青のスーラ

月芝

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142 破軍編 五人の戦姫

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 この技だけは、二度と使うまいと決めていたが……、迫る破軍の脅威に対処するためには仕方あるまい。
 封印していた秘技を使うためにオレは今、滞在中である王都のランドクレーズ本家別宅の中庭にいる。
 ちょっと派手なので、人目があるとマズいのだ。その点、ここの庭は広く、周囲を塀に囲まれているので安心だ。
 庭にはクロアたちの他にも、アンケル爺まで姿を見せていた。
 彼には今回の事情のすべてを話してある。その上でいざという時には、ファチナやクロアたちだけでも連れて、王都を脱出するように頼んでおいた。

 オレだけが破軍の足止めのために先行すると言い出した時、エメラさんとザビア以外の三人が反対した。
 そりゃ、そうだ。なにせオレのチカラを正しく知っているのは、その場ではエメラさんだけだったから。彼女の口からスタンピートの夜のことを聞かされたときの、クロアたちの驚きようったらなかった。ただザビアだけは右の魔眼を妖しく光らせ、ニヤっと不気味な笑みを浮かべていたのが気になるところ。
 とにもかくにも、なんとかクロアたちを説得して、オレは現在ここにいる。

「ムーちゃん、死んだらやだからね」
《心配するな。なにせスーラボディは恐ろしく頑丈だからな。それにヤバくなったら逃げるし》
「本当に本当? 絶対だよ、約束だからね」
《あぁ、約束する。オレは必ずクロアのところに生きて帰ってくるから》

 ヒシッと抱きついて離れようとしないクロア。
 その背中を触手でポンポンと叩いてやる。

「ムーちゃん、こっちはバッチリ任せておいて」
「ムーさん、どうかご無事で」
《メーサとルーシーさんも頼んだ。でもクロアと一緒になって、あんまり無茶すんなよ。エメラさんもお手数ですが、彼女たちのお守りを頼みます》
「承りました。宝物を手に入れたらすぐに駆けつけますので、それまでどうかご自愛を」

 別れの挨拶を済ませたところで、みんなをオレの周囲から離れさせる。
 ちなみにザビアは必要な品を手配したり、関係各所と連絡を取るために席を外している。
 充分な距離が取れたのを確認してから、青いスーラボディをグニャグニャと変形した。
 最後にチラリとクロアの方を見る。
 彼女の金の髪がお日様を受けてキラキラと輝いている。
 三歳の頃に初めて出会った頃の小さな姿と、いまの成長した姿が重なる。
 しっかりとその姿を心に焼きつけておく。
 待っていてくれる人たちがいる。
 帰れる場所がある。なんとありがたいことか。
 それだけでもおっさんが戦う理由には十分過ぎて、お釣りがくるだろう。

《じゃあ、行ってくる》

 魔法によって自身の周囲に土壁を出現させる。これは技の発動時の衝撃を、周囲に及ぼさないための遮断壁。
 オレは、爆音とともに遥か空高くへと舞い上がった。
 人間ロケットならぬ、スーラロケット。
 自身の体をミサイルに見立てることで、超高速移動を実現。
 ただしコントロールが極めて難しい。あと音速を超えると操作不能になってしまうから注意が必要だ。ついでにキレイな着地は不可。目標に向かってただ突っ込んで落ちるのみという完全自爆技。丈夫なスーラ以外は、絶対に真似しちゃいけない技である。

 スーラロケットが真東に向かって飛ぶ。
 あっという間に王都が遠ざかっていく。
 目指すは破軍を迎え撃つために、ザビアの仲間たちが陣を張っている街。

《威勢よく飛び出したけど、ところでドラゴンの言う「そこそこ」ってどれくらいなんだろう? もしかして、おっさん早まったかも》

 天翔ける青いスーラ。
 ちょびっと後悔しつつも、空を飛んで行く。



「ムーちゃんが空を飛んだ」あんぐりと口を開けたままのクロア。
「すごい……、あっという間に見えなくなった」飛んでいくスピードに驚愕するメーサ。
「ほへー。スーラって空を飛べたんですねぇ」ただただ感心するルーシー。
「安定した規格外っぷりです」驚き慣れてしまったというエメラ。
「……ワシはもう何があっても驚かんよ。疲れるだけじゃから」とっくに諸々を諦めているアンケル。

 五人はしばらく青いスーラが飛んで行った東の空を眺めていたが、いつまでも突っ立っていたところでしようがない。

「さて、私たちも準備を整えましょう。すぐにザビアさんから連絡が届くでしょうから」

 エメラの合図でみなが動き出す。
 じきに王都も騒がしくなる。
 その中心となるのは五人の女性たち。
 あらゆる敵を拳の一撃にて葬る、閃光姫クロア・ランドクレーズ。
 数多の傀儡を操り敵を翻弄する、人形姫メーサ・ユークライト。
 達成不可といわれた依頼をいくつも完遂させた伝説の元S級冒険者、銀閃のエメラ。
 流麗にして苛烈な瞬速の剣を使う女騎士、流星のザビア・レクトラム。
 武器と呼ぶには無骨で巨大な金棒を、軽々と操るメイドのルーシー。
 あまりにも激烈な活躍を指して、都の人々は彼女たちを五人の戦姫と称することになる。



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