青のスーラ

月芝

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182 コロナと小さな宝物。

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 コロナと別行動を取ったオレは、賊の仲間が封鎖しているという、場所の一つに早々に到着する。
 こちらも篝火を焚いているが、あちらと違って真面目に見張りをしているようだ。
 十五人編成の部隊が陣を張って、周囲に睨みを効かせていた。
 オレは連中の正面に位置取りをすると、暗闇の中にて狙撃準備を始める。
 街道沿いなので遮蔽物はない。視界は良好、風もなし。絶好の狙撃日和だ。しかもご丁寧に火を焚いてくれているので、目標の姿も丸見え。
 いい機会なので、連中にはオレの新技の訓練に付き合ってもらうとしよう。
 スーラボディを変形させて狙撃形態の銃身を作り出し、銃口を目標に向けて構える。
 ここまではいつもと同じ。新技はここからが違う。更に五本の銃身を出現させ同様にする。
 単独射撃ではなく、斉射による精密狙撃を試みる。
 近距離での乱射はたまに行っていたが、狙撃を同時平行にて行うのは初めてだ。
 前々から考えてはいたのだが、思いのほかに操作が難しい。すべての銃口にむらなく意識を集中するのは、並大抵のことではない。ましてやそれを実践レベルにてまで落とし込むのに、それこそ構想十年、下準備に十年近くの時間を費やした。
 その集大成の最初の犠牲者となれるんだから、光栄に思え。

《腐りきった魂でも、最期くらいは人様の役に立って逝け!》

 同時に放たれた六発の銃弾が、六人の頭を同時に貫く。
 脳漿をぶち撒け、狙撃の衝撃によって後方へと倒れ込む体。
 それが地面に到達する前に放たれる第二射によって、更に六人が命を絶った。
 不意に十二人もの仲間たちが頭から血を流し、倒れたことに混乱する残りの三人。あとは一人ずつキチンと仕留めた。

 事を終えてから遺体を確認する。
 みな確実に死んでいた。
 なかにはまだあどけなさの残る十七、八ぐらいの若い奴の姿もあった。
 どんな事情があって外道に堕ちたのかは知らないが、オレはなんだかやるせない気分になった。

 残り二か所も同様に処理し終えたオレが、コロナのいる場所へと戻ると、すでにそちらも作業は完了していた。
 仕事が早いのは感心だが、狩った生首をずらりと並べるのは感心しない。
 等間隔にて規則正しく並べられた首が、篝火に照らされて、かなり怖かった。
 コロナが死体より剥いだ鎧やら剣やらを、まとめてオレのアイテム収納に収め、死体は魔法で穴を掘って、地中深くに全部埋めた。本当は燃やした方がいいのだが、百人近い人数の遺体を焼くと、臭いがえらい事になりそうなので止めておく。森の奥に放置というのも考えたのだが、それが原因でモンスターらが集まって、村に二次被害が及ぶ可能性も考えられたので、これも却下。
 結構、深く穴を掘ったのでたぶん大丈夫だろう。
 たとえ悪党でも死ねば森の肥料になり、土へと還る。
 これもある意味の土葬ということで、ちゃんと成仏しろよ。

 戦闘時間よりも後処理に時間を喰って、すべてが片付いた時には、すでに夜明け近くになっていた。

《さて、戻ってダウリさんに報告がてら、朝食をご馳走になったら、騒動に巻き込まれる前に村を出立するぞ》
「騒動? 問題が解決したのに?」

 不思議そうに小首を傾げるコロナ。
 一夜にして姿を消した賊ども。しかも散々に脅しをかけていたというのに、何も盗らずにいなくなった。これで村に騒ぎが起きないほうがオカシイだろうと説明してやると、「なるほど」とコロナは納得した。



 朝日と共にダウリさん宅へと戻ったオレたちは、昨夜の経緯をすべて説明し、問題が解決したことを報告した。
 老人はその曲がった腰を一層曲げて、深々と頭を下げる。
 あんまりにも前のめりの姿勢、見ているこっちの方が心配になって、何だかドキドキしてしまった。
 騒ぎになる前に出立したい旨を話すと、彼も申し訳なさそうな顔をしたものの、反対はしなかった。
 準備をしていると母親が元気になったと、リナが飛び込んでくる。
 どうやらポーションが抜群に効いたらしい。
 コロナを通じて念のために、あと二本渡しておく。それから村へと来る前に集めた食材も渡しておいた。

「治ったからといって油断してはいけません。しっかり食べて回復に努めるように」
「ありがとう、コロナお姉ちゃん。そうだ、コレを渡そうと思って持って来たんだ。はい、あげる」

 リナが差し出したのは小さな丸い魔石。
 大きさだけで判断すれば、ほんの小指の先ほどしかないクズ石の類。だがその表面は五色の彩りにて輝いていた。オレも見たことのない品だ。

「こんな素敵なモノを頂いていいのですか?」
「うん。ずっと前に小川の浅瀬で見つけたの。わたしの宝物、だからお姉ちゃんにあげるね」
「……わかりました。大切にしますね」

 コロナが魔石を受け取ると、にぱっとリナが笑った。

 ダウリさんとリナに見送られて、オレたちは村を後にする。
 今回の報酬として王都への道順も教えて貰えたので、このまま街道沿いに進むことにした。
 途中の合流地点を経由して、のんびり進んで一ヶ月ほどの距離らしい。

《いやー、まさか王都を通り過ぎて、反対側の国境付近にまできていたとはなぁ。危うく気づかないうちに、隣国に渡っちまうところだったよ》
「我々の場合、結構な速度で森の中を移動していましたから」
《スーラのオレは疲れ知らずだし、コロナも基本はそうだからなぁ》
「そもそも前々から気になっていたのですが、スーラとは、みなマスターみたいなのですか? 私の頭の中にある情報との齟齬が著しいのですが……」
《今更だな、そう言えば教えてなかったか。スーラってのはチートの塊なんだよ》
「チート? 初めて聞く単語です」
《規格外ってことだよ。それでチートはチートなんだが、これを活かす知能がない》
「それはとどのつまり、バカってことですよね」
《……こほん。だから世間一般のスーラたちは、自分たちの能力の異常さを知りもしないし、理解もしていない。無意識に使っている場合もあるが、それだけだな。力を使って何かをしようという意識もない。日々、機嫌よく過ごしている。ただ、それだけ》
「でもマスターには知能があります」
《そうだな。その辺については追々説明するとして、とりあえず、この事は周囲に秘密だからな》
「わかりました。スーラボディに変態知能を宿したマスターのことは、誰にも話しません」
《……》

 街道をメイド服を模した鎧を着たオカッパ頭の娘と青いスーラが、やいやい騒ぎながら並んで歩いてゆく。そんな自動人形の首からは、小さな袋がぶら下がっている。
 中には小さな五色の珠が収められてある。
 空は晴れ渡り、爽やかな風が吹く。
 絶好の旅日和の中を、自動人形とスーラはのんびりと進んでいった。

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