青のスーラ

月芝

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203 コロナと長い夜。

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「なんだか嫌な予感がするねぇ」

 ギルドマスターが不吉な言葉を口にした直後に、城壁の方から怒号と叫び声が聞えてきた。

「城門が破られたっ!」

 その声にはっとするオレたち。誰が阿呆だ! 最初からこれが連中の狙いだったんだ。わざわざ目立った動きをしていたのは、こちらの注意を逸らすためだったんだ。

「くそっ! すぐに第二計画にとりかかりな! 各方面に伝達、動ける奴は正門前広場に集合。そこで連中を迎え撃つ」

 ギルドマスターの指示により、伝令が走り出す。
 彼女の云う第二計画とは、万が一に城門を突破された際の対策である。
 城門から連なる建物を爆破し倒壊させ、正面にある広場へと通じる一本道の袋小路を強引に造り出す。そこに敵を誘い込んで殲滅するというもの。住民らの退去をすでに済んでいる。

「準備が整うまで時間稼ぎをします」とコロナが言った。
「すまないねぇ。アンタには無茶ばかりさせちまって」
「お気になさらず、では」

 コロナがオレに飛び乗って、そのまま城門へと向かう。

 城門前では赤い奴を筆頭に、雪崩を打って侵入してくるハンザキどもの波を、なんとか食い止めようとしている冒険者や騎士たちの姿があった。
 そんな味方の頭上を飛び越える青いスーラとオカッパ頭の女冒険者、コロナが双剣を手に敵陣の真っ只中へ降り立つ。オレは彼女の剣の邪魔にならないように、少し離れたところに着地した。これだけ密集した混戦状態、しかも味方もいるので迂闊に剣撃は飛ばせない。コロナはどうするのかと見ていたら、彼女は突きを主体とした戦闘スタイルを披露した。
 最小限の動きにて次々に繰り出される突き、黒剣の切っ先がハンザキどもの眉間や喉に風穴を開ける。
 オレは六本の触手を出現させ、先端を鋭角硬化し、奴らの足元を素早く動き回っては、すれ違いざまにハンザキどもを貫き屠っていく。
 コロナは城門の方へと向かい前へ前へと、敵群を押し返すように進んでいく。
 オレは逆に彼女の後方を、味方たちが頑張っているほうへと敵を蹴散らしていく。
 ハンザキどもの意識が街の内部へと向いているので、ひたすら背後から突いて突いて突きまくる。すると緑の魚体の向こう側に赤い奴の背中が見えた。一級パーティーと戦っている。分銅の付いた鎖を投げて、相手の脚部に絡めては動きを阻害し、戦いを有利に運んでいる。
 獲物を横取りするようで悪いが、ここは後ろから狙撃させてもらう。
 ライフルもどきから放たれた銃弾が奴の後頭部へと着弾し、あっさりと頭部を吹き飛ばす。
 どうやら単発の攻撃ならば、弾速も威力も格段に上なので充分に通用するようだ。
 ちょっと気になっていたからよかった。スッキリしたオレは再び周囲の敵へと対峙する。ときおり倒した相手を掴んではコロナのいる辺りから、更に前の方へと放り投げる。これは撒き餌みたいなもんだ。この場で死体を積み上げたら、そこにハンザキどもがウヨウヨと集まってきて、身動きが取れなくなってしまうから。
 じきに後方のほうはあらかた片がついて、戦線を城門付近にまで押し返すことに成功。そのタイミングで作戦準備が整ったとの連絡が入った。

《コロナ、そろそろ引くぞ》
「わかりました」

 返事をした自動人形が、その場にて一回転をする。すると周囲のハンザキどもの胴体が両断されて、一斉にハラワタをぶち撒けた。
 彼女を中心とした死の空白地帯が生まれる。そこにオレが触手を伸ばしてコロナを回収。一目散に味方が守る防衛線にまで退却した。

 オレたちが戻るのを援護するために味方より魔法が放たれ、追い縋ろうとする群れを足止めする。そして勢いのままに防衛線を超え、自陣へと入ったの同時に爆発音が起こった。
 仕掛けにより周囲の建物が大きく傾いでいき、ゆっくりと城門の方へと横倒しなる。それが何棟も連なり、まるでドミノ倒しのごとく折り重なり瓦礫となって、地鳴りとともに盛大な土煙を巻き上げ視界を埋め尽くす。
 やがて視界が晴れたとき、そこには瓦礫の壁に囲まれた袋小路が出現していた。

 瓦礫の上にずらりと並び立つ戦士たち。
 袋小路の中へと我先に押し寄せてくるハンザキの群れ。
 騎士団長の号令を合図に一斉に弓矢が放たれ、魔法が降り注ぐ。攻撃手段の無い者は手にした石くれを投げつける。
 オレはスーラボディを砲台形態にし、ガトリングもどきと化してコロナの手に身を委ね、ひたすら弾丸を吐き出し続けた。
 倒しても倒しても、後から沸いて来る緑色の魚人型のモンスターたち。
 守る側も必死だ。ここを抜かれたら、もう後がない。
 攻撃の手を緩めることなく、限界に達した者は後ろに控えていたメンバーと交代しては攻撃を続ける。なにも死闘はここだけで演じられているわけじゃない。城壁の上でも、そして人魚たちが守る浜辺でも、きっと似たようなものであろう。

 じきに空が白染み始めると、目に見えて敵の勢いが衰え始め、長い夜が明ける頃になって、ついに緑の濁流が途絶える。最早、城門を抜けて袋小路へと入って来るハンザキの姿はない。ようやく悪夢が終わったのだ。
 誰からともなく歓声が起こる。それに呼応するかのように、一帯にいた連中が勝利の雄叫びを上げた。

「終わったのでしょうか」とコロナが訊ねてくる。
《……だといいがな。そのわりには城壁の方が静かすぎないか? ちょっと行ってみるか》

 大の字になって伸びているギルドマスターに断りを入れてから、城壁の上へと向かう。
 そこでオレたちは、真の絶望を目撃することになる。


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