し、残りの六つを爺が持っていた秘蔵の魔石を加工して使用した。
これによって大幅に上がった出力にて、強化された体も自由自在に動かせるようになる。だが調子に乗り過ぎたせいで、肝心のコロナがうまく体を扱えるようになるまでに、大分と時間がかかってしまったのは完全に計算外であった。
オレはともかくコロナにすっかり情が移った神竜の金色の背に揺られて、北の大地より悠然と凱旋。
入り口部分に相当する密林の外縁部、そこに隣接する海沿いの白浜まで送ってもらう。
オレたちが踏破するのに、とんでもない時間と労力をかけた距離が、ほんの一時間とかからずに済んでしまった。転移魔法を使えば、それこそ一瞬で済むという不条理な事実に、こちらの心中は少々複雑である。
「いつでも遊びにおいで、呼んでくれたら、すぐに迎えに行くからのぉ」
猫撫で声でコロナに頬ずりをする金色のドラゴン。
爺は名残惜しそうに飛び去って行った。
どうやらオレは史上三人目のドラゴンスレイヤーの誕生に立ち会ったらしい。
一人目はかつて神竜を虜にしたという女性。
二人目がダンジョンの主である黒いドラゴンのハートを射止めた偉大なる料理長。
そして三人目がいま目の前に……。
「なんですか、人をじろじろと舐め回すように見て。視姦プレイという奴ですか? さすがは変態マスターです」
凱旋一発目の台詞がこれだった。酷い自動人形である。
浜辺にて青いスーラは、ぼんやりと水平線の向こうへと沈んでいく夕陽を眺めていた。
空も雲も海も砂浜も茜色に染まっている。
海は穏やかで、さざ波だけが揺れている。
遠くに海鳥の鳴き声が聞えた。
不意にコロナがオレの前に立つ。
二つの瞳でじっとこちらを見つめてくる。
「マスターは消えてしまうのですか?」
何の事かと訊ね返したら、どうやら女神さまに言われたらしい。オレが母上と会っている間、彼女もまた違う精神世界で女神さまと会っていたのだ。
スーラもまた生き物であり、死ぬこともある。ただし、それは当人が心の底から死を望んだときにだけ、泡となって消えてしまうのだという。
初耳である。あの粗忽モノの母上のことだ、きっと息子に伝え忘れたに違いあるまい、本当にしょうがない御方だ。
北の大地にて神竜と会い、思わぬ女神との会合から、自身について知るという旅の目的をオレは果たした。ここまで来るのに随分と長い時間がかかった。そのせいか夕暮れ時の海を前にして、ついつい黄昏てしまっていた。
そんな様子がどうやら彼女を不安にさせてしまったらしい。
「消えたら……、嫌です」
いつになく弱々しく小さな声でそう呟いたコロナ。
そのオカッパ頭を、オレは触手で優しく撫でてやる。
《消えやしねぇよ。まだまだ行ってみたいところもあるし、見たい景色もある。何より、お前が動いているうちは、ちゃんと最期まで付き合ってやるから安心しな》
「……本当ですね。約束しましたからね。もし約束を破ったら、世界各地にマスターの変態ぶりを刻んだ千年モニュメントを乱立させますからね」
《千年モニュメントってなんだよ! それはお願いだからヤメて!》
慌てるオレの姿を見て、くすりと笑みを零すコロナ。
夕陽を背に受けて茜色に染まる自動人形は、とても綺麗だった。
―― 青のスーラ(完) ――
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