青のスーラ

月芝

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96 スタンピート編 後始末

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「終わったのですね」

 エメラさんが近寄ってきていたのは知っていたが、オレはだらしなく寝そべったまま。
 どうやらアッチも片がついたらしい。やっぱり強いな、この人。
 とりあえず触手をフリフリして無事をアピール。
 確かに奴の剣に体を貫かれたはずなのだが、とくに穴が開いているわけでもない。それどころか切り傷一つ残っちゃいない。端から謎の多い自分の体だが、ここまでとは思いもよらなかった。頑強にも程がある。本当に存在だけは無駄にチートだな。このスーラって生き物は。

「しかしコレは……六本腕に六本の剣の巨人……、まさか神話に登場する」
《あー、それはナイ》
「どうしてですか? 姿形は伝承によく似ていると思わられますが」
《オレもちらっと考えた。だがそれだと、どうしてもおかしいんだよ。仮にも女神と神竜が動くほどの案件だろ。それがスーラなんかに倒されるワケがない。たぶん眷属とか末端の部下とか、精々がそんなところだろう》
「ご謙遜を、数千のモンスターを屠り、たった一人でコレを退治してみせたというのに」

 そう言ってくれるのは嬉しいのだが、きっとオレの考えが正しい。
 確かにこの六本腕は強敵だったけど、相手がドラゴンだったら尻尾の一撃で吹っ飛んで、ブレス一発で消し炭にされてる。そんなドラゴンの中でも最古にして最強と言われる神竜が出張る程では断じてない。そもそも女神と神竜の組み合わせなんて、どこの最強タッグだよって話。勝てる奴なんていないね。むしろそんな二人を引きずり出した、神話の奴がヤバ過ぎだろう。

「……ところでコレ、どうしましょうか?」

 モンスターは魔石を中心に、色々と有益な素材となる箇所が多い。
 しかし目の前のコイツは世に出してはダメな部類だろう。魔剣の元が詰まったような体、絶対にロクなことにならない。
 とりあえず魔石だけ抜いて、後は滅却処分。
 理由を話したらエメラさんも賛成してくれた。

 ようやく気力が戻ってきたところで、後始末に乗り出す。
 モタモタしていると街の連中が様子を見にきちゃうからな。
 無茶をしたせいか、体がどこかフワフワとして落ち着かない。動くには動くが違和感がある。意識と体に僅かながらズレを感じる。ワンテンポ遅れるというか、たまに反応が先に来るというか。気にするほどでもないが、なんとなくスッキリしない。
 やはり体に反動が出るか……しばらくは養生しながら経過観察だな。自分でもよくわかっていないからなぁ、このスーラボディのこと。

 六つ腕の魔石の位置は、オレが探ってエメラさんが取り出してくれた。さすがは元S級冒険者、解体作業はお手の物みたい。
 ゴロンと出てきたのは、ボーリングの玉ほどの大きさの黒い魔石。
 一点の曇りもなく、模様もないピカピカの鏡面、ここまでの品はオレも見たことがない。

「これは大きいですね。国宝……、いいえ、それ以上です。オークションに出したら、大陸中の国が動くことでしょう」
《うん。アイテム収納内にて死蔵確定。こんなモノ表に出したらトラブルの元だから》
「それがよろしいかと」

 そんなワケで黒い魔石はオレのアイテム収納の中へ。
 エメラさんが解体してくれている間に、オレは自分がぶん投げた巨大杭を回収。
 その後に償却処分を開始。
 六本腕の遺骸から結構距離を置いてから火を放つ。のんびりと焼いている時間もないので、魔力をかなり込めて高温にして滅する。オレからたっぷりと吸い取った魔力と合わさって、青い炎の渦が柱となり、天へと向かってそそり立つ。
 それを見て小首を傾げた彼女。
 どうやら青い炎は初めて目にしたらしい。
 処理が完了するまでの間、暇だったので炎と色について教える。すると呑み込みの早い彼女は、すぐに青い色をした火の玉を出すことに成功。的にした小石が溶けてガラス化するのを見て「なるほど」と納得。ついには待っている間に、指先からガスバーナーみたいな青い炎を吹き出し、石ころを焼き切るまでに至る。放出系よりはクロアと同じ身体強化系の方が得意だと言っていたが、とてもそうだとは思えない器用さを披露した。
 
 ニ十分ほどで骨も残さずに全てを無に帰す。
 ただその際の炎の余波で周囲がすり鉢状に抉れてしまい、異様な風景が出来上がってしまったが、この程度は許してもらおう。

《さて、そろそろ帰ろうか。あんまり遅くなるとクロアが心配するし》
「……ですね。とりあえずクロアさまには、私の仕事のお手伝いをお願いしたということにしておきましょう。ただ……」
《わかっている。アンケル爺やクリプトさんには話して構わない。いや、オレも報告の場に立ち会ったほうがいいか》
「そうして頂けるとありがたいです。大丈夫ですよ。何も心配はいりません。お二方とも薄々ですが、始めっからムーさんの事を疑っていましたので、今更という感じです」

 もしも正体を知られて警戒されたり気味悪がられたら、辛いけど屋敷を去るつもりだったのに、先を越されてしまった。いやー、参ったね。

「それはそうとアチラの魔石はどうしましょうか。結構な数がありますが」

 エメラさんがアチラといったのは、最初に流星雨で壊滅させたスタンピートの現場のこと。死屍累々なので魔石もそれなりに転がっている。ただし結構、激しく殺ったので綺麗な形で残っているのは、せいぜい半分といったところか。それでも集めればスゴイ金額になるだろう。

《面倒だし放置で。こんだけ派手に暴れたんだ。じきにメーサのところの連中が様子を見にやって来る。そしたらアレを見つけて回収するだろう。迷惑料とか復興費用とか、適当に巧いこと処理してくれるだろうから》
「そうですね」
《あと申し訳ないが、帰りはちょっとゆっくりな。大分と無理をしたんで体がガタガタなんだわ。それでも今日の夕食までには間に合わせるから》
「無理をさせて済みません」

 ぺこりと頭を下げるエメラさん。彼女の銀髪に朝日が反射してキラキラだ。
 大丈夫なのかと心配して聞いてこない辺り、ちったあ信頼して貰えている証と捉えても罰は当たるまい。

 にゅるんと体を変形させてホバークラフト形態になる。
 すっかり手慣れた様子でオレに跨るエメラさん。

《じゃあ帰るか》
「はい」

 朝日の中を走り出すオレたち。早朝の済んだ風が肌に心地いい。

《そうだ。朝食代わりに料理長のパウンドケーキでもどうだい? 紅茶もあるよ》
「もちろん、いただきます。それにしてもムーさんの収納は時間固定ですか、羨ましいです」
《エメラさんの腕輪は違うのか》
「はい。遅延はかかっていますが、あまり長時間は持ちません。せいぜいが半日程度かと。そもそも完全に時間が固定されているモノなんて、聞いたこともありませんよ」
《おぅ……だったらコレも》
「要相談ですね。他にも色々とありますから、戻ってからの話し合いが長くなりそうです。どうぞお覚悟を」

 ハムハムとケーキとお茶を愉しむエメラさん。
 おっさんはそんな彼女のお尻の温もりを感じながら家路を急いだ。

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