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207 コロナと砂の海。
しおりを挟む乾いた風が吹く。
その度にサラサラと砂粒が流れて、天然のキャンパスに様々な模様を描く。
地面のすべてが灼熱の太陽によって生み出された、熱砂によって埋め尽くされている。
遥か遠くに見える景色が歪み、陽炎を立て、蜃気楼の幻想が旅人を誘う。
内地にある幅の広い川沿いを、北へと遡ること約三ヶ月、思いのほかに過酷な内容の旅路を経て、オレたちの前に姿を現した砂の海。
オレとコロナは感無量であった。
なにせ水辺を歩いているとモンスターと遭遇しまくること、しまくること。あまりにも大変過ぎて、思い出したくもないほどである。
港町アンクールから、なんとか引き留めようとする面々を振り切って出立し、後をつけてくるきな臭い尾行を撒いて、川まで到達したまでは良かったのだが、そこから先が長かった。
水は命の源とはよく言ったもので、水辺には様々な生き物たちが集まる。
モンスターとて例外ではない。奴らとて喉は乾くし、水も飲む。おかげで水辺はどこも千客万来、そしてそれを狙うモノらも集まって、結構な修羅地獄と化していた。
下手に川から離れると方角を見失いかねないので、それもならず、ならばと川の上をホバークラフト形態で走り抜けようとしたら、水の中から狙われまくって、おちおち水面に浮かんでもいられない。一度なんてデカい口が真下からせり上がってきて、あやうくパックンされるところであった。
どうやら川の中の生存競争は、森よりもなお苛烈であったらしい。それを理解したオレとコロナは、横着せずに川沿いを進むことにした。
ところ変われば生息する生き物の特性もガラリと変わる。
目指す砂地が近づくほどに植物の数は激減し、露出した岩肌や荒れた土地が目立つようになる。それに呼応するかのように擬態に優れたモンスターが多数出現して、オレたちを苦しめた。
森とは違って隠れる場所が極端に減ったがゆえに、発展した能力なのだろうが、見た目だけでなく魔力の気配を消すのも巧で、ちょっとやそっとじゃ見分けがつかない。
休憩がてらオヤツを愉しもうと準備していたら、少し目を離した隙にかっ攫われること度々、これは針金みたいな細い二本の足を持つ小型のモンスターの仕業で、ちょっと見には、その辺に落ちてる小石と見分けがまるでつかない。そいつが本性を晒してオヤツをクチバシに咥えては一目散に走って逃げていく。
その速いこと速いこと、あまりにも見事な逃げっぷりにて、こちらは呆気にとられて見送ることしか出来やしない。
一度、キレたコロナが追いかけたのだが、その隙に別の個体たちによって、出し並べていた残りのオヤツを根こそぎ奪われて以来、彼女は憮然として動かないという選択をとるようになった。
「もしも一つだけ願いが叶うのでしたら、私は迷わず奴らの撲滅を願います」
野営の夜、焚火の炎に照らされながら、そう呟いたコロナの横顔はかなり怖かった。
雄大な砂の絶景に言葉もないオレとコロナ。
苦労した分、感動もひとしおである。
そんな砂の海ではあるが、ここにも国があるとのこと。砂だらけの過酷な環境ゆえに不毛地帯なのかと思えば、そんなことはなくオアシスが点在しており、そこを中心に人々が集い生活を営んでいる。
それらを繋ぐのが砂舟、帆に風を受けて砂の上を走る乗り物だ。
この地では毎日決まった時刻、決まった方角に強い風が吹くらしく、風の経路なるものが存在しており、それに沿って舟は征く。舟は小型のものから、大量の荷や人を運べるサイズのモノまであるらしく、オレたちもそのうちのどれかのお世話になる予定だ。
《さて、とりあえず舟の停留所があるという町へと向かうとするか》
「ここからだと……、北東に二時間ほどでしょうか」
コロナが地図を取り出して現在位置を確認する。
大雑把な内容の地図だが、それでもこれまでの旅の経験から彼女は概算を導きだす。この手の作業はオレよりも自動人形であるコロナのほうが上、だから近頃では任せっぱなしである。
目的地へと向かって移動を始める青いスーラとオカッパ頭の女冒険者、その先でオレは懐かしい思い出と遭遇することになる。
砂漠の外周部を進んでいると、ひょっこりと姿を見せた町。
この世界では珍しく外壁らしきものが見当たらなくて、代わりに見たことのないトゲトゲだらけの植物が周辺に沢山植えられてある、あとは簡単な柵があるばかり。一応は町へと出入りする人を調べるための門はあった。
そこに立つ衛兵に訊ねてみると、アレはある種のモンスター除けらしく、おかげで外壁いらずなんだとか。もっともこんな熱気の強い場所で下手に壁なんかで町を囲ったら、空気の対流が滞り、蒸し風呂状態になって、とてもではないが生活なんて出来やしないとも言っていた。
小さな町のわりには活気があり、人や物の往来が盛んだ。道の両端には露天がびっしりと並び、いろんな品が取引されている。それらを冷やかしながら停留所へと向かう道すがら、オレは奇妙な品を見つけた。
その露天はお土産物を扱った店であったが、その軒先にてぶら下がっていた黒い仮面がオレの注意を引き、思わず足を止めてしまう。
「どうかしましたか、そのお面が欲しいのですか? 案外マスターにも可愛いところが……、はっ! もしやついに覆面プレイに目覚めたのですね。なんてマニアックな、さすがは変態マスターです」
《違うから! ちょっと気になっただけで、どうしてそこまで言われなきゃならんのだ。なんだよ覆面プレイって……、どこでそんな爛れた知識を仕入れてきやがるだ。まったく》
「大部分の知識は元から頭の中に入っています。後は途中で立ち寄った街の図書館やら本屋などでサラサラと立ち読みして、絶えず知識を補充するように心がけています」
《なにその無駄な勤勉さ、それに速読までこなすのかよ。本当に優秀な自動人形だな》
そう言ってやったら珍しくコロナがモジモジ照れた。
別に褒めちゃいねぇよ。
そんなやりとりもあって、仮面のことなんてすっかり忘れてしまったオレは、露天の前から再び動き出し、停留所へと向かう。するとコロナもすぐ後ろをついて来た。
じきに船体が並ぶ姿が見えてきた。
各々の舟の側では、船員や荷を運ぶ人足らが忙しなく動き回っていた。
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