青のスーラ

月芝

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181 コロナと賊。

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《おー、いるいる》

 ダウリさんから依頼を受けたオレとコロナは、その日の夜に村を抜け出して、賊が屯している場所へと赴き、少し離れた木陰から連中を観察していた。
 盛大に篝火を焚いて、酒を飲んで肉を喰らい、どんちゃん騒ぎをしている男たち。
 村に突き付けた無茶な要求の回答期限は明日の正午、わざわざそんな面倒なことをしているのは、連中の品性が下劣なのと、上手くいきそうならば今後とも甘い汁を吸い続ける魂胆であろう。あわよくば支配下に置いて、活動拠点として利用する気なのかもしれない。欲望のままに攻め滅ぼすのは簡単だが、それだと一度切りで終わってしまう。生かさず殺さずに、何度も何度も旨味がなくなるまでしゃぶり尽くす。まったくもって反吐が出る連中だ。これならば遠慮はいらないだろう。

「五十人前後って話でしたが、街道を封鎖するのに三か所も人を割いて、コレだとすると実態は百近い集団じゃないでしょうか?」
《そうだな。それにしても立派な鎧を着けている奴もいるな。どこぞの騎士団崩れってのも、間違いじゃないらしい》
「でも、あれだけの集団でしたら、とっくに中央に目をつけられてもオカシクないかと。それが野放しとは呆れますね」
《おそらくは普段は分散してるんだよ。特定のアジトを持たずに各地を転々として、互いに連絡だけは取り合っておく。あとは大仕事の時にだけみなで集まって、また散らばるを繰り返す。こうすれば足が付きにくいし、追尾の手も分散されて逃げ切りやすくなる》
「……なんだか随分と詳しいですね。もしかしてマスターは経験者ですか? 変態なだけでなく盗人だなんて、私、ショックです」ヨヨヨと悲しむ仕草をするコロナ。とんでもなく大根芝居だ。
《違うから! 前に相手をした賊にそんなのがいたんだよ。そのカラクリに気付くまで、無駄な鬼ごっこをやらされたからな。小狡い奴が考えることなんて大体同じなんだよ。元騎士とかだと、なまじっか戦術とか習っているから、なお始末が悪い。こと自己保身になると、ビックリするぐらい悪あがきするからな。他人の命は軽んじるくせに、自分の分は意地でも手放さねぇぞ。頭を潰したからって油断するな。それこそ尻尾だけになっても、逃げだすぐらいに思っておいて丁度いいぐらいだ》
「マスター、私、なんだか面倒くさくなってきました。いっそのこと大技で、ドカンと吹き飛ばすというのはどうでしょう。マスターが頑張るだけなので、これなら私が楽です」
《駄目だ。あんな連中でも装備や持ち物は色々と使い道がある。剣や鎧は鋳つぶせばインゴットになるしな。今回は安い報酬で引き受けたんだから、多少の戦利品は貰わないと割りに合わん。それにこれは訓練の一環でもある。コロナは対人戦は経験してないだろう?》
「……そういえばそうですね。ですが、アレが初めての相手になるのですか。なんだか気が進みません。アレで卒業とか、私の乙女回路が全力で拒否を訴えています」
《心配するな。一通りお前に関する資料には目を通したが、そんな素敵回路はどこにも存在していない。だから安心してぶっ殺してこい。オレは街道を封鎖している連中を片づけてくるから。いいか、くれぐれも打ち漏らすなよ。油断した挙句に、村に被害が出たら目も当てられんからな》

 なおもブーブーと文句を垂れる自動人形を残し、オレは封鎖されているという街道の方へと向かった。



 青いスーラの姿が完全に見えなくなってから、自動人形はゆっくりと賊の方へと歩いて行く。
 不意に暗闇から現れたメイドっぽい格好をした娘に、まず見張りの人間が気がついた。
 しかし数を頼みにすっかり気が大きくなっている彼は、警戒するよりも野卑た好奇心を持って、彼女を迎え入れてしまった。
 しゃなりと剣が音もなく鞘から抜かれ、真一文字に一閃。
 まずは首が一つ地面に転がった。
 すぐ側にいた別の見張りが声を出そうとした時には、すでに彼の首も胴体から離れている。
 二つ目の首が地面に転がった。

「マスターが言ってました。こんなのでも使い道があると。ならば装備類は極力無傷で手に入れた方がいいでしょう。中には価値の高い品が紛れ込んでいるかもしれませんから。それに首を狩る方が、鎧を真っ二つにするより楽ですしね」

 あまりにも堂々と敵陣へと近づいてくるので、それが自分たちの敵だと認識するまでに、かなり時間がかかった賊の集団。気づいたときには、すでに十五を超える首がそこかしこに転がっている有様。
 慌てて武器を手に立ち上がろうとした鎧姿の男が悲鳴を上げた。
 確かにすぐ側に置いてあった槍に手を伸ばしたハズなのに、見れば利き腕の肘から先が消えている。持ち上げる寸前に武器を持つ腕ごと切断されたのだ。だが敵らしき小娘は、ずっと前方にいるというのに、一体どうして?
 勢いよく失われる血のせいで、意識が朦朧となる彼が見たのは、近くに立つ仲間らの首が刎ね飛ぶ姿だった。
 襲撃者が斬撃を飛ばしていると気づくと同時に、彼の首もまた同様に刎ね飛ばされて、自身の足元へとポトンと落ちた。
 ついさっきまで明日の狂乱を想像し、悦に酔いしれていた賊たちは、抵抗らしい抵抗も出来ずに死んでいった。もちろん彼らとて修羅場はいくつも潜っている。技量だってそれなりにある。
 だがその女の斬撃を防ごうにも、剣を交えれば剣ごと首を刈られ、槍を向ければ槍ごと切り伏せられる。分厚い盾や頑強な鎧は的確に隙間を狙われ意味を為さず、ほんの一瞬でも瞼を閉じれば姿を見失い、一刀のもとに命を断ち切られる。逃げ出そうと背を向ければ、見えない攻撃が飛んでくる。
 篝火に照らされた骸の原を、自動人形が淡々と往く。
 すでに戦えなくなった者や、武器を捨てて涙を流し命乞いをする者にも、容赦なく刃が振り下ろされる。
 そこはもう、戦闘行為でもなんでもない虐殺の場であった。

 視界にあるすべての命が活動を停止した時、思い出したようにコロナが言った。

「うっかりしました。何人か残しておいて、回収作業を手伝わせればよかったです。弱いので、ついサクサクと狩ってしまいました。次からは気をつけないとです」


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