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122 災厄の魔女編 女神の手から零れた子供たち
しおりを挟む 息が詰まりそうなほどの沈黙の中、救世主が現れた。
「まま、これオレのお気に入りのジュースやねん。わざわざお取り寄せしてるんよ」
梢賢は「高級!」と書かれたラベルの瓶ジュースを手に戻ってきた。後からグラスを運んできた優杞とともに愛想笑いを浮かべて全員に注いで回る。
「はあ。いただきます」
永にしてもその笑顔が張り付いており、緊迫から微妙な雰囲気に格上げはしたがまだ居た堪れなかった。
そこで、梢賢は大袈裟にグラスをぐいっと飲み干して笑う。
「んー!これこれ!やっぱりんごジュースはこれやないとあかんわあ!」
「梢賢、さっきから黙って聞いていれば、なんだそのお笑い芸人みたいな喋り方は」
「ピッ!」
だが、父の柊達は更に不機嫌になって梢賢を睨みつける。
「馬鹿がますます馬鹿に見える。やめなさい」
「すいません!」
母の橙子からも辛辣な言葉が出て、梢賢は結局その場で縮こまった。アイデンティティとは何かを考えざるを得ない。
「まあいい。不肖の息子が色々と迷惑をかけたようですまなかった」
柊達は肩で大きく息を吐いて形式上謝った。
それに永達は恐縮しながら答える。
「あ、いえ!僕らこそ、また雨都の方にお会いできて本当に心強いです」
「毎度ご迷惑をおかけして申し訳ありません……」
永の謝辞と鈴心の侘言の後、ぼうっとしている蕾生を柊達が軽く睨んだ。
お前は何かないのかと言わんばかりだ。
「すいませんでした……」
仕方なく蕾生も頭を下げたが、具体的な事は言えなかった。
そうしてやっと橙子が口を開く。
「まあ、あらましは梢賢から聞いています。それに私が子どもの頃は叔母からも散々聞かされました」
「楓サンからですか?」
「ええ。母の目を盗んではいろいろとね。あの頃は御伽話のようで楽しく聞いていたものだけど、いざ息子が関わると思うとねえ……」
「……」
当然の言い分に、永は二の句が出なかった。
「ご存知かもしれないが、楓の姉である私達の母は二年前に亡くなっている。母は妹が受けた鵺の呪いを最期まで憎んでいた。その想いは代を変えても私達の根幹にあると承知おかれよ」
「はい……」
吊し上げの様ではあるが、永は甘んじてこれを受け入れる。その横で鈴心が控えめに申し出た。
「あの、ご迷惑でなければ、楓さんの墓前に参りたいのですが……」
「悪いが墓に行ってもらっても楓はいない」
「──え?」
ひたすら不機嫌なままの柊達の言葉に鈴心が聞き返すと、橙子が息子を促した。
「梢賢」
「ああ……」
短く返事をした後、梢賢は胸元から小さな石のついたペンダントを取り出した。それは翡翠のような色の石で、鈍く光っている。
「楓婆ならここや」
梢賢のその言葉の意味を永も鈴心も理解できなかった。
「ええ?」
「どういうことです?」
二人の様子に、橙子は眉を顰めながらも説明を始める。
「説明しなくてはわかりませんね。楓は鵺の呪いを受けて里に帰ってきましたが、徐々に体が弱っていき、遂には寝たきりになりました」
予め梢賢から聞いてはいたものの、具体的に表現されて、永はショックを隠せず、鈴心は一瞬で青ざめた。
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「まま、これオレのお気に入りのジュースやねん。わざわざお取り寄せしてるんよ」
梢賢は「高級!」と書かれたラベルの瓶ジュースを手に戻ってきた。後からグラスを運んできた優杞とともに愛想笑いを浮かべて全員に注いで回る。
「はあ。いただきます」
永にしてもその笑顔が張り付いており、緊迫から微妙な雰囲気に格上げはしたがまだ居た堪れなかった。
そこで、梢賢は大袈裟にグラスをぐいっと飲み干して笑う。
「んー!これこれ!やっぱりんごジュースはこれやないとあかんわあ!」
「梢賢、さっきから黙って聞いていれば、なんだそのお笑い芸人みたいな喋り方は」
「ピッ!」
だが、父の柊達は更に不機嫌になって梢賢を睨みつける。
「馬鹿がますます馬鹿に見える。やめなさい」
「すいません!」
母の橙子からも辛辣な言葉が出て、梢賢は結局その場で縮こまった。アイデンティティとは何かを考えざるを得ない。
「まあいい。不肖の息子が色々と迷惑をかけたようですまなかった」
柊達は肩で大きく息を吐いて形式上謝った。
それに永達は恐縮しながら答える。
「あ、いえ!僕らこそ、また雨都の方にお会いできて本当に心強いです」
「毎度ご迷惑をおかけして申し訳ありません……」
永の謝辞と鈴心の侘言の後、ぼうっとしている蕾生を柊達が軽く睨んだ。
お前は何かないのかと言わんばかりだ。
「すいませんでした……」
仕方なく蕾生も頭を下げたが、具体的な事は言えなかった。
そうしてやっと橙子が口を開く。
「まあ、あらましは梢賢から聞いています。それに私が子どもの頃は叔母からも散々聞かされました」
「楓サンからですか?」
「ええ。母の目を盗んではいろいろとね。あの頃は御伽話のようで楽しく聞いていたものだけど、いざ息子が関わると思うとねえ……」
「……」
当然の言い分に、永は二の句が出なかった。
「ご存知かもしれないが、楓の姉である私達の母は二年前に亡くなっている。母は妹が受けた鵺の呪いを最期まで憎んでいた。その想いは代を変えても私達の根幹にあると承知おかれよ」
「はい……」
吊し上げの様ではあるが、永は甘んじてこれを受け入れる。その横で鈴心が控えめに申し出た。
「あの、ご迷惑でなければ、楓さんの墓前に参りたいのですが……」
「悪いが墓に行ってもらっても楓はいない」
「──え?」
ひたすら不機嫌なままの柊達の言葉に鈴心が聞き返すと、橙子が息子を促した。
「梢賢」
「ああ……」
短く返事をした後、梢賢は胸元から小さな石のついたペンダントを取り出した。それは翡翠のような色の石で、鈍く光っている。
「楓婆ならここや」
梢賢のその言葉の意味を永も鈴心も理解できなかった。
「ええ?」
「どういうことです?」
二人の様子に、橙子は眉を顰めながらも説明を始める。
「説明しなくてはわかりませんね。楓は鵺の呪いを受けて里に帰ってきましたが、徐々に体が弱っていき、遂には寝たきりになりました」
予め梢賢から聞いてはいたものの、具体的に表現されて、永はショックを隠せず、鈴心は一瞬で青ざめた。
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