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179 コロナと村娘。
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「キャアァー」
前方にて、なにやら不穏な気配があるなと思っていたら、子供の悲鳴が聞こえてきた。
慌てて駆けつけたら、女の子が仁王立ちしたナバゲルンに、襲われようとしているところだった。ちなみにナバゲルンってのは大熊みたいなモンスター。固い毛皮と分厚い脂肪に包まれているので攻撃が通りにくく、力も強いのでわりと危険な奴だ。
コロナが剣を投げつけ、背中に突き立てる。
自動人形の膂力をもってすれば造作もない。
突然の背後からの攻撃にナバゲルンが振り返ったところで、オレがその脳天に銃もどきをぶっ放して始末をつけた。と思ったら、ぐらりと巨体が女の子の方に倒れていく。あんなのにのしかかられたら、子供の体なんて一発でぺちゃんこだ。
それを間一髪で助けてくれたのはコロナであった。
コロナの腕の中で、ぐったりとして気を失っているおさげ髪の女の子。
「マスターは阿呆ですか? それともロリコンのくせに好みじゃないから、そばかす娘なんて、どうなろうと構わないと? とんだ外道ですね」
《違う! オレはロリコンじゃねーし。それから、その子を助けてくれて、どうもありがとうよっ!》
ミスはミスなので批難は甘んじて受けるが、いわれのない事にはキチンと抗議しておく。あと礼もちゃんと言っておいた。何故だかコロナは、この辺の事にうるさい。親しき仲にも礼儀ありだが、言わないとかなりネチネチと嫌味が続くのだ。
「まぁ、いいでしょう。それよりもこの子、どうしますか? 面倒だから放置しますか?」
《いやいやいや、放置なんてしないから。格好からして村娘ってところだろうし、たぶん近くに村か町でもあるんじゃないのか。どうして一人で森に入ったのかは知らないが、とにかく送っていこう》
「そのついでに宿と食事にありつこうという魂胆なのですね。さすがはマスター、意地が汚いです」
《違う……、と言いたいところだが、確かに魂胆はある。ずっと森の中を適当に進んでいたから、ここいらで現在位置を確認したいし、王都への道順も知りたいしな》
「そういえば王都を目指しているとか言ってましたね」
《知り合いのところにちょっと顔を出しにな。前にも言ったが、くれぐれも彼女の前で失礼な事を言うなよ。優しい人だからって油断していたら、あっという間に塵に変えられるぞ》
「わかってますよ。私だって相手を選びます。誰がドラゴン相手に……って、マスター、この子、気がついたみたいです」
助けた少女が目を覚ましそうな素振りを見せたので、途端にオレは口を噤む。
事前の打ち合わせの通り、コロナが主人でオレは従魔のスーラというフリをする。
「あれ? お姉ちゃんはだぁれ? わたし……、たしか……」
キョトンとしている少女に、悲鳴が聞こえたので駆けつけて、ナバゲルンから助けたことを説明するコロナ。すぐ側に転がっている巨体を見て、少女が可愛らしい悲鳴を上げた。
彼女が落ち着くのを待ってから話を聞いたところによると、少女の名前はリナ、すぐ近くにある村の住人らしい。お母さんが病気になったので、薬草を探しに森へ入ったところを襲われたとのこと。
いかに近場とはいえ、幼子が一人で森に立ち入るなんて自殺行為に等しい。
本来ならば冒険者なり村の大人なりに、護衛を頼んで入るところなのだが、彼女にはそれが出来ない事情があった。
「賊……ですか」
「うん。前に村をおそってきた奴がいて、その時はみんなでやっつけたの。でも今度はそいつの仲間だとかいう連中がきて」
「仇打ちだとか、難癖をつけてきたと」
コロナの言葉にリナは頷く。
最初のは十人ほどの小集団だったので、村の自警団や滞在していた冒険者らの手を借りて、あっさりと打ち倒したまではよかったのだが、次に姿を見せたのが、五十人前後もの武装した賊の群れ。それなりの格好をしているところから、どこぞの騎士団崩れではないかと思われる。村では慌てて近隣に救援を頼もうとしたのだが、すでに街道を封鎖されて、身動きがとれないようにされていたという。
僻地ゆえに、他所と繋がる道が限られているのが裏目に出たようだ。
逃げられないようにした上で、村に無茶な要求を突き付けていると……。
こうなると後はオレたちのように森を抜けるしかないわけだが、そこには飢えたモンスターや猛獣たちがウヨウヨしている。これならまだ賊どもに突撃を駆けたほうが、よほど成功率が高い。
そんな状況下にある村はてんやわんや、とても少女のお守りをしてくれるような大人はいない。病人に構っている余裕もないので、リナは思い余って行動に出たというワケだ。
「わかりました。それじゃあ私たちが護衛をしてあげますから、薬草を手に入れて早く村に戻りましょう。きっとお母さんも心配しているでしょうから」
「いいの? わたしあんまりお金もってないよ? それに村はいま……」
「その辺は気にしないで下さい。どうとでもなりますので。そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私はコロナ、そしてこちらが従魔のムーです」
紹介されたので、オレは青いスーラボディをぷるぷるさせて見せた。
「わぁー、きれいなスーラ。でも役に立つの? 村にも従魔を飼ってる人がいるけど、荷車を引いたりするから、ずっと大きいよ」
「まぁ、それなりには……、これでもわりと芸達者ですので」
「へぇー、ムーちゃんはすごいんだねぇ」
てらてらと小さな手で撫でられるスーラ。
うむ。なんとも懐かしい感触だな。アンケル邸を出てから、人と接する機会がなかったので、いささか感慨深いものがある。
「さて、自己紹介も済んだことですし早速、薬草を探しましょうか」
コロナに促されて、リナが動きだした。
せっせと目当ての薬草を積んでいる少女を自動人形に任せ、オレはその辺で適当に狩りをしたり食べられる木の実などを採取し、滋養がありそうな品を集めておいた。
もしもリナの母親が重篤だったら、ポーションを与えることもやぶさかではないが、せっかく病気を治しても、栄養を摂って体力をつけないと、また倒れることになるからな。
じきに手提げ籠一杯になった薬草を持つリナに案内され、オレとコロナは彼女の住む辺境の村へと向かった。
前方にて、なにやら不穏な気配があるなと思っていたら、子供の悲鳴が聞こえてきた。
慌てて駆けつけたら、女の子が仁王立ちしたナバゲルンに、襲われようとしているところだった。ちなみにナバゲルンってのは大熊みたいなモンスター。固い毛皮と分厚い脂肪に包まれているので攻撃が通りにくく、力も強いのでわりと危険な奴だ。
コロナが剣を投げつけ、背中に突き立てる。
自動人形の膂力をもってすれば造作もない。
突然の背後からの攻撃にナバゲルンが振り返ったところで、オレがその脳天に銃もどきをぶっ放して始末をつけた。と思ったら、ぐらりと巨体が女の子の方に倒れていく。あんなのにのしかかられたら、子供の体なんて一発でぺちゃんこだ。
それを間一髪で助けてくれたのはコロナであった。
コロナの腕の中で、ぐったりとして気を失っているおさげ髪の女の子。
「マスターは阿呆ですか? それともロリコンのくせに好みじゃないから、そばかす娘なんて、どうなろうと構わないと? とんだ外道ですね」
《違う! オレはロリコンじゃねーし。それから、その子を助けてくれて、どうもありがとうよっ!》
ミスはミスなので批難は甘んじて受けるが、いわれのない事にはキチンと抗議しておく。あと礼もちゃんと言っておいた。何故だかコロナは、この辺の事にうるさい。親しき仲にも礼儀ありだが、言わないとかなりネチネチと嫌味が続くのだ。
「まぁ、いいでしょう。それよりもこの子、どうしますか? 面倒だから放置しますか?」
《いやいやいや、放置なんてしないから。格好からして村娘ってところだろうし、たぶん近くに村か町でもあるんじゃないのか。どうして一人で森に入ったのかは知らないが、とにかく送っていこう》
「そのついでに宿と食事にありつこうという魂胆なのですね。さすがはマスター、意地が汚いです」
《違う……、と言いたいところだが、確かに魂胆はある。ずっと森の中を適当に進んでいたから、ここいらで現在位置を確認したいし、王都への道順も知りたいしな》
「そういえば王都を目指しているとか言ってましたね」
《知り合いのところにちょっと顔を出しにな。前にも言ったが、くれぐれも彼女の前で失礼な事を言うなよ。優しい人だからって油断していたら、あっという間に塵に変えられるぞ》
「わかってますよ。私だって相手を選びます。誰がドラゴン相手に……って、マスター、この子、気がついたみたいです」
助けた少女が目を覚ましそうな素振りを見せたので、途端にオレは口を噤む。
事前の打ち合わせの通り、コロナが主人でオレは従魔のスーラというフリをする。
「あれ? お姉ちゃんはだぁれ? わたし……、たしか……」
キョトンとしている少女に、悲鳴が聞こえたので駆けつけて、ナバゲルンから助けたことを説明するコロナ。すぐ側に転がっている巨体を見て、少女が可愛らしい悲鳴を上げた。
彼女が落ち着くのを待ってから話を聞いたところによると、少女の名前はリナ、すぐ近くにある村の住人らしい。お母さんが病気になったので、薬草を探しに森へ入ったところを襲われたとのこと。
いかに近場とはいえ、幼子が一人で森に立ち入るなんて自殺行為に等しい。
本来ならば冒険者なり村の大人なりに、護衛を頼んで入るところなのだが、彼女にはそれが出来ない事情があった。
「賊……ですか」
「うん。前に村をおそってきた奴がいて、その時はみんなでやっつけたの。でも今度はそいつの仲間だとかいう連中がきて」
「仇打ちだとか、難癖をつけてきたと」
コロナの言葉にリナは頷く。
最初のは十人ほどの小集団だったので、村の自警団や滞在していた冒険者らの手を借りて、あっさりと打ち倒したまではよかったのだが、次に姿を見せたのが、五十人前後もの武装した賊の群れ。それなりの格好をしているところから、どこぞの騎士団崩れではないかと思われる。村では慌てて近隣に救援を頼もうとしたのだが、すでに街道を封鎖されて、身動きがとれないようにされていたという。
僻地ゆえに、他所と繋がる道が限られているのが裏目に出たようだ。
逃げられないようにした上で、村に無茶な要求を突き付けていると……。
こうなると後はオレたちのように森を抜けるしかないわけだが、そこには飢えたモンスターや猛獣たちがウヨウヨしている。これならまだ賊どもに突撃を駆けたほうが、よほど成功率が高い。
そんな状況下にある村はてんやわんや、とても少女のお守りをしてくれるような大人はいない。病人に構っている余裕もないので、リナは思い余って行動に出たというワケだ。
「わかりました。それじゃあ私たちが護衛をしてあげますから、薬草を手に入れて早く村に戻りましょう。きっとお母さんも心配しているでしょうから」
「いいの? わたしあんまりお金もってないよ? それに村はいま……」
「その辺は気にしないで下さい。どうとでもなりますので。そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私はコロナ、そしてこちらが従魔のムーです」
紹介されたので、オレは青いスーラボディをぷるぷるさせて見せた。
「わぁー、きれいなスーラ。でも役に立つの? 村にも従魔を飼ってる人がいるけど、荷車を引いたりするから、ずっと大きいよ」
「まぁ、それなりには……、これでもわりと芸達者ですので」
「へぇー、ムーちゃんはすごいんだねぇ」
てらてらと小さな手で撫でられるスーラ。
うむ。なんとも懐かしい感触だな。アンケル邸を出てから、人と接する機会がなかったので、いささか感慨深いものがある。
「さて、自己紹介も済んだことですし早速、薬草を探しましょうか」
コロナに促されて、リナが動きだした。
せっせと目当ての薬草を積んでいる少女を自動人形に任せ、オレはその辺で適当に狩りをしたり食べられる木の実などを採取し、滋養がありそうな品を集めておいた。
もしもリナの母親が重篤だったら、ポーションを与えることもやぶさかではないが、せっかく病気を治しても、栄養を摂って体力をつけないと、また倒れることになるからな。
じきに手提げ籠一杯になった薬草を持つリナに案内され、オレとコロナは彼女の住む辺境の村へと向かった。
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