青のスーラ

月芝

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213 コロナと空の旅。

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「ひゃほー」
《バカっ! はしゃぐんじゃねぇ。ちゃんと操縦に集中しろ!》
「ひゃっはー、了解であります」

 大空を飛ぶ青いスーラ。
 自身の体をミサイルに見立ててグニャリと変形し、風と火の魔法を駆使して空を飛ぶスーラロケット。操作や姿勢制御と着地の難しさから、ずっと封印していた技能を改良し、発展させた二号機をベースにした超小型飛行機もどき。
 その名もスーラジェット。
 ジェットとか大層なことを言ってるが、ロケットにちょろっと翼が生えたような代物。それを駆るのは自動人形。強烈な重力負荷をモノともしないコロナをパイロットに据えることで、操作系はすべて彼女に委ねた。おかげでオレは機体の制御に集中し、辛うじて実用化となった飛行形態。速度も従来の比ではなく、その気になれば音速の壁に届く。もっとも壁にぶち当って無事に済むかどうかは、まだ試していないのでわからない。
 着地に関しては強硬方式と落下傘方式の二通りを採用した。
 強硬方式は従来通りに、頑丈なスーラボディに物を言わせた墜落、落下傘方式は体の一部をパラシュートにして、ゆらゆらと降りていくというもの、風の影響をもろに受けて着地点が安定しないのが欠点だ。

 では、どうしてわざわざこんな危険な技能を使ってまで、空の旅を急いでいるのかというと、昨夜のことだ。野営をしていたオレの下に懐かしい声が届く。
 スーラボディより産み出した分体を子機にすることで、遠距離通話が可能となる触手回線を通して古い知己より連絡を受けたのだ。

「すみません。ムーさん……、どうか力をお貸しください」

 元S級冒険者にしてランドクレーズ家のメイド長でもあった、銀の髪をしたハーフエルフのエメラさん。彼女とは色々あったし、散々に世話にもなった。だからもしもの時には駆けつけると分体型子機を渡しておいたのだ。
 屋敷を去ってからは故郷へと戻り、のんびりと余生を過ごしていたはずの彼女からの救援要請。その声の調子からも緊急性を悟ったオレは、スーラジェットの使用に踏み切る。
 エメラさんの故郷は、オレたちがいた地点からは、大陸を横断した反対側に位置する。
 まともに地上を進んでいたのでは、辿り着くまでに年単位の時間がかかってしまう。それでは間に合わない。だから空を行くことにしたのだが……。

「あはははは、地上の者どもがまるで塵芥のよう。これが神の視点か!」

 コロナのテンションが異様なほどに高まっている。
 大空を飛ぶ解放感に酔って、さっきからずっとこんな調子だ。もしかして彼女は乗り物の操縦桿とかを握ると、性格が変わる類なのかもしれない。今後の運用はちょっと控えた方がよさそうだ。そんなことを考えている側から、怪しげな操作を試そうとする自動人形。

《こらっ、危ないから、キリモミ飛行とかしようとするな!》

 しかしコロナは止まらない。
 オレの制止を無視して、クルクルと小さく回る青いスーラ製の機体が急降下。その後に急上昇して、大きく一回転して通常飛行に戻る。

《目、目が回る……》
「おおー、なんという機動性。これはいい玩具が手に入りました。私は空の女王を目指します」

 コロナがふざけた宣言をする間にも、いくつもの土地の上を超えていくスーラジェット。
 後方へと白い雲を長い尾のように伸ばしながら飛んでいく。
 陽が暮れて夜となり、紅い月が出ても猛スピードにて飛び続け、それが姿を消す頃になって、ようやく目指す場所を視界の先に捉えた。

《山よりも高い巨大な三本の大木……、彼女が言っていたのはアレだな。よし、コロナ、そろそろ出力を落とすから、着地の準備を始めろ。落下傘方式で降りるぞ》
「えー、もう、面倒だから強硬方式でいいじゃないですか。このままドカンといいましょうよ」
《アホか! こんな勢いで突っ込んだら地上が大惨事になるわ。敵認定されてエルフどもにボコボコにされるのなんてゴメンだ》

 美形が多く、魔力の扱いに長けた種族として有名なエルフだが、華奢な見た目に反して肉体強度はかなり高い。個体差はあるものの総じて強い種族であると言える。自然寄りの独自の文化を持つが、排他的というわけでもなく、かといって大人しいというわけでもない。礼儀のなってない奴は相手にしないし、売られた喧嘩はしっかりと買う、どちらかというと戦士のような気風なのだ。

 出力を調整しつつ、徐々に高度を下げていく。
 ずっと空を飛んでいたせいか、距離感がどうにも狂っており、ちゃんと掴めないので、落下傘を開くタイミングはコロナに委ねた。

「いまです」

 コロナの合図により、ぱっと後方に大きな落下傘が展開される。
 ガクンと推進力が落ちて、スーラジェットは水平移動から垂直移動へと移行する。
 ゆらゆらと降りていく青いスーラに包まれた自動人形。
 途中、何度か横風が吹いて流されそうになるのをコロナが上手に操って、なんとか地上へと辿り着く。
 オレたちが降り立ったのは、三本の巨木の根元に展開してある都市部の開けた場所。

 ポヨンとスーラボディにて着地時の衝撃を殺し、無事に降り立ったオレとコロナ。
 しかしその直後に周囲を鎧を着込んだエルフの戦士たちに囲まれてしまう。
 落下傘が地表へと近づくほどに、眼下が騒ぎになっているのには気がついていた。
 突然の空からの来訪者、そりゃあ不審がられてもしようがない。

「何者か!」

 周囲の一団より、男のエルフが進み出て問いかけてくる。おそらくは彼がこの場の代表なのだろう。事前に打ち合わせていた通りにコロナに対応をさせる。

「私は一級冒険者のコロナ、元S級冒険者であるエメラさんの要請により参上しました」

 身分証のプレートを差し出し、男に渡すコロナ。
 それを確認した彼の命により、周囲が武器を下げた。

「そうであったか、エメラ殿の。ならばすぐに案内しよう。こっちだ、ついてきてくれ」

 エメラさんの名前が出た途端に、沈痛な面持ちとなった男。
 先導する彼の様子に、思っていた以上に彼女の身が危険な状態にあることを、オレは察する。
 コロナも空気を読んで何も言わない。そのまま二人と一体は黙ったまま、歩いて行く。
 心配で気もそぞろなせいか、どこをどう歩いたのかもよくわからない。
 気づいた時には大きな建物の中へと入っていく男。
 慌てて後に続くと、そこは病院であった。
 階段を昇り、長い廊下を進んだ先の二階の角部屋へと案内される。
 そこでオレは病床にて伏せっている彼女と再会した。


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