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138 破軍編 治安維持部隊
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治安維持部隊のメンバーたちが全員集まって、今後のことを協議する。
他の部隊ではどうかはわからないが、ここでは隊長の方針によって、部隊に所属する全員で情報を共有していた。
何者かの痕跡を辿るかのように、正体不明の脅威は移動している。
そのような説を唱えたザビアに、隊長以下も同意を示す。
みなが被災地を巡って感じた違和感。
一見すると無作為に暴れているようにみえて、宿屋周りは破壊活動が念入りになされている。それに西へと向かっているのだが、必ずしも進路上にあるすべての街や村が被害にあっているわけではない。
そして被害に遭った土地の宿屋には、決まって破壊の嵐がやってくる数日前に、男たちの集団が泊まっていたという話も聞き及んでいる。集めた目撃証言により、人相風体が合致していることから、同一集団であることは間違いない。
恐らくはソイツらが災いの種を運んでいると、彼らは結論づけた。
ならば後はソイツらの身柄を拘束して、何かを取り上げればいいのだが、事はそう簡単にはいきそうもない。
広げられた地図の上にはバツ印がされてある。
そこは謎の集団が立ち寄った後に襲撃を受け壊滅した町や村で、印は西へ西へと向かっているのは間違いない。しかし立ち寄った場所が飛び飛びなのだ。
用心をしているのか、騎士団などが駐留している地は素通りし、ときにはわざわざ回り道をしてまで、人の少ない地域を選んで進んでいる。
だったらある程度の目算にて網を張りたいところだが、人出が足りない。
西へと進むほどに、王都が近くなり町や村の数が増えていく。
向こうにもこちらにも選択肢というカードが配られる。相手が選んだカードが自分の選んだカードと同じ確率は、果たしてどれくらいであろうか。
各地に捕縛を手配しようにも、警備の手が及びそうなところには、連中は警戒して近づかない。
村の自警団如きでは返り討ちにあってしまうかもしれないし、なにより追跡者がいるという情報を相手に与えるのは愚策であろう。唯一ともいえる優位性を自ら失うことになる。それに伝令を走らせる分だけ、隊員を割かなければならない。
兵力を分散するのはモンスターどもが跋扈する辺境では、命取りになるので極力避けるのが鉄則だ。
「なによりも最悪なのは、連中の目的地が王都だった場合だ。対応を誤るとトンデモナイ被害が出るぞ」
隊長の杞憂に全員が黙り込む。
宝を手に入れた者が向かう先を考えれば、欲望が集う彼の地が、最有力候補であることは明白。しかも地図上の動きを見るに、それは極めて高い確率であると認めるしかない。
隊長はしばらく考え込んだ後、ザビアへ王都に向かうのように指示した。
「すまんが単独で動けるのはお前ぐらいだ。中央の連中に急を報せてくれ。あと応援も頼む。その間、俺たちは先回りしてココに陣を張る」
隊長が地図で示した場所は、王都より真東に二日ほどの位置にある街。
王都防衛の役割を担う要所であるがゆえに、中規模ながらも頑強な城壁に囲まれている。
ここならば応援が駆けつけるまで持ちこたえらえると、隊長は判断した。
とにかく対応が後手に回っている。
これまでの経過を見るに、おそらく七日近くは先行されていると考えたほうがいい。
先行している一団が王都を目指していると仮定すると、無闇に追跡したところで空振りに終わる可能性がある。運がよければ王都に入られる前に、身柄を抑えられるかもしれないが、一連の行動を見るに目標も素人じゃない。たとえ王都の全ての門を締め切ったところで、何某かの伝手を用いて侵入を果たすであろう。
長い間、中央とは距離を置いて、辺境での活動を続けていた彼だからこそわかってしまうのだ。あそこには金貨数枚で転ぶ輩がゴロゴロしている。王都の人間たちを完全に信用することはとても出来ない。
それよりかは着実に迫る脅威を足止めすることを彼は選んだ。
「たのんだぞ、ザビア。それから確かお前は王都に土地勘があったな」
「はい。近衛ではそれなりに活動していましたので」
「ならば王城に一報を入れた後は、そちら側から捜査を頼みたい。これはオレの勘だが、たぶん例のブツは、早晩のうちに王都に運び込まれるだろう」
「勘ですか、不思議と当るんですよね。隊長の悪い予感って」
「あぁ、おかげで随分と命拾いしてきた。そいつがビンビンと訴えるわけよ。今回のは本気でヤバイってな」
「……わかりました。とりあえず裏の連中の動きを洗って、行方を追ってみます」
「そうしてくれ。ではみなも直ぐに出立の準備を始めてくれ。悪いが夜通しの強行軍になるぞ」
隊長の号令一下、全員が動き出す。
副長であるザビア・レクトラムは一足先に村を発った。
陽がじきに沈むも、彼女は止まらない。
夜道にもかかわらず迷わず馬は突き進む。
ザビアの右目の魔眼が紅く淡い光を帯びている。
邪魔になりそうなモンスターが姿を見せれば、即座に長刀にて切り伏せる。
「王都に帰るのも随分と久しぶりですね……、そういえばアンケル様のところのお嬢様も学園でご活躍だとか。もしかしたらアノ方にも会えるかもしれませんね。フフフフ、なんだか私、ちょっと楽しくなってきちゃいました」
ザビアが手綱を握る手に気をやると、それに応えて馬が一層速度を上げた。
他の部隊ではどうかはわからないが、ここでは隊長の方針によって、部隊に所属する全員で情報を共有していた。
何者かの痕跡を辿るかのように、正体不明の脅威は移動している。
そのような説を唱えたザビアに、隊長以下も同意を示す。
みなが被災地を巡って感じた違和感。
一見すると無作為に暴れているようにみえて、宿屋周りは破壊活動が念入りになされている。それに西へと向かっているのだが、必ずしも進路上にあるすべての街や村が被害にあっているわけではない。
そして被害に遭った土地の宿屋には、決まって破壊の嵐がやってくる数日前に、男たちの集団が泊まっていたという話も聞き及んでいる。集めた目撃証言により、人相風体が合致していることから、同一集団であることは間違いない。
恐らくはソイツらが災いの種を運んでいると、彼らは結論づけた。
ならば後はソイツらの身柄を拘束して、何かを取り上げればいいのだが、事はそう簡単にはいきそうもない。
広げられた地図の上にはバツ印がされてある。
そこは謎の集団が立ち寄った後に襲撃を受け壊滅した町や村で、印は西へ西へと向かっているのは間違いない。しかし立ち寄った場所が飛び飛びなのだ。
用心をしているのか、騎士団などが駐留している地は素通りし、ときにはわざわざ回り道をしてまで、人の少ない地域を選んで進んでいる。
だったらある程度の目算にて網を張りたいところだが、人出が足りない。
西へと進むほどに、王都が近くなり町や村の数が増えていく。
向こうにもこちらにも選択肢というカードが配られる。相手が選んだカードが自分の選んだカードと同じ確率は、果たしてどれくらいであろうか。
各地に捕縛を手配しようにも、警備の手が及びそうなところには、連中は警戒して近づかない。
村の自警団如きでは返り討ちにあってしまうかもしれないし、なにより追跡者がいるという情報を相手に与えるのは愚策であろう。唯一ともいえる優位性を自ら失うことになる。それに伝令を走らせる分だけ、隊員を割かなければならない。
兵力を分散するのはモンスターどもが跋扈する辺境では、命取りになるので極力避けるのが鉄則だ。
「なによりも最悪なのは、連中の目的地が王都だった場合だ。対応を誤るとトンデモナイ被害が出るぞ」
隊長の杞憂に全員が黙り込む。
宝を手に入れた者が向かう先を考えれば、欲望が集う彼の地が、最有力候補であることは明白。しかも地図上の動きを見るに、それは極めて高い確率であると認めるしかない。
隊長はしばらく考え込んだ後、ザビアへ王都に向かうのように指示した。
「すまんが単独で動けるのはお前ぐらいだ。中央の連中に急を報せてくれ。あと応援も頼む。その間、俺たちは先回りしてココに陣を張る」
隊長が地図で示した場所は、王都より真東に二日ほどの位置にある街。
王都防衛の役割を担う要所であるがゆえに、中規模ながらも頑強な城壁に囲まれている。
ここならば応援が駆けつけるまで持ちこたえらえると、隊長は判断した。
とにかく対応が後手に回っている。
これまでの経過を見るに、おそらく七日近くは先行されていると考えたほうがいい。
先行している一団が王都を目指していると仮定すると、無闇に追跡したところで空振りに終わる可能性がある。運がよければ王都に入られる前に、身柄を抑えられるかもしれないが、一連の行動を見るに目標も素人じゃない。たとえ王都の全ての門を締め切ったところで、何某かの伝手を用いて侵入を果たすであろう。
長い間、中央とは距離を置いて、辺境での活動を続けていた彼だからこそわかってしまうのだ。あそこには金貨数枚で転ぶ輩がゴロゴロしている。王都の人間たちを完全に信用することはとても出来ない。
それよりかは着実に迫る脅威を足止めすることを彼は選んだ。
「たのんだぞ、ザビア。それから確かお前は王都に土地勘があったな」
「はい。近衛ではそれなりに活動していましたので」
「ならば王城に一報を入れた後は、そちら側から捜査を頼みたい。これはオレの勘だが、たぶん例のブツは、早晩のうちに王都に運び込まれるだろう」
「勘ですか、不思議と当るんですよね。隊長の悪い予感って」
「あぁ、おかげで随分と命拾いしてきた。そいつがビンビンと訴えるわけよ。今回のは本気でヤバイってな」
「……わかりました。とりあえず裏の連中の動きを洗って、行方を追ってみます」
「そうしてくれ。ではみなも直ぐに出立の準備を始めてくれ。悪いが夜通しの強行軍になるぞ」
隊長の号令一下、全員が動き出す。
副長であるザビア・レクトラムは一足先に村を発った。
陽がじきに沈むも、彼女は止まらない。
夜道にもかかわらず迷わず馬は突き進む。
ザビアの右目の魔眼が紅く淡い光を帯びている。
邪魔になりそうなモンスターが姿を見せれば、即座に長刀にて切り伏せる。
「王都に帰るのも随分と久しぶりですね……、そういえばアンケル様のところのお嬢様も学園でご活躍だとか。もしかしたらアノ方にも会えるかもしれませんね。フフフフ、なんだか私、ちょっと楽しくなってきちゃいました」
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