青のスーラ

月芝

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81 樹木精品評会 1

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「うぁー、すごいー」
「これは立派ですねぇ。クロアさま」
「ほぅ。なかなか見事な枝ぶりじゃな」
《この木なんの木、気になる木っぽい》

 真下から見上げると木漏れ日が筋となって、こちらにまで届いている。
 光が色とりどりの葉を透過したせいか、さながらステンドガラスのように、鮮やかな色彩を帯びる空間。幾本もの光柱と相まって、幻想的な光景を造り出している。

 オレたちは今、領都ホルンフェリス中央部で開催されている『樹木精品評会』にお邪魔している。この品評会は参加者らが丹精込めて育てた植物系のモンスターを披露して、自慢する大会。お金と時間と暇を持て余した貴族の嗜みとして、古くから人気があるんだと。各地で開かれており、受賞することは愛好家たちの栄誉とされている。
 そんな大会のゲスト審査員に選ばれたアンケル爺。これにクロアとルーシーさんとオレがくっついて来たというわけ。
 会場は来場者たちで大盛況。貴族だけでなく一般の客も多い。てっきり盆栽の展示会みたいに、静かで地味なのを想像していたのだが、これが思いのほか面白い。

 展示されているドリアードたちがとにかく個性的。
 ひたすら様式美にこだわりポージングを決めるモノ。ソプラノボイスで観客を魅了するモノ。枝を優雅に動かして舞を披露するモノ。絵本の読み聞かせで子供たちを喜ばせるモノ。
 ペラペラと漫談で笑いを誘うモノがいたと思ったら、逆に熱い語り口調で武芸譚を喋っては、聴衆に手に汗握らせたりするモノもいる。ただの観賞用としてじっとしているモノ、自身の幹で珍しい虫を飼っているモノもある。大輪の花を咲かせるのがいれば、小さな花をところせましと満開にして、花吹雪を降らせるのもいる。渋い声で甘く愛の言葉を囁いては、女性客らをうっとりさせているモノまでいた。

 どうしてこのように多種多様なドリアードがいるのかというと、植物系モンスターは育て方次第で多彩な変化をみせるから。
 葉の模様や形、枝ぶり、花、実、なかには薬効成分を含むこともあり、内容によってはとんでもない価値を産み出し、文字通り金の生る木へと成長することもある。加えて技能や性格、個性などが合わさり、彼らの多様性はまさに無限大。
 ちなみにウチの家の裏の林に住み着いているドリアードさんは野生種。
 品評会に持ち寄られているのは栽培種。
 栽培種はテイマーらが使役に成功した野生種を、何代にも渡って一般向けに品種改良したモノ。守り神から祟り神にまでなれる、ふり幅の激しい野生種とは、完全に別物だと思っていい。いるだけで土壌を開発したり周囲に豊穣をもたらす能力もない。ちょっとした観葉植物みたいなもの。ただし喋ったり動いたりするがな。
 野生種のように激しくない代わりに、この栽培種にはちょっと面白い特徴がある。
 それはとっても寂しがり屋で甘えん坊なところ。
 しっかりと愛情を注がないとヘソを曲げる、浮気なんてもってのほか。彼らは不思議と勘がいいので、こっそり他所で別の個体を育てるなんて真似も許さない。
 ゆえに財にあかせて数を揃えることは不可能。一人一体が原則。
 無理して数を育てたところで満足に育たず、ダメにして仲間内からバカにされるだけ。
 でも逆に言えば、キチンと一体と向き合えば、それなりにキチンと応えてくれる。
 これが貴族たちの間でも、古くから嗜みとして根強い人気を誇る理由。
 高貴な人ほど孤独の闇を抱えている者も多い。そんな彼らにとってドリアードと過ごし語り合う時間は癒しなのだ。

 会場内を興味深げにキョロキョロと見て周るアンケル一行。
 しばらく順路に従って進んでいると、やたらと男性客が群がっている展示があった。

「なんじゃ? あの人だかりは」

 アンケル爺の言葉を受けて、ルーシーさんが「少し確認してきます」と見に行く。
 しかしすぐに顔を真っ赤にして戻ってきた。えらく慌てている。

「ここはダメです。クロアさまの教育上よろしくありません」

 怪訝な顔をするアンケル爺。
 クロアは訳がわからず、きょとんとしている。
 しかしダメと言われて素直に引き下がるほど、ウチの金髪幼女は大人しくない。
 見ちゃダメと言われたら、余計に見たくなるのが人の情。
 クロアは猛然とダッシュ。ルーシーさんが制止するのも聞かずに、群れの中へ突入。
 もちろんオレたちも後に続く。

 男たちを釘付けにしていたのはアルラウネだった。
 簡単に説明すればドリアードの女版。ただしこちらはかなり容姿が艶めかしい。妖艶という言葉がピッタリ。姿形が、仕草が、零す吐息が、そのすべてがエロス。
 栽培に携わったばかりに、破局したカップルや夫婦は数知れず。
 女性からは嫉妬と妬みを、男性からは羨望と劣情が篭った瞳を向けられるほどに、その美しさを増すと言われている植物系モンスター。飼育にはよほどの覚悟と、強い精神力が必要とされている。

 確かにソレはエロかった。ただそこにいるだけで、空間がピンク色に染まるほどに。
 男たちの足が自然と止まるのも無理のないこと。
 ただしそんなお色気攻撃も、無垢な幼女には通用しない。

「ふーん。たしかにキレイかも。でもムネはルーシーのほうがおっきいね」

 クロアの何気ない一言に、その場にいた男どもの首が一斉に反応する。
 ぐるりと回り一点に集中する視線、その先にはルーシーさん……の、けしからんお胸。
 無遠慮な視線に晒されたルーシーさんは、悲鳴を上げて逃げ出した。

「イヤーッ! クロアさまのアホー!」

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