青のスーラ

月芝

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140 破軍編 チーム結成

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 カフェの奥にある個室にて、ザビアから語られたのは、王都へと迫る謎の脅威と、それを誘導していると思われる何モノかの情報。
 自分の所属している部隊が脅威に対処している間に、こちらで元凶となっている品の探索と確保を命じられたと、彼女は説明した。

 ザビアが急ぎ王都に戻り、城へと報告したところ、王様はすぐに動いた。
 現在、王都にはファチナの婚儀に参列していた諸外国の賓客らが、多数滞在している。
 もしもの事があれば王国の信用は地に落ちる、そればかりか隙を狙ってよからぬことを企む連中がいないとも限らない。
 事態をなるべく穏便かつ速やかに処理する必要がある。
 王様は防衛拠点となる街に応援を手配するとともに、ザビアに全権を委ねて捜査を一任した。彼女の能力と魔眼の存在を知っての判断であった。

「万一、防衛が失敗した場合、その何かさえ押さえておけば敵を誘導できますから。……というワケで、皆様を徴用します」

 王印の入った書状をひらひらと見せつけながらのザビアのふざけた物言いに、その場にいたクロア他三人と一体の全員のこめかみに、青筋がピシッと立った。
 しかしオレはともかくクロアたちは、この要請を断れない。
 王国にて貴族という恩恵を受けている身分である以上、王命とは絶対なのである。
 それを知ってのドヤ顔のザビアがなんとも小憎らしい。

「どうして我々なのでしょうか?」

 いち早く冷静さを取り戻したエメラさんが、もっともな疑問を口にした。
 それはオレも知りたかったところだ。捜査協力といったってオレたちは素人、その辺の仕事は国が飼ってる諜報部の連中でも動員した方が、よほど効率がいいだろうに。

「そうですね。理由はいろいろとありますが、まず貴女達の実力が申し分ないこと、なにせ話題沸騰中の閃光姫と人形姫、元S級冒険者である銀閃のエメラさま、あとよく知りませんが、そこのお胸の大きな可愛らしい方もきっとお強いでしょうし、なにより……」

 クロア、メーサ、エメラ、可愛いと云われて照れてるルーシーと、順番に向けられていたザビアの視線が、最後にオレのところでピタリと止まる。

「なによりムーさんのチカラは頼りになりますので」

 紅い魔眼が青いスーラを見つめていた。

 室内にしばし沈黙が下りる。
 これを破ったのはクロアであった。

「わかった……、協力する。ムーちゃんもそれでいいよね?」
《あぁ、王都がどうにかなっちまったら、ファチナたちも大変だろうしな》
「ムーちゃんの言う通りだね。お姉さまの新婚生活を邪魔するなんて、ちょっと許せないかな」
「私はクロアさまの決定に従います」
「わ、わたしもクロアさまに、どこまでもお供しますから」

 クロアの声にみなが応える。

「ありがとうございます。ところで一つお訊ねしたいのですが」

 やる気になったオレたちに頭を下げるザビア。だがここで思わぬ言葉が、彼女の口より飛び出した。

「先ほどから私の目には、皆様方がムーさんと普通にお話しをしているように見えるのですが、これはどういうことなのでしょうか?」
「「「あっ!」」」

クロアとメーサとエメラさんの三人が、同時にしまったという表情を見せる。
ルーシーさんだけが「えっ、えっ」と事態が飲み込めずに、キョロキョロしていた。そういえば彼女にだけは、まだオレが自由に話せることを説明していなかったっけか。

「……どうしよう、ムーちゃん」
《いい機会だ。ルーシーさんにバラすついでに、ザビアの奴にも教えてやれ》
「本当にいいの?」
《いいさ。これからの面倒事を考えれば、連絡はとれたほうが良いからな》
「わかった。じゃあ話すね」

 こっそりと相談してきたクロアに、オレは自分の秘密を話すことを許可する。
 オレが自由に会話をこなせるだけでなく、文字の読み書きも問題ないことが説明されると、ルーシーさんは素直に、ただただ驚いていた。
 ザビアの方は「ほほぅ」と感心した様子で、オレを舐め回すように見ている。

《あんまりジロジロこっち見んな》

 バレてしまったのでザビアとルーシーさんにも分体の子機を渡し、回線を繋いだので、もう普通に会話が成立している。だから遠慮なく悪態をついてやった。

「おぉ! 本当に喋れるのですね。これは実に面白い」
《面白がるのは勝手だが、あんまりオレのことを周囲に漏らしてくれるなよ》
「それは承知しております。そもそも話したところで、誰も信じませんよ。『スーラが喋る』だなんて。私の頭がふれたと思われて終わりですから、どうか安心して下さい」
《本当に頼むぞ。錬金術ギルドの実験室行きで、即解剖とか絶対に嫌だからな》
「大丈夫ですよ。これでも私、身持ちは固いので。一途に尽くす女なのです」

 自信満々に言い切るザビア、その姿にオレは一抹の不安を拭い切れない。
 とりあえずルーシーさんにも、これまでの事を詫びたら、こちらはケラケラと笑って許してくれた。なんだかんだで日頃からお手伝いをしていたのが役に立ったようだ。こういう小さな信用の積み重ねって本当に大切。

 差し当って互いの自己紹介も済んだところで、ザビアが今後の方針を打ち出す。
 脅威を誘導している何かを探索するにあたり、わかっているのは謎の集団によって王都内に運び込まれたということだけ。そこでこれを処理するために、接触すると思われる組織を片っ端からシラミ潰しに当って情報を集める。

「ちなみに対象となる組織は、いくつあるのでしょうか?」
「えーと、ざっと目ぼしい奴で百とちょっと、小さいのを入れると全部で、三百ぐらいでしょうか」

 エメラさんの問いに、しれっとトンデモナイ数字を上げたザビア。

「三百って冗談よね?」「さすがにソレは多すぎでしょう」呆れるクロアとメーサ。
 ルーシーさんは「大変ですねぇ」と、どこか他人事だった。
 オレ? オレは当然呆れているさ。
 いくら王都が馬鹿でかいとはいえ、闇組織が多すぎ。前回の騒動の時に、結構な数を潰したと思っていたが、あんなものは氷山の一角に過ぎなかったようだ。人の業って恐ろしい……、と嘆いてばかりもいられないので、ここでオレが建設的な意見を述べる。

《さすがにその作戦は却下だ。時間がかかり過ぎる。そこでオレはクロアの能力を使うことを提案する》

 クロアの能力は身体強化と武芸だけではない。彼女には自分でも把握していない、もう一つの能力がある。それはダウジング能力、クロアはこれにより自宅の敷地内にて、温泉を当てた実績を持つ。当人どころかアンケル爺にも教えてはいないチカラ。バレたらヤバそうだったので、周囲にはずっと秘密にしていたが、なにせ今は緊急事態につきご容赦願いたい。

「ムーちゃん、私に本当にそんなチカラがあるの?」
《間違いなくある。オレがこっそりと検証実験を繰り返したからな。うちの温泉もその成果の一つだぞ》
「えぇーっ! そうだったのー!」自分のことに驚きを隠せないクロア。
「あのお湯にそんな由来があったとは驚きです」
「あれってクロアさまのおかげだったんですね。おかげでメイド一同疲れ知らずで、お肌つるつる、みんな大喜びです」
「私もクロアちゃんのところにお泊りする際には、いっつも楽しみにしているのよねぇ」
「えっ! 自宅に温泉ですか? さすがはアンケル様のお家ですねぇ。なんという豪気、これは是非とも今度お邪魔させて下さい」

 温泉というキーワードが出た途端に、姦しくなる女性陣。女の人って本当にお風呂好きだよね。そういえばあの施設も、エメラさんが気合を入れて竣工していたし。……と話が横道に逸れまくってる。

《とにかく能力はオレが保障するから。ザビアは王都の出来るだけ詳細な地図をすぐに手配しろ、それから一連の騒動に関係していそうな組織が出入している場所の特定もだ。他のみんなは戦闘準備をして待機。資料が揃ったところで、クロアのダウンジングにて場所を選別して強襲、目標を確保する、以上。なにか質問はあるか?》

「おぉー」と一同から感嘆の声が起こる。ルーシーさんなんか、ぱちぱちと拍手までしていた。
 それでは早速準備に入ろうとしたところで、オレの下に念話にて緊急連絡が届く。
 相手はダンジョン主である、女ドラゴンのティプールさんだった。
 もたらされた情報は、もちろん吉報などではない。

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