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172 災厄の魔女編 魔女という名の化け物
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王都の貴族街にて、謎の大崩落が起こった三日後の夜。
終日、王都は雨だった。
雨足は日暮れと共に激しさを増し、地面の石畳を打つ。ほんの先をもまともに見えやしない。人々は早々に家へと引き篭り、固く雨戸を閉ざす。
路地裏にて先を急ぐマント姿の少女。辺りに人影は皆無。
そんな彼女に、美味しそうな獲物を見つけたと、ナイフ片手に忍び寄る不埒者。
いつものように舌なめずりにて襲いかかろうとした男は、少女と二言三言と言葉を交わすと、やおら自分のナイフを己の首筋へと走らせ、血を吹き出しながら倒れてしまった。
「やっぱり馬鹿にはよく効くのよね、私の魔眼って」
命じられるままに、恍惚とした表情にて自害した男の頭を、コツンと蹴飛ばしたのはルイン。
災厄の魔女と呼ばれる少女。
彼女の瞳は魔眼で他者を操作できる、ただし使い勝手は非常に悪い。
まず精神力の強い相手にはまるで通じない。この小悪党のように、欲深で詰まらない奴には効きがいいのだが、言う事を聞かせたいような、優秀な人物には通用しないというジレンマを抱えている。しかも深く洗脳を施そうとすれば、定期的に魔眼をかけ続ける必要があって、とっても面倒くさい。短期的には使えなくもないが、中長期には向かない能力なのだ。
目論み通りに閃光姫と人形姫を、遺跡の底へと生き埋めにした魔女。
事を終えた後に予言の書を確認すると、『閃光姫、人形姫、聖女、奈落の底』の文字が浮かび上がっていた。どうやら上手くいったようだ。
だがこの度の一件にて、王都が少しばかり騒がしくなってしまった。
アジトにしていた屋敷も無くなってしまったし、屋敷の持ち主である正妃の周りも、ブンブンと王家の羽虫が煩わしい。二人の有名な令嬢の失踪も、事態に拍車をかけている。
長年、愛用していた手駒を失くしたことだし、ここは一旦、王国を離れて出直しを計ろうと考えて、彼女は夜道を急いでいた。
転がる骸の懐を漁り、小銭を手に入れると、ルインは再び歩き始める。
しばらくすると雨音に混じって「パンッ」と、何かが弾ける音が微かに耳に届く。
急に自分の胸の辺りが熱くなったので、不思議に思った彼女が見てみると、そこには血が滲んでいた。見る間に赤い染みがドンドンと広がっていく。
「あれ? なにコレ……」
わけが分からずキョトンとなる少女。
それが自身の流す血だと気づき、声を上げようとしたところ、再び先ほど聞えたのと同じ音がした。声が出せない。ゴボッと喉が鳴った。途端に息が苦しくなり、咳き込むように口を開くと、ドロリとした赤い液体を吐き出した。
胸と喉に開いた穴から溢れる血が、自身の体を伝い滴り落ちて、足元の水溜まりの色を変えた。
ついに立っていられなくなった少女が両膝をつく。そこにまた音が鳴った。
水溜まりの中へと突っ伏すルイン。
見開かれたままの魔眼、その眉間には三つ目の穴が開いていた。
遺跡の崩落に巻き込まれたオレたちは、文字通り生き埋めにされるところだった。
それを危機一髪で救ってくれたのは、一匹のラパ。
超高速で動くネズミ型の小型モンスターで、人畜無害ながらも、こと回避能力に関しては最強を誇る。なにせ雷すらも躱すからな。アンケル爺さんの屋敷にも住み着いており、オレとは何度も追いつ追われつの激闘を演じた強敵だ。
なんとか身を挺してクロアたちを護ることには成功したものの、足場は崩され頭上より降り注ぐ大量の土砂に追い詰められる。万事休すかと思われたところ、視界の片隅に動く奴の姿を捉えた。
異常なほどの回避能力を持つラパは、とにかく保身に長けた種族、それがむざむざとやられるとはとても思えない。案の定、奴は災事より逃げようとしていたのだ。
オレはクロアたちを抱えたまま奴の後を必死に追う。背後の暗闇から迫る崩落の恐怖、夢中だったので、どこをどう進んだのかは覚えていない。
行き止まりの壁の下にあった小さな穴へと、迷わず飛び込んだラパ。
オレも後に続き、勢いのままにその壁をぶち抜く。
壁の向こうは王都の地下に張り巡らされていた、地下道のどこか。
踊り出ると同時に背後が轟音と共に埋め尽くされた。
こうしてギリギリのタイミングで、オレたちは窮地を脱することに成功した。
すぐに別宅にいるアンケル爺に連絡をとり、迎えを寄越して貰うように手配する。
以前に王都での騒動の際に作った地下道の地図が、ここで役に立ってくれた。
地図は複製して爺にも渡してあったので、エメラさんが率いる救援隊がすぐに駆けつけてくれた。
倒れている少女の側へと降り立ったのは青いスーラ。
災厄の魔女を仕留めたのは、オレの銃もどきの魔法による狙撃である。
魔女の奸計より生き残ったオレは、気を失っている三人をエメラさんに預けると、すぐに分隊を編成し、王都中に放つ。
二百体を超えるオレの分体たちが大規模監視網を張った
もちろんルインを発見し、仕留めるためだ。
境遇に同情はする。だけど許すことは出来ない。
彼女はあまりにも多くの不幸をばら撒き過ぎた。
きっと彼女は止まらない。もしもここで見逃せば、更なる悲劇が続くことになる。
だからおっさんは……
彼女をこの手で殺すことに決めた。
みんなには内緒だ。
息子夫婦を殺されたアンケルは、きっと自らの手で仇を打ちたがるだろう。だが復讐心に囚われた彼の姿を、クロアには見せたくない。そんなことをさせるためにエリクサーを与えたんじゃない。彼には最期まで彼女にとって、敬愛する祖父であって欲しい。
クロアにしてもそうだ。中身はともかく、見た目が年端もいかない少女殺しは、絶対に心に負の遺産を残す。この先ずっと苦しめられることになる。それではあんまりだろう。彼女はこれまで多くのモノを奪われてきた。これ以上はもういい。
だからオレが殺る。
網を張って三日、分体からの報告を受けたオレは、雨の中を現場へと急行し、ルインに向かって魔法を放った。
遺体の始末をつけようと近づいた時、ピクリとルインの骸の指先が動く。
やっぱり簡単にはケリがつかなかったか……。
警戒するオレの前でルインが動き出し、水溜まりの中から起き上がろうとする。
「イタたた……、いきなり酷いじゃない。さすがに死んじゃったかと思ったわよ。誰よー、可憐な少女に、こんな真似をするのー」
すっかりずぶ濡れになったルイン。
すぐ目の前にいるスーラに顔を向けて、小首を傾げた。
「青いスーラ? そういえばクロアお姉ちゃんとお茶をしていた時にも、チョロチョロとしていたわね。もしかしてアナタなの、私にこんな酷いことをしたの」
いつの間にか額や喉に開いていた穴も完全に塞がっている。
おそらくだが残りの胸の穴もすでに消えているのだろう。
オレは問答無用で触手にて彼女の体を貫くと、「超振動」技能を発動した。
体内にて瞬次に衝撃が奔る。突き抜ける波動が肉体を完膚無きまでに叩きのめし、破壊する。
四散する少女の体。内臓をぶち撒けて、血が大輪の花を咲かせた。
側の壁にぶつかって、石畳の上へと落ちた首が、ごろんと転がる。
だがじきに、ケタケタと少女の生首が笑いはじめると、飛び散っていたハズの血肉が、びちゃびちゃと寄せ集まって、ルインという名の化け物を再び形作ってしまった。
「あらら、本当に酷い子。でもここまでなっても私って死なないんだー、知らなかった。これには自分でも吃驚だわ。伊達に千八百六十五人分もの魂が寄せ集まったんじゃなかったのね。あのボンクラどもの研究も、いい線いってたのかしら……、ねぇ、アナタはどう思う?」
災厄の魔女がオレに話しかけてくる。返事を期待しているというよりかは、お人形さんに子どもが話かけているようなものだろう。
構うことなくオレは銃もどきをぶっ放す。
今度の弾には魔法効果が付与されてある。体内に入ったと同時に発火する凶悪仕様。
これを脳天に受けた少女が大きくのけぞり、派手に倒れたと同時に、体内から青白い炎が噴き出し、その身を焦がす。激しさを増す雨の中でも蒼炎は勢いを落とさない。
瞬く間に焼き尽くされ、黒い灰へと変わり、崩れ落ちる魔女の体。
さすがにこれで終わったかと安心したのも束の間、水溜まりの中にて灰が蠢き出した。
血と雨水と灰がドロドロに混じり合い、渦を巻く。
戦慄したオレは倒すことを断念し、水溜まりごと奴を凍らせた。
炎の魔法の応用にて、急激に熱を奪うことで出来上がった汚い氷の塊。
さしもの魔女の体も氷漬けにされては動けないらしい。
ここまでして、ようやく少女の姿をした何かは活動を停止した。
何度殺しても蘇ってくる少女……、まさに悪夢だ。
不老不死ってとんでもない。
実際に目の前にしたらおぞましさが先に立つ。忌避感が尋常じゃない。
生と死、それは生き物を語る上では欠かせない要素のはず。それが欠如している。
まるで生き物としての大切な根幹を否定されたようで、どうしても受け入れることが出来ない。心が、体が、彼女を全力で拒絶する。
こんなのにまともに付き合っていたら、じきにこっちの精神が狂ってしまう。
非力だからとて油断はならない。何らかの拍子に突然変異して、新たな力に目覚める可能性もある。
万物の頂点に君臨するドラゴンとて、死者を蘇生させることは出来ないと、ティプールさんも言っていた。それを為している時点で、何でもありのような気がする。ここは用心に用心を重ねるのが肝要だろう。
そうか……ティプールさんがいたな……。
不老不死、もしくはそれに近い能力を有するルインの処遇について考えたとき、オレに一つのアイデアが浮かんだ。
その場にてダンジョンの最深部にいる彼女に、念話にて呼びかける。
ドラゴンの化身であるティプールさんとは、彼女の卓越した能力のおかげで、直通連絡が可能なのだ。
すぐに応答してくれたので相談してみると、とりあえず駄目元で試してみることになった。
念のために土魔法にて箱を造り、その中に氷の塊を納めて、厳重に密封した後にアイテム収納へと放り込む。生物判定されたら収納出来なかったのだが、ちゃんと入ったところを見るとモノ扱いされたようだ。
災厄の魔女の氷を持って、オレはティプールさんの元へと急いだ。
終日、王都は雨だった。
雨足は日暮れと共に激しさを増し、地面の石畳を打つ。ほんの先をもまともに見えやしない。人々は早々に家へと引き篭り、固く雨戸を閉ざす。
路地裏にて先を急ぐマント姿の少女。辺りに人影は皆無。
そんな彼女に、美味しそうな獲物を見つけたと、ナイフ片手に忍び寄る不埒者。
いつものように舌なめずりにて襲いかかろうとした男は、少女と二言三言と言葉を交わすと、やおら自分のナイフを己の首筋へと走らせ、血を吹き出しながら倒れてしまった。
「やっぱり馬鹿にはよく効くのよね、私の魔眼って」
命じられるままに、恍惚とした表情にて自害した男の頭を、コツンと蹴飛ばしたのはルイン。
災厄の魔女と呼ばれる少女。
彼女の瞳は魔眼で他者を操作できる、ただし使い勝手は非常に悪い。
まず精神力の強い相手にはまるで通じない。この小悪党のように、欲深で詰まらない奴には効きがいいのだが、言う事を聞かせたいような、優秀な人物には通用しないというジレンマを抱えている。しかも深く洗脳を施そうとすれば、定期的に魔眼をかけ続ける必要があって、とっても面倒くさい。短期的には使えなくもないが、中長期には向かない能力なのだ。
目論み通りに閃光姫と人形姫を、遺跡の底へと生き埋めにした魔女。
事を終えた後に予言の書を確認すると、『閃光姫、人形姫、聖女、奈落の底』の文字が浮かび上がっていた。どうやら上手くいったようだ。
だがこの度の一件にて、王都が少しばかり騒がしくなってしまった。
アジトにしていた屋敷も無くなってしまったし、屋敷の持ち主である正妃の周りも、ブンブンと王家の羽虫が煩わしい。二人の有名な令嬢の失踪も、事態に拍車をかけている。
長年、愛用していた手駒を失くしたことだし、ここは一旦、王国を離れて出直しを計ろうと考えて、彼女は夜道を急いでいた。
転がる骸の懐を漁り、小銭を手に入れると、ルインは再び歩き始める。
しばらくすると雨音に混じって「パンッ」と、何かが弾ける音が微かに耳に届く。
急に自分の胸の辺りが熱くなったので、不思議に思った彼女が見てみると、そこには血が滲んでいた。見る間に赤い染みがドンドンと広がっていく。
「あれ? なにコレ……」
わけが分からずキョトンとなる少女。
それが自身の流す血だと気づき、声を上げようとしたところ、再び先ほど聞えたのと同じ音がした。声が出せない。ゴボッと喉が鳴った。途端に息が苦しくなり、咳き込むように口を開くと、ドロリとした赤い液体を吐き出した。
胸と喉に開いた穴から溢れる血が、自身の体を伝い滴り落ちて、足元の水溜まりの色を変えた。
ついに立っていられなくなった少女が両膝をつく。そこにまた音が鳴った。
水溜まりの中へと突っ伏すルイン。
見開かれたままの魔眼、その眉間には三つ目の穴が開いていた。
遺跡の崩落に巻き込まれたオレたちは、文字通り生き埋めにされるところだった。
それを危機一髪で救ってくれたのは、一匹のラパ。
超高速で動くネズミ型の小型モンスターで、人畜無害ながらも、こと回避能力に関しては最強を誇る。なにせ雷すらも躱すからな。アンケル爺さんの屋敷にも住み着いており、オレとは何度も追いつ追われつの激闘を演じた強敵だ。
なんとか身を挺してクロアたちを護ることには成功したものの、足場は崩され頭上より降り注ぐ大量の土砂に追い詰められる。万事休すかと思われたところ、視界の片隅に動く奴の姿を捉えた。
異常なほどの回避能力を持つラパは、とにかく保身に長けた種族、それがむざむざとやられるとはとても思えない。案の定、奴は災事より逃げようとしていたのだ。
オレはクロアたちを抱えたまま奴の後を必死に追う。背後の暗闇から迫る崩落の恐怖、夢中だったので、どこをどう進んだのかは覚えていない。
行き止まりの壁の下にあった小さな穴へと、迷わず飛び込んだラパ。
オレも後に続き、勢いのままにその壁をぶち抜く。
壁の向こうは王都の地下に張り巡らされていた、地下道のどこか。
踊り出ると同時に背後が轟音と共に埋め尽くされた。
こうしてギリギリのタイミングで、オレたちは窮地を脱することに成功した。
すぐに別宅にいるアンケル爺に連絡をとり、迎えを寄越して貰うように手配する。
以前に王都での騒動の際に作った地下道の地図が、ここで役に立ってくれた。
地図は複製して爺にも渡してあったので、エメラさんが率いる救援隊がすぐに駆けつけてくれた。
倒れている少女の側へと降り立ったのは青いスーラ。
災厄の魔女を仕留めたのは、オレの銃もどきの魔法による狙撃である。
魔女の奸計より生き残ったオレは、気を失っている三人をエメラさんに預けると、すぐに分隊を編成し、王都中に放つ。
二百体を超えるオレの分体たちが大規模監視網を張った
もちろんルインを発見し、仕留めるためだ。
境遇に同情はする。だけど許すことは出来ない。
彼女はあまりにも多くの不幸をばら撒き過ぎた。
きっと彼女は止まらない。もしもここで見逃せば、更なる悲劇が続くことになる。
だからおっさんは……
彼女をこの手で殺すことに決めた。
みんなには内緒だ。
息子夫婦を殺されたアンケルは、きっと自らの手で仇を打ちたがるだろう。だが復讐心に囚われた彼の姿を、クロアには見せたくない。そんなことをさせるためにエリクサーを与えたんじゃない。彼には最期まで彼女にとって、敬愛する祖父であって欲しい。
クロアにしてもそうだ。中身はともかく、見た目が年端もいかない少女殺しは、絶対に心に負の遺産を残す。この先ずっと苦しめられることになる。それではあんまりだろう。彼女はこれまで多くのモノを奪われてきた。これ以上はもういい。
だからオレが殺る。
網を張って三日、分体からの報告を受けたオレは、雨の中を現場へと急行し、ルインに向かって魔法を放った。
遺体の始末をつけようと近づいた時、ピクリとルインの骸の指先が動く。
やっぱり簡単にはケリがつかなかったか……。
警戒するオレの前でルインが動き出し、水溜まりの中から起き上がろうとする。
「イタたた……、いきなり酷いじゃない。さすがに死んじゃったかと思ったわよ。誰よー、可憐な少女に、こんな真似をするのー」
すっかりずぶ濡れになったルイン。
すぐ目の前にいるスーラに顔を向けて、小首を傾げた。
「青いスーラ? そういえばクロアお姉ちゃんとお茶をしていた時にも、チョロチョロとしていたわね。もしかしてアナタなの、私にこんな酷いことをしたの」
いつの間にか額や喉に開いていた穴も完全に塞がっている。
おそらくだが残りの胸の穴もすでに消えているのだろう。
オレは問答無用で触手にて彼女の体を貫くと、「超振動」技能を発動した。
体内にて瞬次に衝撃が奔る。突き抜ける波動が肉体を完膚無きまでに叩きのめし、破壊する。
四散する少女の体。内臓をぶち撒けて、血が大輪の花を咲かせた。
側の壁にぶつかって、石畳の上へと落ちた首が、ごろんと転がる。
だがじきに、ケタケタと少女の生首が笑いはじめると、飛び散っていたハズの血肉が、びちゃびちゃと寄せ集まって、ルインという名の化け物を再び形作ってしまった。
「あらら、本当に酷い子。でもここまでなっても私って死なないんだー、知らなかった。これには自分でも吃驚だわ。伊達に千八百六十五人分もの魂が寄せ集まったんじゃなかったのね。あのボンクラどもの研究も、いい線いってたのかしら……、ねぇ、アナタはどう思う?」
災厄の魔女がオレに話しかけてくる。返事を期待しているというよりかは、お人形さんに子どもが話かけているようなものだろう。
構うことなくオレは銃もどきをぶっ放す。
今度の弾には魔法効果が付与されてある。体内に入ったと同時に発火する凶悪仕様。
これを脳天に受けた少女が大きくのけぞり、派手に倒れたと同時に、体内から青白い炎が噴き出し、その身を焦がす。激しさを増す雨の中でも蒼炎は勢いを落とさない。
瞬く間に焼き尽くされ、黒い灰へと変わり、崩れ落ちる魔女の体。
さすがにこれで終わったかと安心したのも束の間、水溜まりの中にて灰が蠢き出した。
血と雨水と灰がドロドロに混じり合い、渦を巻く。
戦慄したオレは倒すことを断念し、水溜まりごと奴を凍らせた。
炎の魔法の応用にて、急激に熱を奪うことで出来上がった汚い氷の塊。
さしもの魔女の体も氷漬けにされては動けないらしい。
ここまでして、ようやく少女の姿をした何かは活動を停止した。
何度殺しても蘇ってくる少女……、まさに悪夢だ。
不老不死ってとんでもない。
実際に目の前にしたらおぞましさが先に立つ。忌避感が尋常じゃない。
生と死、それは生き物を語る上では欠かせない要素のはず。それが欠如している。
まるで生き物としての大切な根幹を否定されたようで、どうしても受け入れることが出来ない。心が、体が、彼女を全力で拒絶する。
こんなのにまともに付き合っていたら、じきにこっちの精神が狂ってしまう。
非力だからとて油断はならない。何らかの拍子に突然変異して、新たな力に目覚める可能性もある。
万物の頂点に君臨するドラゴンとて、死者を蘇生させることは出来ないと、ティプールさんも言っていた。それを為している時点で、何でもありのような気がする。ここは用心に用心を重ねるのが肝要だろう。
そうか……ティプールさんがいたな……。
不老不死、もしくはそれに近い能力を有するルインの処遇について考えたとき、オレに一つのアイデアが浮かんだ。
その場にてダンジョンの最深部にいる彼女に、念話にて呼びかける。
ドラゴンの化身であるティプールさんとは、彼女の卓越した能力のおかげで、直通連絡が可能なのだ。
すぐに応答してくれたので相談してみると、とりあえず駄目元で試してみることになった。
念のために土魔法にて箱を造り、その中に氷の塊を納めて、厳重に密封した後にアイテム収納へと放り込む。生物判定されたら収納出来なかったのだが、ちゃんと入ったところを見るとモノ扱いされたようだ。
災厄の魔女の氷を持って、オレはティプールさんの元へと急いだ。
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