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155 学園編 籠の中の鳥 夢見るカリナ
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その娘をひと言で表せば「ふわふわ」であろうか。
髪は緩いウエーブがかかったシャンパンゴールドのロング。
目鼻立ちも整っており、くりくりとした円らな瞳が愛らしい。
背丈は平均的だが、歳の割りに、たわわに育ったお胸の自己主張が激しい。
体全体に女性らしい丸みがあって、実に女の子らしい女の子。
性質はのんびりとして温厚、というより少し鈍いのか? 他の子たちよりもテンポが一つ遅い気がする。
そんな彼女がよく読んでいる本が恋愛小説の類、それも王子様が身分違いの相手を見染める王道パターンが多い。恋に恋するお年頃、自分も憧れの王子様と、という淡い想いを抱いているのはあきらか。
父親は役人をしている下級子家の娘で、名をカリナ・リィフォルトという。
「……と、まぁ、こんな感じなんだけど、どうかな?」
中庭の木陰にて読書に勤しむカリナを、物陰から観察していたクロアとメーサとオレの二人と一体。彼女の情報を持ってきたのはメーサである。
「いいんじゃない。なんかイメージにぴったり」
《そうだな……あとは当人次第だが、その辺はどうなんだ?》
「それが驚くことにバッチリなのよ。王子が在学しているってだけで、胸をときめかせているみたい。遠くにアレを見て乙女の溜息を零していたという目撃証言もあるわよ」
《そうか。でもいい子だったら、だったで、ちょっと気が引けるな。自分で提案しておいてなんだが、完全に生贄だしなぁ》
「そうよね、みすみす不幸になるのがわかってるのに……、なんだか罪悪感が凄いんだけど」
「弱気になっちゃダメよ、クロア、ムーちゃん。友達の不幸と赤の他人の不幸ならば、私は迷わず友達に手を差し伸べることを選ぶ。本当に守りたいモノが何なのか見失っちゃダメ。それは優しさなんかじゃない。自分が嫌な気分になりたくないだけ、そんなのはただの逃げよ」
きっぱりと言い切ったメーサの迫力に、オレとクロアは唯々諾々。
彼女は他人を巻き込むと決めたときから、とっくに諸々を背負う覚悟を決めていたんだ。
その強さにオレたちは圧倒されるばかりであった。
「それで生贄、もとい新恋人候補は見つかったけれど、この後はどうするの? ムーちゃん」
《この後は、とりあえず二人を引き合わせる。それも何度も何度も、偶然を装ってな》
「なるほど……、偶然も重なれば必然になる、か」
「えっ、えっ、ちょっとそれってどういう意味? 私にもちゃんと教えてよ」
オレとメーサが頷き合っている側で、よくわかっていないクロアが慌てていた。しょうがないので改めて説明してやる。
人の心情として、接する機会が増えるほどに、親密度が上がる傾向にある。だが大切なのはあくまで自然な流れであるということ。ここに何らかの作為を感じてしまったら、逆効果になってしまう。あくまで自然に、さりげなく、偶然を装って、二人は出会う。
これを繰り返すことで、勝手に二人で盛り上がってもらおうというワケだ。
「なるほど、でもそれだけで上手くいくの? 彼女はどうかわからないけど、相手はアレだよ」
さっきからアレ、アレと言われているのは第三王子ヘリオス・ラ・パイロジウムのこと。悪い方へと悪い方へと、予想の斜め上を突き進む才能の塊のような御仁。こちらの期待通りになるとはとても考えられないと、クロアは危惧しているのだ。
《ふふふ、心配ご無用。ちゃんとそのためのアイテムも用意してある。それがコレだ!》
オレがアイテム収納より取り出したるは、一冊の薄っすい冊子。
表紙には手書きにて「第三王子攻略読本」と書かれてある。
「手書きの……本?」
「えーと……ナニこれ?」
説明しよう。第三王子攻略読本とは、第三王子の好み、性格、抱えているコンプレックス、習慣、思考、人間関係、行動範囲、行動パターン、模範質疑応答集などが網羅された、王子を堕とすためだけの参考書である。
「へえー、また変テコなものを作ったわねぇ。どれどれ『王子は優秀な姉と比べられるのが大嫌い。話題には注意しましょう』か、なるほど確かに。『王子は下手からの教えて攻撃に弱い』ってププププ、スゲー、言われてみると確かにそうだ。たまに取り巻き相手に得々と語ってるときがあるわ」
手にした冊子のページをパラパラとめくって、中身に目を通したメーサがニヤニヤしながら感想を述べた。どれどれとクロアもチラ見して、「優しく肯定してあげましょう。無条件の信頼こそが、王子の頑な心を解きほぐす」ってただの甘やかしじゃん! と少し呆れていた。しかし二人ともコレならイケるかもと、攻略本の中身に納得してくれた。
あとはコイツをお嬢ちゃんに届けるだけだ。だが他にもやるべきことは沢山はある。
《オレが分体のメンバーを使って、王子の行動を見張る。その情報を元に適当なところで二人きりの出会いのシーンを演出しよう。クロアたちは邪魔な取り巻き連中を、引き離す工作を頼みたい》
「了解、でも私たちだけじゃちょっと厳しいかも」
「そうよね、何度ともなると……」
クロアとメーサの心配もごもっとも。
だからオレは周囲を更に巻き込もうと二人に言った。
《他にも協力者を募ろう。モニスの友人知人に助力を願おう。あと彼女の作品のファンも結構いるだろう? そっちからも頼んでみたらどうだ》
「あー、それなら何人か心当たりあるかも」
「私も、彼女の絵の熱烈なファンを知ってるわ。彼もここのところのモニスの様子に、随分と心を痛めていたから。きっと喜んで手を貸してくれると思う」
《じゃあ、そういうことでよろしく。すべてはモニスのために》
「「モニスのために」」
これを合言葉にオレたちは活動を本格的に開始した。
髪は緩いウエーブがかかったシャンパンゴールドのロング。
目鼻立ちも整っており、くりくりとした円らな瞳が愛らしい。
背丈は平均的だが、歳の割りに、たわわに育ったお胸の自己主張が激しい。
体全体に女性らしい丸みがあって、実に女の子らしい女の子。
性質はのんびりとして温厚、というより少し鈍いのか? 他の子たちよりもテンポが一つ遅い気がする。
そんな彼女がよく読んでいる本が恋愛小説の類、それも王子様が身分違いの相手を見染める王道パターンが多い。恋に恋するお年頃、自分も憧れの王子様と、という淡い想いを抱いているのはあきらか。
父親は役人をしている下級子家の娘で、名をカリナ・リィフォルトという。
「……と、まぁ、こんな感じなんだけど、どうかな?」
中庭の木陰にて読書に勤しむカリナを、物陰から観察していたクロアとメーサとオレの二人と一体。彼女の情報を持ってきたのはメーサである。
「いいんじゃない。なんかイメージにぴったり」
《そうだな……あとは当人次第だが、その辺はどうなんだ?》
「それが驚くことにバッチリなのよ。王子が在学しているってだけで、胸をときめかせているみたい。遠くにアレを見て乙女の溜息を零していたという目撃証言もあるわよ」
《そうか。でもいい子だったら、だったで、ちょっと気が引けるな。自分で提案しておいてなんだが、完全に生贄だしなぁ》
「そうよね、みすみす不幸になるのがわかってるのに……、なんだか罪悪感が凄いんだけど」
「弱気になっちゃダメよ、クロア、ムーちゃん。友達の不幸と赤の他人の不幸ならば、私は迷わず友達に手を差し伸べることを選ぶ。本当に守りたいモノが何なのか見失っちゃダメ。それは優しさなんかじゃない。自分が嫌な気分になりたくないだけ、そんなのはただの逃げよ」
きっぱりと言い切ったメーサの迫力に、オレとクロアは唯々諾々。
彼女は他人を巻き込むと決めたときから、とっくに諸々を背負う覚悟を決めていたんだ。
その強さにオレたちは圧倒されるばかりであった。
「それで生贄、もとい新恋人候補は見つかったけれど、この後はどうするの? ムーちゃん」
《この後は、とりあえず二人を引き合わせる。それも何度も何度も、偶然を装ってな》
「なるほど……、偶然も重なれば必然になる、か」
「えっ、えっ、ちょっとそれってどういう意味? 私にもちゃんと教えてよ」
オレとメーサが頷き合っている側で、よくわかっていないクロアが慌てていた。しょうがないので改めて説明してやる。
人の心情として、接する機会が増えるほどに、親密度が上がる傾向にある。だが大切なのはあくまで自然な流れであるということ。ここに何らかの作為を感じてしまったら、逆効果になってしまう。あくまで自然に、さりげなく、偶然を装って、二人は出会う。
これを繰り返すことで、勝手に二人で盛り上がってもらおうというワケだ。
「なるほど、でもそれだけで上手くいくの? 彼女はどうかわからないけど、相手はアレだよ」
さっきからアレ、アレと言われているのは第三王子ヘリオス・ラ・パイロジウムのこと。悪い方へと悪い方へと、予想の斜め上を突き進む才能の塊のような御仁。こちらの期待通りになるとはとても考えられないと、クロアは危惧しているのだ。
《ふふふ、心配ご無用。ちゃんとそのためのアイテムも用意してある。それがコレだ!》
オレがアイテム収納より取り出したるは、一冊の薄っすい冊子。
表紙には手書きにて「第三王子攻略読本」と書かれてある。
「手書きの……本?」
「えーと……ナニこれ?」
説明しよう。第三王子攻略読本とは、第三王子の好み、性格、抱えているコンプレックス、習慣、思考、人間関係、行動範囲、行動パターン、模範質疑応答集などが網羅された、王子を堕とすためだけの参考書である。
「へえー、また変テコなものを作ったわねぇ。どれどれ『王子は優秀な姉と比べられるのが大嫌い。話題には注意しましょう』か、なるほど確かに。『王子は下手からの教えて攻撃に弱い』ってププププ、スゲー、言われてみると確かにそうだ。たまに取り巻き相手に得々と語ってるときがあるわ」
手にした冊子のページをパラパラとめくって、中身に目を通したメーサがニヤニヤしながら感想を述べた。どれどれとクロアもチラ見して、「優しく肯定してあげましょう。無条件の信頼こそが、王子の頑な心を解きほぐす」ってただの甘やかしじゃん! と少し呆れていた。しかし二人ともコレならイケるかもと、攻略本の中身に納得してくれた。
あとはコイツをお嬢ちゃんに届けるだけだ。だが他にもやるべきことは沢山はある。
《オレが分体のメンバーを使って、王子の行動を見張る。その情報を元に適当なところで二人きりの出会いのシーンを演出しよう。クロアたちは邪魔な取り巻き連中を、引き離す工作を頼みたい》
「了解、でも私たちだけじゃちょっと厳しいかも」
「そうよね、何度ともなると……」
クロアとメーサの心配もごもっとも。
だからオレは周囲を更に巻き込もうと二人に言った。
《他にも協力者を募ろう。モニスの友人知人に助力を願おう。あと彼女の作品のファンも結構いるだろう? そっちからも頼んでみたらどうだ》
「あー、それなら何人か心当たりあるかも」
「私も、彼女の絵の熱烈なファンを知ってるわ。彼もここのところのモニスの様子に、随分と心を痛めていたから。きっと喜んで手を貸してくれると思う」
《じゃあ、そういうことでよろしく。すべてはモニスのために》
「「モニスのために」」
これを合言葉にオレたちは活動を本格的に開始した。
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