98 / 226
97 スタンピート編 新たな火種
しおりを挟む
「よし! バックレよう」
邸宅へと戻り、スタンピートについての諸々を説明したら、当主のアンケルが実に爽やかな笑顔で言い切った。
あれから丸一日かけて、夕方頃に帰宅したオレとエメラさん。
とりあえず勝手をした詫びと帰宅の報告をしに、主人のもとを訪れたメイド長。
詳細は夕食後、クロアが自室に戻ってからということになる。
そして夜更けの執務室に集まったアンケル爺と執事長クリプトさん、メイド長のエメラさんに青いスーラのオレ。
始めのうちはエメラさん主体で話を進めていたのだが、面倒になったので早々に触手回線を開き、皆に子機の分体を与えて、諸々をぶっちゃけちゃった。
だって面倒なんだもの。いちいちエメラさんを介してのやり取りが。なによりドンドンと銀髪ハーフエルフのイライラが募って、部屋の空気が悪くなるったらありゃしない。
そういや昨夜は徹夜だった。そりゃあイライラもするわな。
爺とクリプトさんの反応は、思いのほか鈍かった。
それはもうこっちが拍子抜けするほどに。
「今更じゃな……」
「今更ですね……」
それなりの覚悟を持っての告白が、たったコレだけで流された。
受け入れられたのは嬉しいけれど、なんだかおっさん、ちょっとショック。
「どのみち満足な説明なんぞ出来んじゃろ。バレたら面倒なだけじゃ。だからワシらは知らぬ存ぜぬを通す。じきにユークライト家の方からも事態終息の連絡が入るだろう。そうしたら王都から調査団が派遣されて、後は勝手にやりおるわい」
「そうですね。もしかしたらチョコパ方面への調査協力として、兵の貸し出しを打診されるかもしれませんが」
主人の意見に頷きつつ、今後の展開を予想する執事長。
「慰安の名目でユークライト家に使いを出す必要もありますし」
「そうさな……、その一団にクロアの奴も混ぜてやれば喜ぶじゃろう」
「それは妙案ですね。クロアさまもお喜びになられます」
更に二人の話にメイド長が加わり、次々と今後の方針が固まっていく。
すっかりお仕事モードに入った三人。ちなみにオレはぽつんと蚊帳の外に置かれている。
そしてたっぷりと時間をかけての相談事が終了したところで、おもむろに爺が部屋の隅に転がる青いスーラのことを思い出した。
「おぉ、それからお前さんはこれまで通りで構わん。ワシら以外の前では、適当に誤魔化しておけ。下手に話せるなんぞ周囲にバレてみろ。今まで以上にコキ使われることになるぞ」
爺の言葉を反芻し、オレは少し妄想してみる。
メイドさんらにバレる……、これまで以上にお願いごとをされる。
黒服たちにバレる……、事務仕事を手伝わされている姿が思い浮かぶ。
司書さんらにバレる……、図書室に缶詰にされて一晩中働かされる。
騎士団の面々にバレる……、汗臭い洗濯物や武具の手入れに、汚部屋の片付けをやらされる。
トア先生にバレる……、彼女は優しいから、たぶんこれまで通り。
仮面女にバレる……、無茶な組手の相手をさせられてボロボロに。
鍛冶工房の親っさん……は、変わらないかなぁ。
料理長……も、変わらないな、うん、たぶん。
クロアとルーシーさんは……、ちょっとわからない。あの二人って何気に感覚で動く天才肌だから予測がつかん。
《うん。とりあえず現状維持で》
オレがそう答えると三人とも「それがいい」と頷いてくれた。
クロアに正体を明かすかどうかについては、時期を見ることでみなの意見が一致する。
なんといってもあの子はまだ五歳児、秘密を共有するには、いささか心もとない。本人にその気がなくてもポロリもある。だから彼女が王都の学園へと通うことになる十二歳を目処に、ということで落ち着いた。その頃ならば分別もあるだろうし、自分でちゃんと考えて判断できるだろうから。
結局、オレの秘密を共有するのは、この場にいる三人。
当主アンケル・ランドクレーズ、執事長のクリプト、メイド長のエメラ、のみとされた。なお何かを表に出すときには、必ず自分を通せとアンケル爺には念を押された。
どうやらオレが以前に提供した新型甘味料とサツマイモもどきが、すでにトンデモナイことになっているみたい。商品を任せているクロアの母方の祖母で、大商会のオーナーでもあるアロ・シャープの笑いが止まらないんだとか。もうウハウハらしい。
《ところで騎士団長には、オレのことを教えなくてもいいのか?》
深夜の会合もようやく締めへと差し掛かったところでポツリと零すと、三人が揃ってサッと目を逸らした。
「アレは隠し事にはむいておらぬ」
「彼は一本気ですから」
「……」
あー、わりと脳筋気質だからなぁ、あの人。
信任はしているが、ソレとコレとは話が別ということか。
哀れ騎士団長、今度また新しい本を差し入れてやるとしよう。
おっさんは基本的にモテない男の味方だからな。
こうしてオレを巻き込んだ一連の騒動は幕と閉じたかに思えたのだが……。
時を少しばかり遡る。
チョコパを壊滅させたモンスターの群れが山を越え、ユークライト家の本拠地である辺境都市へと向かっていた頃。
スタンピートの報を受けて、城壁上で警備についていた兵らが騒ぎだす。
突然の轟音、地響きが深夜に鳴り響いたのだから。
「この音は一体……」「敵襲か」「違う」「アレは何だ」「光の雨……」「星が降っているのか?」「それにしては様子がおかしい」「数が多すぎる」
時間にすればそれほど長くはない。それでも兵らはまるで生きた心地がしなかった。
数多の星が流れては、大地に落ち火柱を上げる。まるで神話に登場するかのよう異様な光景を前に、彼らは目を逸らすことなく、眺めていることしか出来ない。
じきに静寂が戻ってきたとき、彼らは心底ホッとした。だがそんな安堵もすぐに吹き飛ぶ。
今度は夜陰の風に乗って、遠くから何者かが激しく戦っているかのような音が聞こえてきたからだ。足元もずっと微振動を続けている。
どれだけ城壁の上から目を向けても正体はわからない。それが一層、みなの恐怖心を煽ることになる。
やがて音も静まっていき、完全に聞こえなくなった。振動も止まった。
空は白じみ始め、ようやく長い夜が明ける。
そんなタイミングで一本の青い炎の柱が天へと延びたのを、多くの兵が目撃する。
「神罰の火」誰云うともなく、そんな言葉が自然に発生した。
誠実なユークライト家の領民らを守るために、女神が遣わしてくれた天の救いだと拝む者まで現れ、住民らの間では、これがまことしやかに囁かれることになっていく。
そして夜が完全に明けてから派遣された先遣隊は目撃する。
かつて河原であったであろう荒地に転がる無数のモンスターらの屍。
立ち込める死臭、あまりの濃厚さに熟練の冒険者さえも顔を顰め、若い者は吐いた。
それを超えた先の森の中に、謎の巨大なすり鉢状の穴を発見。
しかしつい先日までこんなモノは確かになかったと、隊に参加している一人が証言する。
周囲の木々は無残にへし折られ、地面は抉れ、この場所で何らかの戦闘行為が行われたことは明白。だが彼らに分かったのはそこまでであった。
先遣隊の報告を受けてユークライト家当主は、慎重に一日様子を伺ってから、ようやく事態が終息したことを宣言した。
終息宣言より二週間後、スタンピート戦場跡に、いくつもの動く人影があった。
彼らはみな王都から派遣された調査団の面々である。
調査団は二手に分かれて軍勢を伴った一団がチョコパへと赴き、残りのメンバーがこっちを調べていたのである。
「これは……かなり高温に晒されたみたいね」
「はい。炎の柱を見たという目撃証言が、多数上がっています」
森の奥に出現したすり鉢状の穴の表面を調べる女。彼女は中央の要請で派遣された魔術ギルドの研究員の一人。側にいるのは助手の男である。
二人はユークライト家から提出された報告書片手に現場検証をしていた。概ね内容通りで不信な点は何もない。律儀な同家はモンスターらの死骸から回収した魔石を、ただの一つもくすねることなく計上して、王都に報告までしている。
これに感銘を受けた王様は「すべて好きにせよ」と仰せになったとか。
「実際に目にすると、女神さま云々の話を信じたくなっちゃうわね」
「そうですね。この有様では……」
そう言って周囲を見回す二人。
あれから結構な時間が経っているにも関わらず、未だに戦闘痕がありありと残る現場。
「真偽のほどはともかく、何かがここで激しくぶつかったのだけは疑いようがない。問題はそれが何者なのかということ。でも、たぶんだけど片方はかなりの巨体よ。そしてもう片方は……」
かなり小さい。女はそう断言した。
理由を訊ねる助手に、彼女が語って聞かせる。
「ほら、ここをよく見て」
女が指さしたのは、地面に走る幾つもの鋭く深い巨大な溝。
「まるで剣を振り抜いたような跡でしょう。こういう風にしようと思ったら上段から思いっ切り、自分の足元に向けて振り下ろさなければならない。つまり……」
「地面に転がる何かに向かって、剣のような武器を振るったと」
「そういうこと。溝の大きさから考えるに、かなりの巨体よ。たぶんあの街の城壁よりも大きい。他にも周囲の木の切断された様子を見れば一目瞭然、断面図から察するに上方から下方に向けて切り払われているケースが圧倒的に多い。なかには根本付近をわざわざ横薙ぎにしてあるのもある。そのことからも推察すると、せいぜい子供ぐらいの背丈かしら。まるで巨人と小人の闘いね」
「巨人と小人ですか……言い得て妙ですが、そんな報告をあげて、上が納得するでしょうか?」
助手の疑問にあっさり「無理でしょう」と首を振る女。
「とりあえず現場の状況だけは克明に記録しておいて、推論は削除しておきましょう」
「そうしましょう。どうせ嫌味を言われて、バカにされるだけですから」
このときに彼女たちがまとめた調査結果のレポート。それが後にある者の目に留まることになり、それが新たな騒動の引き金になることを彼女たちは知らない。
邸宅へと戻り、スタンピートについての諸々を説明したら、当主のアンケルが実に爽やかな笑顔で言い切った。
あれから丸一日かけて、夕方頃に帰宅したオレとエメラさん。
とりあえず勝手をした詫びと帰宅の報告をしに、主人のもとを訪れたメイド長。
詳細は夕食後、クロアが自室に戻ってからということになる。
そして夜更けの執務室に集まったアンケル爺と執事長クリプトさん、メイド長のエメラさんに青いスーラのオレ。
始めのうちはエメラさん主体で話を進めていたのだが、面倒になったので早々に触手回線を開き、皆に子機の分体を与えて、諸々をぶっちゃけちゃった。
だって面倒なんだもの。いちいちエメラさんを介してのやり取りが。なによりドンドンと銀髪ハーフエルフのイライラが募って、部屋の空気が悪くなるったらありゃしない。
そういや昨夜は徹夜だった。そりゃあイライラもするわな。
爺とクリプトさんの反応は、思いのほか鈍かった。
それはもうこっちが拍子抜けするほどに。
「今更じゃな……」
「今更ですね……」
それなりの覚悟を持っての告白が、たったコレだけで流された。
受け入れられたのは嬉しいけれど、なんだかおっさん、ちょっとショック。
「どのみち満足な説明なんぞ出来んじゃろ。バレたら面倒なだけじゃ。だからワシらは知らぬ存ぜぬを通す。じきにユークライト家の方からも事態終息の連絡が入るだろう。そうしたら王都から調査団が派遣されて、後は勝手にやりおるわい」
「そうですね。もしかしたらチョコパ方面への調査協力として、兵の貸し出しを打診されるかもしれませんが」
主人の意見に頷きつつ、今後の展開を予想する執事長。
「慰安の名目でユークライト家に使いを出す必要もありますし」
「そうさな……、その一団にクロアの奴も混ぜてやれば喜ぶじゃろう」
「それは妙案ですね。クロアさまもお喜びになられます」
更に二人の話にメイド長が加わり、次々と今後の方針が固まっていく。
すっかりお仕事モードに入った三人。ちなみにオレはぽつんと蚊帳の外に置かれている。
そしてたっぷりと時間をかけての相談事が終了したところで、おもむろに爺が部屋の隅に転がる青いスーラのことを思い出した。
「おぉ、それからお前さんはこれまで通りで構わん。ワシら以外の前では、適当に誤魔化しておけ。下手に話せるなんぞ周囲にバレてみろ。今まで以上にコキ使われることになるぞ」
爺の言葉を反芻し、オレは少し妄想してみる。
メイドさんらにバレる……、これまで以上にお願いごとをされる。
黒服たちにバレる……、事務仕事を手伝わされている姿が思い浮かぶ。
司書さんらにバレる……、図書室に缶詰にされて一晩中働かされる。
騎士団の面々にバレる……、汗臭い洗濯物や武具の手入れに、汚部屋の片付けをやらされる。
トア先生にバレる……、彼女は優しいから、たぶんこれまで通り。
仮面女にバレる……、無茶な組手の相手をさせられてボロボロに。
鍛冶工房の親っさん……は、変わらないかなぁ。
料理長……も、変わらないな、うん、たぶん。
クロアとルーシーさんは……、ちょっとわからない。あの二人って何気に感覚で動く天才肌だから予測がつかん。
《うん。とりあえず現状維持で》
オレがそう答えると三人とも「それがいい」と頷いてくれた。
クロアに正体を明かすかどうかについては、時期を見ることでみなの意見が一致する。
なんといってもあの子はまだ五歳児、秘密を共有するには、いささか心もとない。本人にその気がなくてもポロリもある。だから彼女が王都の学園へと通うことになる十二歳を目処に、ということで落ち着いた。その頃ならば分別もあるだろうし、自分でちゃんと考えて判断できるだろうから。
結局、オレの秘密を共有するのは、この場にいる三人。
当主アンケル・ランドクレーズ、執事長のクリプト、メイド長のエメラ、のみとされた。なお何かを表に出すときには、必ず自分を通せとアンケル爺には念を押された。
どうやらオレが以前に提供した新型甘味料とサツマイモもどきが、すでにトンデモナイことになっているみたい。商品を任せているクロアの母方の祖母で、大商会のオーナーでもあるアロ・シャープの笑いが止まらないんだとか。もうウハウハらしい。
《ところで騎士団長には、オレのことを教えなくてもいいのか?》
深夜の会合もようやく締めへと差し掛かったところでポツリと零すと、三人が揃ってサッと目を逸らした。
「アレは隠し事にはむいておらぬ」
「彼は一本気ですから」
「……」
あー、わりと脳筋気質だからなぁ、あの人。
信任はしているが、ソレとコレとは話が別ということか。
哀れ騎士団長、今度また新しい本を差し入れてやるとしよう。
おっさんは基本的にモテない男の味方だからな。
こうしてオレを巻き込んだ一連の騒動は幕と閉じたかに思えたのだが……。
時を少しばかり遡る。
チョコパを壊滅させたモンスターの群れが山を越え、ユークライト家の本拠地である辺境都市へと向かっていた頃。
スタンピートの報を受けて、城壁上で警備についていた兵らが騒ぎだす。
突然の轟音、地響きが深夜に鳴り響いたのだから。
「この音は一体……」「敵襲か」「違う」「アレは何だ」「光の雨……」「星が降っているのか?」「それにしては様子がおかしい」「数が多すぎる」
時間にすればそれほど長くはない。それでも兵らはまるで生きた心地がしなかった。
数多の星が流れては、大地に落ち火柱を上げる。まるで神話に登場するかのよう異様な光景を前に、彼らは目を逸らすことなく、眺めていることしか出来ない。
じきに静寂が戻ってきたとき、彼らは心底ホッとした。だがそんな安堵もすぐに吹き飛ぶ。
今度は夜陰の風に乗って、遠くから何者かが激しく戦っているかのような音が聞こえてきたからだ。足元もずっと微振動を続けている。
どれだけ城壁の上から目を向けても正体はわからない。それが一層、みなの恐怖心を煽ることになる。
やがて音も静まっていき、完全に聞こえなくなった。振動も止まった。
空は白じみ始め、ようやく長い夜が明ける。
そんなタイミングで一本の青い炎の柱が天へと延びたのを、多くの兵が目撃する。
「神罰の火」誰云うともなく、そんな言葉が自然に発生した。
誠実なユークライト家の領民らを守るために、女神が遣わしてくれた天の救いだと拝む者まで現れ、住民らの間では、これがまことしやかに囁かれることになっていく。
そして夜が完全に明けてから派遣された先遣隊は目撃する。
かつて河原であったであろう荒地に転がる無数のモンスターらの屍。
立ち込める死臭、あまりの濃厚さに熟練の冒険者さえも顔を顰め、若い者は吐いた。
それを超えた先の森の中に、謎の巨大なすり鉢状の穴を発見。
しかしつい先日までこんなモノは確かになかったと、隊に参加している一人が証言する。
周囲の木々は無残にへし折られ、地面は抉れ、この場所で何らかの戦闘行為が行われたことは明白。だが彼らに分かったのはそこまでであった。
先遣隊の報告を受けてユークライト家当主は、慎重に一日様子を伺ってから、ようやく事態が終息したことを宣言した。
終息宣言より二週間後、スタンピート戦場跡に、いくつもの動く人影があった。
彼らはみな王都から派遣された調査団の面々である。
調査団は二手に分かれて軍勢を伴った一団がチョコパへと赴き、残りのメンバーがこっちを調べていたのである。
「これは……かなり高温に晒されたみたいね」
「はい。炎の柱を見たという目撃証言が、多数上がっています」
森の奥に出現したすり鉢状の穴の表面を調べる女。彼女は中央の要請で派遣された魔術ギルドの研究員の一人。側にいるのは助手の男である。
二人はユークライト家から提出された報告書片手に現場検証をしていた。概ね内容通りで不信な点は何もない。律儀な同家はモンスターらの死骸から回収した魔石を、ただの一つもくすねることなく計上して、王都に報告までしている。
これに感銘を受けた王様は「すべて好きにせよ」と仰せになったとか。
「実際に目にすると、女神さま云々の話を信じたくなっちゃうわね」
「そうですね。この有様では……」
そう言って周囲を見回す二人。
あれから結構な時間が経っているにも関わらず、未だに戦闘痕がありありと残る現場。
「真偽のほどはともかく、何かがここで激しくぶつかったのだけは疑いようがない。問題はそれが何者なのかということ。でも、たぶんだけど片方はかなりの巨体よ。そしてもう片方は……」
かなり小さい。女はそう断言した。
理由を訊ねる助手に、彼女が語って聞かせる。
「ほら、ここをよく見て」
女が指さしたのは、地面に走る幾つもの鋭く深い巨大な溝。
「まるで剣を振り抜いたような跡でしょう。こういう風にしようと思ったら上段から思いっ切り、自分の足元に向けて振り下ろさなければならない。つまり……」
「地面に転がる何かに向かって、剣のような武器を振るったと」
「そういうこと。溝の大きさから考えるに、かなりの巨体よ。たぶんあの街の城壁よりも大きい。他にも周囲の木の切断された様子を見れば一目瞭然、断面図から察するに上方から下方に向けて切り払われているケースが圧倒的に多い。なかには根本付近をわざわざ横薙ぎにしてあるのもある。そのことからも推察すると、せいぜい子供ぐらいの背丈かしら。まるで巨人と小人の闘いね」
「巨人と小人ですか……言い得て妙ですが、そんな報告をあげて、上が納得するでしょうか?」
助手の疑問にあっさり「無理でしょう」と首を振る女。
「とりあえず現場の状況だけは克明に記録しておいて、推論は削除しておきましょう」
「そうしましょう。どうせ嫌味を言われて、バカにされるだけですから」
このときに彼女たちがまとめた調査結果のレポート。それが後にある者の目に留まることになり、それが新たな騒動の引き金になることを彼女たちは知らない。
1
お気に入りに追加
359
あなたにおすすめの小説
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
御者のお仕事。
月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。
十三あった国のうち四つが地図より消えた。
大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。
狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、
問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。
それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。
これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる