204 / 226
203 コロナと長い夜。
しおりを挟む「なんだか嫌な予感がするねぇ」
ギルドマスターが不吉な言葉を口にした直後に、城壁の方から怒号と叫び声が聞えてきた。
「城門が破られたっ!」
その声にはっとするオレたち。誰が阿呆だ! 最初からこれが連中の狙いだったんだ。わざわざ目立った動きをしていたのは、こちらの注意を逸らすためだったんだ。
「くそっ! すぐに第二計画にとりかかりな! 各方面に伝達、動ける奴は正門前広場に集合。そこで連中を迎え撃つ」
ギルドマスターの指示により、伝令が走り出す。
彼女の云う第二計画とは、万が一に城門を突破された際の対策である。
城門から連なる建物を爆破し倒壊させ、正面にある広場へと通じる一本道の袋小路を強引に造り出す。そこに敵を誘い込んで殲滅するというもの。住民らの退去をすでに済んでいる。
「準備が整うまで時間稼ぎをします」とコロナが言った。
「すまないねぇ。アンタには無茶ばかりさせちまって」
「お気になさらず、では」
コロナがオレに飛び乗って、そのまま城門へと向かう。
城門前では赤い奴を筆頭に、雪崩を打って侵入してくるハンザキどもの波を、なんとか食い止めようとしている冒険者や騎士たちの姿があった。
そんな味方の頭上を飛び越える青いスーラとオカッパ頭の女冒険者、コロナが双剣を手に敵陣の真っ只中へ降り立つ。オレは彼女の剣の邪魔にならないように、少し離れたところに着地した。これだけ密集した混戦状態、しかも味方もいるので迂闊に剣撃は飛ばせない。コロナはどうするのかと見ていたら、彼女は突きを主体とした戦闘スタイルを披露した。
最小限の動きにて次々に繰り出される突き、黒剣の切っ先がハンザキどもの眉間や喉に風穴を開ける。
オレは六本の触手を出現させ、先端を鋭角硬化し、奴らの足元を素早く動き回っては、すれ違いざまにハンザキどもを貫き屠っていく。
コロナは城門の方へと向かい前へ前へと、敵群を押し返すように進んでいく。
オレは逆に彼女の後方を、味方たちが頑張っているほうへと敵を蹴散らしていく。
ハンザキどもの意識が街の内部へと向いているので、ひたすら背後から突いて突いて突きまくる。すると緑の魚体の向こう側に赤い奴の背中が見えた。一級パーティーと戦っている。分銅の付いた鎖を投げて、相手の脚部に絡めては動きを阻害し、戦いを有利に運んでいる。
獲物を横取りするようで悪いが、ここは後ろから狙撃させてもらう。
ライフルもどきから放たれた銃弾が奴の後頭部へと着弾し、あっさりと頭部を吹き飛ばす。
どうやら単発の攻撃ならば、弾速も威力も格段に上なので充分に通用するようだ。
ちょっと気になっていたからよかった。スッキリしたオレは再び周囲の敵へと対峙する。ときおり倒した相手を掴んではコロナのいる辺りから、更に前の方へと放り投げる。これは撒き餌みたいなもんだ。この場で死体を積み上げたら、そこにハンザキどもがウヨウヨと集まってきて、身動きが取れなくなってしまうから。
じきに後方のほうはあらかた片がついて、戦線を城門付近にまで押し返すことに成功。そのタイミングで作戦準備が整ったとの連絡が入った。
《コロナ、そろそろ引くぞ》
「わかりました」
返事をした自動人形が、その場にて一回転をする。すると周囲のハンザキどもの胴体が両断されて、一斉にハラワタをぶち撒けた。
彼女を中心とした死の空白地帯が生まれる。そこにオレが触手を伸ばしてコロナを回収。一目散に味方が守る防衛線にまで退却した。
オレたちが戻るのを援護するために味方より魔法が放たれ、追い縋ろうとする群れを足止めする。そして勢いのままに防衛線を超え、自陣へと入ったの同時に爆発音が起こった。
仕掛けにより周囲の建物が大きく傾いでいき、ゆっくりと城門の方へと横倒しなる。それが何棟も連なり、まるでドミノ倒しのごとく折り重なり瓦礫となって、地鳴りとともに盛大な土煙を巻き上げ視界を埋め尽くす。
やがて視界が晴れたとき、そこには瓦礫の壁に囲まれた袋小路が出現していた。
瓦礫の上にずらりと並び立つ戦士たち。
袋小路の中へと我先に押し寄せてくるハンザキの群れ。
騎士団長の号令を合図に一斉に弓矢が放たれ、魔法が降り注ぐ。攻撃手段の無い者は手にした石くれを投げつける。
オレはスーラボディを砲台形態にし、ガトリングもどきと化してコロナの手に身を委ね、ひたすら弾丸を吐き出し続けた。
倒しても倒しても、後から沸いて来る緑色の魚人型のモンスターたち。
守る側も必死だ。ここを抜かれたら、もう後がない。
攻撃の手を緩めることなく、限界に達した者は後ろに控えていたメンバーと交代しては攻撃を続ける。なにも死闘はここだけで演じられているわけじゃない。城壁の上でも、そして人魚たちが守る浜辺でも、きっと似たようなものであろう。
じきに空が白染み始めると、目に見えて敵の勢いが衰え始め、長い夜が明ける頃になって、ついに緑の濁流が途絶える。最早、城門を抜けて袋小路へと入って来るハンザキの姿はない。ようやく悪夢が終わったのだ。
誰からともなく歓声が起こる。それに呼応するかのように、一帯にいた連中が勝利の雄叫びを上げた。
「終わったのでしょうか」とコロナが訊ねてくる。
《……だといいがな。そのわりには城壁の方が静かすぎないか? ちょっと行ってみるか》
大の字になって伸びているギルドマスターに断りを入れてから、城壁の上へと向かう。
そこでオレたちは、真の絶望を目撃することになる。
1
お気に入りに追加
359
あなたにおすすめの小説
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
御者のお仕事。
月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。
十三あった国のうち四つが地図より消えた。
大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。
狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、
問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。
それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。
これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる