青のスーラ

月芝

文字の大きさ
上 下
202 / 226

201 コロナと防衛戦。

しおりを挟む
 
 人魚たちと一旦地上へと戻ったオレは、冒険者ギルドに顔出す。コロナと合流するためだ。そこでみなに囲まれて、困惑しているコロナの姿と出くわした。どうやら派手に活躍し過ぎたのが原因のようだ。オレの姿を見つけた彼女が、人々を押しのけて近寄ってくる。

《そっちも無事のようだな》
「はい。でも面倒です。ハンザキの次は冒険者らに囲まれて」
《こんな状況下だからな。みな何かに縋りたいんだろうよ。英雄候補にはちょうどいいんじゃないのか》

 そう揶揄うと眉間に皺を寄せて心底嫌そうな顔をするコロナ。

「それは遠慮したいです。そんなことよりも人魚の皆さんも無事のようですね」
《あぁ、単純な力比べなら、人魚の方が上だからな。あの数さえなければ、まず負けやしねぇと思う》
「それほどですか、人魚のチカラは」
《たった二百であれだからな……、海の中云々を別にしても、こと集団戦においては敵なしかもしれん。あれは意志の疎通というよりも、同調に近いんだろうな。度の過ぎた同胞愛の為せるわざか知らんが、訓練だけでは身につかない滑らかさが連携に見られた。あと魔法が、わりとエグイ》
「なるほど。すると明らかに足を引っ張ってるのは、こちらですね」

 ちらりと周囲に視線を向けたコロナ。
 そこには傷つきぐったりと憔悴している、冒険者らの姿があった。

「レジーナたちは?」
《彼女たちは「海の森」に面した浜の周辺に陣を張るって。あそこだと体を休める場所もあり、海もすぐ目の前だから、色々と都合がいいんだと》
「なるほど。街としても都合が良さそうです。放棄する区画を守ってもらえるんですから」
《問題は第二波の規模だよなぁ》
「さっきのより少ないってことはなさそうです」

 海中で見た光景を思い出してゲンナリするオレ。海底を埋め尽くす魚人の群れ、まるで趣味の悪い緑の絨毯、あれが街という一点に群がると考えるだけで、身震いがしてくる。

《最悪の事態を想定しておいたほうがいいな》
「最悪……ですか」
《守るべき優先順位だよ。まずオレとコロナが生き残るのは当然として、次点では人魚たちを優先する。悪いが街の連中は後回しだ》

 本当に守りたいモノを間違えたり、すべてを守れるだなんて勘違いをしたら、何もかもがその手から零れ落ちてしまう。非情なようだが闘い続けていれば、決断と選別を迫られる時は必ず来る。

「……それでも貴方は、きっと自分が傷つくことも構わずに、闘うのでしょうね」

 自動人形がポツリと小声で、何事かを呟いたようであったが、己の思考に没頭している青いスーラに聞こえることはなかった。



 ギルドマスターのオバさんが、どっしりと椅子に腰かけて踏ん反りかえっている。
 立派な体躯をした男が、そんな彼女を睨んでいる。彼は騎士団長だ。
 人魚らを指揮していた赤髪の女傑の姿もあり、静かに佇んでいる。
 他にも一級冒険者パーティーを率いるリーダーの男や、街の主だったお歴々も顔を出している。防衛には街の住人らの協力も必須だからだ。だというのに空気がピリピリとしている。
 ここはギルド内の会議室、今夜の防衛戦についての話し合いが行われている真っ最中。その席に何故だかコロナとオレも、強制的に参加させられている。どうやら昼間の活躍が高く評価されたらしい、ありがた迷惑な話だ。そしてこの場が微妙に険悪な雰囲気になっているのもまた、オレたちが原因であった。
 騎士団としては圧倒的火力を誇るコロナとオレのガトリングもどきを、前面に押し出して防衛任務に当たりたい。
 ギルドとしては、引き続き遊撃として自由に動かしたほうがいいと考えている。矢面に立つ冒険者らも、いざという時に救援に駆けつけてくれるのは、心強いと同意見。
 人魚としては共に海の中での迎撃に当たってくれると助かる。
 難儀なのはどの意見も、もっともなところ。おかげで誰も引き下がろうとしない。しかし時間は限られている。そこで当人に選ばせようじゃないかと、オバさんが言い出したから堪らない。みんなが一斉にこっちを見てくる。
 視線を受けてコロナがオレの方をチラ見する。「どうするの?」と目で問いかけてくる。
 そこでオレが選んだのは……。



 完全に陽が暮れて夜となった。
 今宵は紅い月が出ており、淡く輝く月光にて地上を照らす、その下を蠢く無数の影たち。
 続々と上陸してきた緑色の魚人らが、街へと向かいゾロゾロと歩いてくる。
 その時、城壁の上より一条の光が放たれた。
 光の筋は真っ直ぐに突き進み、ハンザキどもの密集している地点へと到達。
 その瞬間に大地が揺れて、轟音ととも焔が立ち昇り、夜空を焦がす。炎は周囲へと燃え広がり、あらゆるモノを飲み込んでは、消し炭へと変えていく。

「これは凄まじいです。だから日頃から炎系の魔法は控えているんですね」

 オレが放った炎の魔法を間近に見て、コロナがそんな感想を零す。

《そういうこと。うっかり使えば類焼は免れない。使いどころを間違えれば味方ごとドカンだし、火力が強すぎるのも問題だな》

 スーラボディの魔力回路は、他の生物と比べても伝達効率が圧倒的に優れている。他がせいぜい三割程度ならば、こちらは軽く十割を超える。同じ魔力で同じ魔法を使えば、単純に三倍強の威力が出る。それに加えて魔力操作による魔素の濃度変化、回転数を上げることにより、膨大な魔力を発生させる等を組み合わせれば、桁違いの破壊力を産み出す。とはいえ先に述べたような欠点も抱えているので、使いどころが難しい。この世界には魔法効果を無効にしたり、魔力を吸収したりする奴もいるし、後先考えずにぶっ放していたら、手痛いしっぺ返しを喰らうことになりかねない。
 今回に関していえば、敵の群れと街との距離が問題となる。
 近過ぎてはこっちに被害が及ぶので駄目、かといって水の中では意味がない。使えるのはせいぜい連中が陸に上がって、少し進んだ辺りまでの地点、そこを通り過ぎたら、もうこの攻撃は使えない。
 ゆえに四発放ったところで、打ち止めとなった。
 同胞らの身を焦がす篝火に照らされ、ハンザキどもの行進が城壁へと迫って来る。
 これを近づけまいと、城壁上に布陣した奴らが弓を射かけ、魔法を放つ。
 オレもスーラボディを変形させて、ガトリングもどきになって応戦。
 コロナが操作して的確に敵を撃ち抜いていく。ある程度敵を減らしたところで、コロナがオレを担いで駆け出す。砲台であることすら止めて、完全に銃身のみと化すことで、毎分二百発が二百五十発の発射数となり、移動しながら攻撃を繰り出すことが可能となった。ただしコロナの馬鹿力でないと、暴れ竜の如く激しく振動するこの形態のスーラボディは、とてもではないが抑えきれない。
 城壁の上を駆けては、攻撃の手が足りてない場所にて銃弾の雨を降らせ、また移動する。
 これが事前の会議にて、オレたちが出した結論。遊撃と防衛を合わせた方法。
 騎士団の意を汲み、なおかつ冒険者ギルドの面子も立てる。人魚たちの方は彼女たちの実力を信じて任せると言って、納得してもらった。もちろん、もしもの時には駆けつけるつもりだ。

 黒のオカッパ頭の女冒険者が青いスーラを抱えて、城壁の上を右へ左へと駆け回る。
 些か忙しないが、このまま何とかイケるかとオレたちが思った時、ハンザキの群れの中から躍り出る赤い個体が出現する。その数は全部で五体。
 これまでの緑色とは違い、ノロノロと歩くのではなくて、素早い動作にて駆け寄り、向かってくる矢を払いのけ、魔法をかわし、瞬く間に壁へと取りついたかと思えば、まるで地面を走るかのように垂直な壁を駆け上がって、城壁の上へと辿りついて、散開してしまった。
 これまで相手にしていた連中とは明らかに別次元の化け物。おそらくはハンザキの変異種。このうちの一体がオレたちの前に立ち塞がった。


しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

御者のお仕事。

月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。 十三あった国のうち四つが地図より消えた。 大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。 狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、 問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。 それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。 これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...