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190 コロナと森の遺跡。
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ギルドの強制招集に応じてより五日目の朝。
いつもと同じように、すっかり馴染みとなった受付のオバちゃんのところに顔を出すと、いきなり奥に引きずり込まれた。
「おはよう、コロナさん。そしておめでとう、昇格だ。お前さんは今日から三級の冒険者だ」
オバちゃんの逞しい腕で、ギルドマスターの執務室へと放り込まれたオレたち。
待っていたのは、部屋の主の白髭の偉丈夫。
老境へと差し掛かっているハズなのに、覇気が衰え知らずな御仁。
そんな彼の第一声がコレだった。
冒険者ギルドの等級は登録時に五級から始まり、こなした仕事の質や量に応じて一級へと上がっていく。二級から上は一流とされており、更に大きな勲功や功績などを残すとS級となる。噂ではダブルS級やトリプルS級なんてのもあるらしいのだが、存在するのは御伽話の中だけで、実在はしていない。
それで冒険者登録をしてから、登録が抹消されない程度にしか冒険者稼業をしてこなかったコロナの等級は、もちろん最下級の五であった。それが四を飛び越して、いきなり三とは如何に?
「いやー、雑務だけで飛び級なんて、冒険者ギルドの歴史始まって以来の快挙かもしれん。なにせ五級の奴に指名依頼がバンバン入るんだからな。普通、指名っていったら三級以上から、ちらほら来れば大したもんだと言われるだぞ。それをお前さんときたら……」
普通ならば「ヤッホー、オレも今日から一人前の冒険者だー」と喜ぶところなのだろうが、真面目に冒険者をする気がないコロナは、まるで無反応。オレは胡乱な視線をギルドマスターに向けている。
だってそうだろう? たしかにオレたちは驚異の速さで雑務仕事を片付けまくった。依頼人からの評判も上々、これまでこの手の仕事を溜めがちであった、ギルドの面目躍如にも大いに貢献した。だから昇格もアリかもしれん。ただし、だからといって、いきなり三級はおかしい。
いささかわざとらしい持ち上げ方をするギルドマスター。
コロナはボケーとして、話を適当に聞き流している。
オレもじーっと眺めているだけ。
あまりにも反応の薄い一人と一体。
これを前にして、徐々に居たたまれなくなってきたギルドマスターが、ついに降参した。
「すまん。実はお前さんに折り入って頼みたいことがある。それで急遽、昇格をさせてもらった」
ガバッと大きな体を曲げて頭を下げるギルドマスター。
それを見たコロナがようやく口を開く。
「どうせそんな事だろうと思っていました。もしかして遺跡に向かった人たちの件ですか」
「おぉ! 話が早くて助かる。そうなんだ、連中が出発してすでに五日、遺跡まではゆっくり歩いて行っても、一日程度の距離だというのに……、いくらなんでもおかしいと思わないか?」
「そうですね。普通に考えれば全滅、もしくは動けない状況下に追い込まれている、と考えるのが妥当かと」
「やっぱりそう思うか……、オレも同じ意見だ。行った連中の中には、二等級も混じっているから安心していたんだが、想像していたよりも、ヤバイ奴が遺跡にはいるのかもしれん」
ギルドマスターの懸念も最もだろう。オレもそう思う。
すでに最大戦力を投入した、この田舎町のギルドには追加で打てる手立てがない。
そんな時だ。ペーペーだと思っていた雑用係の居残り組の中に、変な奴らが混じっているのを彼が知ったのは。とんでもない速さで次々と仕事を片付けていく。尋常ではない働きっぷりが、町の話題を独り占めするほどの活躍を見せる。
明らかに新人離れした能力を示した女冒険者とその従魔。「こいつはタダ者じゃないぞ」とギルドマスターは遅まきながら気がつく。そして彼は次にこうも考えた。
「だったらこんな雑用で遊ばしておくのなんて、もったいない」
手を合わせて拝むような格好で、懇願するギルドマスター。
ようは遺跡の様子をオレたちに見に行って欲しいということ。でもいくら能力があるとはいえ五等級の奴を行かせるのは、ちと具合が悪いので急遽、昇格をさせたということであった。
「どうしましょう、マスター」こっそりとオレに話しかけてくるコロナ。
《……どのみち遺跡の件が片付かないと、いつまでもここで足止めを喰らう、か。しゃーねぇ。引き受けてやりな。オレも気になるしな、まさかとは思うが、破軍みたいなのがいたら、シャレにならんしな》
かつて死闘を繰り広げた相手の姿を思い出し、オレのスーラボディがぶるっと震える。
破軍とは古の巨人兵のことで、超古代文明の遺産で驚くほどにタフで強かった。周囲にいる生物から魔力を根こそぎ奪って再生するわ、闘いの中でどんどんと学習するわ、とにかくとんでもない奴だった。しかもそれで下級兵とか言うんだから、古代文明、凄すぎる。
オレの指示に従ってコロナが要請を受理すると、ギルドマスターは心底、ほっとした表情を見せた。普段通りの態度とは裏腹に、彼も結構追い詰められていたのかもしれない。
普通ならば一日かかる距離でも、ホバークラフト形態で急げば二時間とかかりやしない。
オレとコロナは早速、森の遺跡へと向かうことにした。
荒野を進んでいくと、前方にこんもりと緑の塊が出現する。
目指す遺跡があるという森だ。まるで飛び地のようにポツンと存在している。
遠目には小さく見えた緑の塊も、近づくとそれなりの規模を持つ。
ただし鬱蒼とするほど木々が茂っているわけではなくて、木漏れ日が地面に届き、森の中は明るい。とても穏やかな場所だ。だが一切の生き物の気配が感じられない。鳥の鳴き声も、獣の痕跡も、羽虫一匹見当たらない。ただ風に揺れた枝葉が、ときおりカサカサと微かな音を立てるばかり。森を構成する要素の一つがごっそりと抜け落ちたかのような光景に、オレたちは警戒を高めつつ、奥へと足を踏み入れる。
問題の遺跡はすぐに見つかった。石造りの建物や壁の残骸ばかりが残る寂しい場所。
造りからして村か町の跡なのだろう。
森はこの場所を、ぐるりと囲むかのように存在していた。
事前に聞いていた通り、遺跡の中は日当たりがよく、所々に多様な薬草が生育している姿がみられた。
周囲を確認しながら遺跡の中心部を目指す。
やがて広場のように開けた場所へと出たオレとコロナ。
そこで一人の女と出会った。
いつもと同じように、すっかり馴染みとなった受付のオバちゃんのところに顔を出すと、いきなり奥に引きずり込まれた。
「おはよう、コロナさん。そしておめでとう、昇格だ。お前さんは今日から三級の冒険者だ」
オバちゃんの逞しい腕で、ギルドマスターの執務室へと放り込まれたオレたち。
待っていたのは、部屋の主の白髭の偉丈夫。
老境へと差し掛かっているハズなのに、覇気が衰え知らずな御仁。
そんな彼の第一声がコレだった。
冒険者ギルドの等級は登録時に五級から始まり、こなした仕事の質や量に応じて一級へと上がっていく。二級から上は一流とされており、更に大きな勲功や功績などを残すとS級となる。噂ではダブルS級やトリプルS級なんてのもあるらしいのだが、存在するのは御伽話の中だけで、実在はしていない。
それで冒険者登録をしてから、登録が抹消されない程度にしか冒険者稼業をしてこなかったコロナの等級は、もちろん最下級の五であった。それが四を飛び越して、いきなり三とは如何に?
「いやー、雑務だけで飛び級なんて、冒険者ギルドの歴史始まって以来の快挙かもしれん。なにせ五級の奴に指名依頼がバンバン入るんだからな。普通、指名っていったら三級以上から、ちらほら来れば大したもんだと言われるだぞ。それをお前さんときたら……」
普通ならば「ヤッホー、オレも今日から一人前の冒険者だー」と喜ぶところなのだろうが、真面目に冒険者をする気がないコロナは、まるで無反応。オレは胡乱な視線をギルドマスターに向けている。
だってそうだろう? たしかにオレたちは驚異の速さで雑務仕事を片付けまくった。依頼人からの評判も上々、これまでこの手の仕事を溜めがちであった、ギルドの面目躍如にも大いに貢献した。だから昇格もアリかもしれん。ただし、だからといって、いきなり三級はおかしい。
いささかわざとらしい持ち上げ方をするギルドマスター。
コロナはボケーとして、話を適当に聞き流している。
オレもじーっと眺めているだけ。
あまりにも反応の薄い一人と一体。
これを前にして、徐々に居たたまれなくなってきたギルドマスターが、ついに降参した。
「すまん。実はお前さんに折り入って頼みたいことがある。それで急遽、昇格をさせてもらった」
ガバッと大きな体を曲げて頭を下げるギルドマスター。
それを見たコロナがようやく口を開く。
「どうせそんな事だろうと思っていました。もしかして遺跡に向かった人たちの件ですか」
「おぉ! 話が早くて助かる。そうなんだ、連中が出発してすでに五日、遺跡まではゆっくり歩いて行っても、一日程度の距離だというのに……、いくらなんでもおかしいと思わないか?」
「そうですね。普通に考えれば全滅、もしくは動けない状況下に追い込まれている、と考えるのが妥当かと」
「やっぱりそう思うか……、オレも同じ意見だ。行った連中の中には、二等級も混じっているから安心していたんだが、想像していたよりも、ヤバイ奴が遺跡にはいるのかもしれん」
ギルドマスターの懸念も最もだろう。オレもそう思う。
すでに最大戦力を投入した、この田舎町のギルドには追加で打てる手立てがない。
そんな時だ。ペーペーだと思っていた雑用係の居残り組の中に、変な奴らが混じっているのを彼が知ったのは。とんでもない速さで次々と仕事を片付けていく。尋常ではない働きっぷりが、町の話題を独り占めするほどの活躍を見せる。
明らかに新人離れした能力を示した女冒険者とその従魔。「こいつはタダ者じゃないぞ」とギルドマスターは遅まきながら気がつく。そして彼は次にこうも考えた。
「だったらこんな雑用で遊ばしておくのなんて、もったいない」
手を合わせて拝むような格好で、懇願するギルドマスター。
ようは遺跡の様子をオレたちに見に行って欲しいということ。でもいくら能力があるとはいえ五等級の奴を行かせるのは、ちと具合が悪いので急遽、昇格をさせたということであった。
「どうしましょう、マスター」こっそりとオレに話しかけてくるコロナ。
《……どのみち遺跡の件が片付かないと、いつまでもここで足止めを喰らう、か。しゃーねぇ。引き受けてやりな。オレも気になるしな、まさかとは思うが、破軍みたいなのがいたら、シャレにならんしな》
かつて死闘を繰り広げた相手の姿を思い出し、オレのスーラボディがぶるっと震える。
破軍とは古の巨人兵のことで、超古代文明の遺産で驚くほどにタフで強かった。周囲にいる生物から魔力を根こそぎ奪って再生するわ、闘いの中でどんどんと学習するわ、とにかくとんでもない奴だった。しかもそれで下級兵とか言うんだから、古代文明、凄すぎる。
オレの指示に従ってコロナが要請を受理すると、ギルドマスターは心底、ほっとした表情を見せた。普段通りの態度とは裏腹に、彼も結構追い詰められていたのかもしれない。
普通ならば一日かかる距離でも、ホバークラフト形態で急げば二時間とかかりやしない。
オレとコロナは早速、森の遺跡へと向かうことにした。
荒野を進んでいくと、前方にこんもりと緑の塊が出現する。
目指す遺跡があるという森だ。まるで飛び地のようにポツンと存在している。
遠目には小さく見えた緑の塊も、近づくとそれなりの規模を持つ。
ただし鬱蒼とするほど木々が茂っているわけではなくて、木漏れ日が地面に届き、森の中は明るい。とても穏やかな場所だ。だが一切の生き物の気配が感じられない。鳥の鳴き声も、獣の痕跡も、羽虫一匹見当たらない。ただ風に揺れた枝葉が、ときおりカサカサと微かな音を立てるばかり。森を構成する要素の一つがごっそりと抜け落ちたかのような光景に、オレたちは警戒を高めつつ、奥へと足を踏み入れる。
問題の遺跡はすぐに見つかった。石造りの建物や壁の残骸ばかりが残る寂しい場所。
造りからして村か町の跡なのだろう。
森はこの場所を、ぐるりと囲むかのように存在していた。
事前に聞いていた通り、遺跡の中は日当たりがよく、所々に多様な薬草が生育している姿がみられた。
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やがて広場のように開けた場所へと出たオレとコロナ。
そこで一人の女と出会った。
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