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195 コロナと五色の珠。
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はっと気がついたら朝になっていた。
何故だかオレはコロナの腕の中で目覚めた。
すぐ隣にはヘソを丸出しにして、大の字で涎を垂らすレジーナ。
チラリと胸の双丘に目をやる。
そういえば彼女、人魚のわりに随分と慎ましやかなんだよなぁ。
もしかして爺の血の影響がこんなところに?
会場内は死屍累々の惨状。
お堀にぷかぷか浮かんで寝ている人魚たち。
ぱっと見には溺死体にしか見えないので、朝一では心臓に悪い。
こんな姿を見れば、男どもの幻想も一発で砕けるであろう。
モゾモゾとオレが動いたのでコロナもスリープ機能を解除して起きだす。
「マスター、昨夜は随分とお楽しみでしたね」
《どの口でほざきやがる。さっさと主人を売ったくせに》
「それは仕方がありません。自己保身、じゃなかった自己防衛機能が勝手に作動してしまったのです」
《…………》
オレたちがそんな会話をしていると、パルメラさんがお堀より姿を現す。
慌ててオレは口を噤み、コロナも知らんぷりをする。あくまで人前ではコロナが主人とオレが従魔という設定なのだ。
「お目覚めになられましたか」
「はい。昨夜はありがとうございました」
そう言って礼を述べた拍子にコロナの胸元から、首からぶら下げてあった小袋がぽろりと外に出た。それを目撃した途端に、にこやかだったパルメラさんの表情が、一変して厳しいモノとなる。
「すみません、コロナさん。その袋の中身をお訊ねしてもよろしいでしょうか?」
「これですか、これには旅の途中で女の子からもらった、キレイな魔石の珠が入っているのですが」
「見せて頂くことは可能でしょうか?」
「構いませんよ。どうぞ」
差し出された小袋を受けとるパルメラさん。
袋の中から五色の珠が、コロリと彼女の手の平に現れる。
それを見た途端にパルメラさんは「あぁっ」と悲痛な声を上げた。
いつしかお堀で寝ていたはずの人魚たちが全員目を覚まして、オレたちがいる浮島をぐるりと囲んでいた。中には嗚咽を零し、すすり泣いている者もいる。レジーナさんも起き出して、真剣な表情にて珠を見つめている。
「そうか……、だから、あたいたちは、コロナに惹かれていたんだ……」
レジーナがそう呟いた。
人魚たちは陸の女たちとは違う。
彼女たちは永遠に変らぬ愛など求めない。そんなものは泡沫だと知っているから。だから異性に求めるのは子種だけ。さりとて恋をしないわけではない。どうせ子を成すのならば好いた相手が良い。例え一夜限りの交わりであったとしても、そこに込められる想いは本物なのだ。
だが、極稀にだが、陸を目指す人魚がいる。たった一度の繋がりを忘れられずに、恋い焦がれて、相手に追い縋る悲しい女が……。
大抵は諦めて海へと帰って来る。しょせんは住む世界が違うのだ。しかし何らかの事情で帰れなかった者もいる。無念のうちに果てた人魚、その身は泡となり消えて、後に残るのが五色の魔石の珠。
通常、命果てた人魚もまた海の泡となって消える。
だがその時に残るのは四色の魔石の珠。
それぞれの色が喜怒哀楽を表し、五つ目の色は無念を表すと云われていると、パルメラさんが教えてくれた。
人魚たちは同胞愛が強い。コロナの持つ魔石の珠から、何らかの気配を感じ取っていたのであろう。それがあの視線の動きの正体であったのだ。彼女たちは無念の帰還を果たした同胞の、哀れな魂に反応していたのだ。
この話を聞いたコロナがオレの方をじっと見つめた。
オレはスーラボディを震わして、反応してみせる。これは肯定の合図だ。
それを確認してから鎮まり返っている中で、コロナが口を開く。
「わかりました。そういう事情でしたら、こちらをお持ち下さい。きっとこれをくれた女の子も同じ事をすると思いますから。なにせ病に倒れた母親のために、たった一人で危険も顧みずに、森に突撃するような優しい子でしたので」
コロナの言葉に膝をついて謝意を示すパルメラさん。
それに倣うかのように他の人魚たちも頭を下げた。
五色の珠はパルメラさんの手によって、故郷の海へと還ることになる。
すべての人魚たちが眠る場所があるらしく、そこに収められるとのことであった。
だが話はこれだけで終わらない。
なにせ人魚たちは同胞愛に厚い種族。
仲間たちが傷を受ければ相手を攻め滅ぼし、仲間たちが受けた恩には、全力でもって報いずにはいられない。
「この度の一件、女王陛下に報告しますので、しばし猶予を頂きたく……」
パルメラさんがとんでもない事を言い出した。なんだか恩賞が出るらしい。そんなモノは遠慮する、成り行きで海まで魔石の珠を運んできただけだとコロナが主張しても、彼女は「これは自分たちにとって、それほどの重要案件なのです」と答えるばかり。
レジーナにも「諦めな」と言われてしまった。
十日ぐらいは時間が欲しいというパルメラさん。
こうして半ば強制的に、港街にての長逗留が確定したオレとコロナなのであった。
何故だかオレはコロナの腕の中で目覚めた。
すぐ隣にはヘソを丸出しにして、大の字で涎を垂らすレジーナ。
チラリと胸の双丘に目をやる。
そういえば彼女、人魚のわりに随分と慎ましやかなんだよなぁ。
もしかして爺の血の影響がこんなところに?
会場内は死屍累々の惨状。
お堀にぷかぷか浮かんで寝ている人魚たち。
ぱっと見には溺死体にしか見えないので、朝一では心臓に悪い。
こんな姿を見れば、男どもの幻想も一発で砕けるであろう。
モゾモゾとオレが動いたのでコロナもスリープ機能を解除して起きだす。
「マスター、昨夜は随分とお楽しみでしたね」
《どの口でほざきやがる。さっさと主人を売ったくせに》
「それは仕方がありません。自己保身、じゃなかった自己防衛機能が勝手に作動してしまったのです」
《…………》
オレたちがそんな会話をしていると、パルメラさんがお堀より姿を現す。
慌ててオレは口を噤み、コロナも知らんぷりをする。あくまで人前ではコロナが主人とオレが従魔という設定なのだ。
「お目覚めになられましたか」
「はい。昨夜はありがとうございました」
そう言って礼を述べた拍子にコロナの胸元から、首からぶら下げてあった小袋がぽろりと外に出た。それを目撃した途端に、にこやかだったパルメラさんの表情が、一変して厳しいモノとなる。
「すみません、コロナさん。その袋の中身をお訊ねしてもよろしいでしょうか?」
「これですか、これには旅の途中で女の子からもらった、キレイな魔石の珠が入っているのですが」
「見せて頂くことは可能でしょうか?」
「構いませんよ。どうぞ」
差し出された小袋を受けとるパルメラさん。
袋の中から五色の珠が、コロリと彼女の手の平に現れる。
それを見た途端にパルメラさんは「あぁっ」と悲痛な声を上げた。
いつしかお堀で寝ていたはずの人魚たちが全員目を覚まして、オレたちがいる浮島をぐるりと囲んでいた。中には嗚咽を零し、すすり泣いている者もいる。レジーナさんも起き出して、真剣な表情にて珠を見つめている。
「そうか……、だから、あたいたちは、コロナに惹かれていたんだ……」
レジーナがそう呟いた。
人魚たちは陸の女たちとは違う。
彼女たちは永遠に変らぬ愛など求めない。そんなものは泡沫だと知っているから。だから異性に求めるのは子種だけ。さりとて恋をしないわけではない。どうせ子を成すのならば好いた相手が良い。例え一夜限りの交わりであったとしても、そこに込められる想いは本物なのだ。
だが、極稀にだが、陸を目指す人魚がいる。たった一度の繋がりを忘れられずに、恋い焦がれて、相手に追い縋る悲しい女が……。
大抵は諦めて海へと帰って来る。しょせんは住む世界が違うのだ。しかし何らかの事情で帰れなかった者もいる。無念のうちに果てた人魚、その身は泡となり消えて、後に残るのが五色の魔石の珠。
通常、命果てた人魚もまた海の泡となって消える。
だがその時に残るのは四色の魔石の珠。
それぞれの色が喜怒哀楽を表し、五つ目の色は無念を表すと云われていると、パルメラさんが教えてくれた。
人魚たちは同胞愛が強い。コロナの持つ魔石の珠から、何らかの気配を感じ取っていたのであろう。それがあの視線の動きの正体であったのだ。彼女たちは無念の帰還を果たした同胞の、哀れな魂に反応していたのだ。
この話を聞いたコロナがオレの方をじっと見つめた。
オレはスーラボディを震わして、反応してみせる。これは肯定の合図だ。
それを確認してから鎮まり返っている中で、コロナが口を開く。
「わかりました。そういう事情でしたら、こちらをお持ち下さい。きっとこれをくれた女の子も同じ事をすると思いますから。なにせ病に倒れた母親のために、たった一人で危険も顧みずに、森に突撃するような優しい子でしたので」
コロナの言葉に膝をついて謝意を示すパルメラさん。
それに倣うかのように他の人魚たちも頭を下げた。
五色の珠はパルメラさんの手によって、故郷の海へと還ることになる。
すべての人魚たちが眠る場所があるらしく、そこに収められるとのことであった。
だが話はこれだけで終わらない。
なにせ人魚たちは同胞愛に厚い種族。
仲間たちが傷を受ければ相手を攻め滅ぼし、仲間たちが受けた恩には、全力でもって報いずにはいられない。
「この度の一件、女王陛下に報告しますので、しばし猶予を頂きたく……」
パルメラさんがとんでもない事を言い出した。なんだか恩賞が出るらしい。そんなモノは遠慮する、成り行きで海まで魔石の珠を運んできただけだとコロナが主張しても、彼女は「これは自分たちにとって、それほどの重要案件なのです」と答えるばかり。
レジーナにも「諦めな」と言われてしまった。
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