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78 星降る夜に
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星降る夜だった。
見上げた先に数多の流れ星……流星群だ。
ほんのわずかな間に、幾筋もの光が、もの凄い速さで夜空を駆け抜けていく。
緩やかな曲線を描き、地上へと降り注ぐ光のシャワー。
その光景にオレの視線は釘付けとなる。
スーラという謎生物に睡眠は必要ない。
だから皆が寝静まった後はオレの時間。図書室で読書をしたり、裏の林に友人を訪ねたり、秘密の特訓をしたり、散歩を愉しんだりして過ごしている。気まぐれで屋敷の敷地の外に出ることもあるし、領都の城壁を超えて遠出することさえもある。近場だと手頃な相手が見つからないから。
たまに戦闘訓練を積んでおかないと、どうしても動きが悪くなる。体よりも心が鈍る、咄嗟の判断が遅れる。だからこれはオレにとって必要なこと。
普通ならば馬車で三日の距離も、オレのホバークラフト形態ならば半日程度で移動出来る。おかげで片道一、二時間も突っ走れば、かなり陰翳の濃い森の奥にも辿り着く。
今夜もそうだった。
いつものように森へと出かけて、強そうなモンスターを見つけては戦いを挑む。二度の死闘を経た時、不意に空が明るくなった。
見上げた先に見つけたのが流れ星の大群。何処かより次々に射出される弾頭。残光が線となる。競い合うかのように駆けていく星たち。無数の光線が夜空を埋め尽くすほどに輝きを増し、まるで光の洪水のよう。
圧倒されたオレは星々の舞台に、しばし見惚れた。
何処から来て、何処へいくのか……、ぼんやりとそんな事を考えつつ感傷に浸る。
そんなオレの視界に飛び込んできたのは一つの流星。群れからはぐれたソレは、こちらの方へと向かってくる。
近い、と思った次の瞬間には、もうオレの頭上を飛び越えて行く。
一瞬の静寂の後に、豪っ! と音が鳴った。
吹き荒ぶ風、揺れる森の木々、舞い飛ぶ葉や小枝、空気も灼ける、大地さえも微かに震えた。
咄嗟にオレは近くの巨木の幹の下に退避。騒ぎが鎮まるのを待つ。
時間にすればほんの一分弱といったところ。
再び静寂を取り戻す森。
のそりと避難場所から姿を現す。周囲の様子を伺うも異常はみられない。
それよりも気になったのは、さっきの星の行方。あれが隕石というモノだろうか。知識としては知ってはいるが、前世でも実際にはお目にかかったことはない。少し興味を覚えた。時間にはまだ余裕があるし、ちょっと行ってみようか。
オレは先ほどの星が流れていった方角に向かった。
一時間近くもホバークラフト形態にて森の中を駆け抜けただろうか。
じきに開けた場所へと出る。短い草しか映えていない見通しのいい場所。
そこで光る岩を見つけた。
直径十メートルほどのクレータ。中心部にて淡く蒼い光が揺らめいている。
《さっきのはたぶんコレだな。隕石……じゃあないよなぁ》
もっとデコボコして焼け焦げた石を想像していたのだが、目の前のそれは輝いている。魔力を探ると反応がある。
迂闊に近づくのは怖いので、遠目から適当な小石を投げつけてみた。
キン! という金属音。
どうやら石ですらないらしい。ますますもってわからない。とりあえず同様に何個か石を投げてみる。やはり同様な金属音が鳴るばかり。
すると光が明滅し始めた。周期がだんだんと短くなり、強弱が激しくなっていく。それに混じってピシッ、パキッ、と何かが割れるような音。蒼い表面には細かいヒビが。
夜空から降ってきた輝くお星さま。
そしてここはドラゴンが空を舞いモンスターが闊歩する、ファンタジーな世界。
もしかして中からかぐや姫ならぬ妖精さんとか、可愛い女の子が飛び出してきたりしちゃう? ついに遅れてきたヒロインが登場か! これでおっさんもラノベの主人公の仲間入り!
パリンとひと際大きな音を立てて、ついに石が割れた。
黒い肌。
真っ赤な円らな瞳。
細い手足。
頭には金の冠。
四枚の羽で空に浮かぶ。
巨大な黒蝿だった。
ブーンと羽を震わし、忙しなく手をスリスリしている。全長は一メートル近くあった。
おっさんちょっぴり期待しちゃったよ。でもね……ここはそんな甘い世界じゃないって散々に経験したでしょうに。それでも……と妄想しちゃう、それが男という生き物。
地味に心にダメージを負ったおっさん。
そんなオレに容赦なく襲いかかる巨大黒蝿。
なんだか無性に腹が立ったのでプチっと潰してやった。
直接触るのは嫌だったので、その辺に落ちていた石を思い切りぶつける。地面に転がったところを、やはりその辺に落ちていた倒木でバンと、こうね。けっこう頑丈な奴で完全に動かなくなるまでに、何度も叩く羽目になる。
黒蝿はドロっとした黄色い体液を漏らしながらピクピク痙攣、じきに動かなくなった。
死骸を放置しておくとなんだか病原菌でもまき散らしそうなので、オレは念のために償却処分しておく。久々の火魔法は盛大な炎柱を立てた。奴の入っていた殻だか石だかわからないモノも、その中に放り込んで一緒に燃やした。
すべてが塵になるのを見届けてから、オレはその場を後にする。
そろそろ帰らないと朝食の時間に間に合わないからな。
虫型モンスター「ノスト」
容姿はコバエに似ているが体はずっと大きい。夜空の彼方から飛来すると云われているが真偽のほどは不明。ブーンと空を飛び、他者を襲っては、その体内に卵を産み付けて爆発的に繁殖する。個体そのものは弱く、落ち着いて当たれば女子供でも充分に対処可能。季節の変化にも弱く、冬になり気温が下がると大体死ぬ。
ただし金の冠を被った個体には注意が必要。おそらくは群れの女王と目されており、戦闘力、頑強さが他の個体とは比べものにならない。しかも病の元をまき散らすらしく、そこにいるだけで、かつては大きな街を一夜にして滅ぼしたこともある。
長い歴史の中で世に大病が蔓延するとき、いつもその陰にはノストがいたとも云われている。
星降る夜に、おっさんは知らないうちに世界を救った。
見上げた先に数多の流れ星……流星群だ。
ほんのわずかな間に、幾筋もの光が、もの凄い速さで夜空を駆け抜けていく。
緩やかな曲線を描き、地上へと降り注ぐ光のシャワー。
その光景にオレの視線は釘付けとなる。
スーラという謎生物に睡眠は必要ない。
だから皆が寝静まった後はオレの時間。図書室で読書をしたり、裏の林に友人を訪ねたり、秘密の特訓をしたり、散歩を愉しんだりして過ごしている。気まぐれで屋敷の敷地の外に出ることもあるし、領都の城壁を超えて遠出することさえもある。近場だと手頃な相手が見つからないから。
たまに戦闘訓練を積んでおかないと、どうしても動きが悪くなる。体よりも心が鈍る、咄嗟の判断が遅れる。だからこれはオレにとって必要なこと。
普通ならば馬車で三日の距離も、オレのホバークラフト形態ならば半日程度で移動出来る。おかげで片道一、二時間も突っ走れば、かなり陰翳の濃い森の奥にも辿り着く。
今夜もそうだった。
いつものように森へと出かけて、強そうなモンスターを見つけては戦いを挑む。二度の死闘を経た時、不意に空が明るくなった。
見上げた先に見つけたのが流れ星の大群。何処かより次々に射出される弾頭。残光が線となる。競い合うかのように駆けていく星たち。無数の光線が夜空を埋め尽くすほどに輝きを増し、まるで光の洪水のよう。
圧倒されたオレは星々の舞台に、しばし見惚れた。
何処から来て、何処へいくのか……、ぼんやりとそんな事を考えつつ感傷に浸る。
そんなオレの視界に飛び込んできたのは一つの流星。群れからはぐれたソレは、こちらの方へと向かってくる。
近い、と思った次の瞬間には、もうオレの頭上を飛び越えて行く。
一瞬の静寂の後に、豪っ! と音が鳴った。
吹き荒ぶ風、揺れる森の木々、舞い飛ぶ葉や小枝、空気も灼ける、大地さえも微かに震えた。
咄嗟にオレは近くの巨木の幹の下に退避。騒ぎが鎮まるのを待つ。
時間にすればほんの一分弱といったところ。
再び静寂を取り戻す森。
のそりと避難場所から姿を現す。周囲の様子を伺うも異常はみられない。
それよりも気になったのは、さっきの星の行方。あれが隕石というモノだろうか。知識としては知ってはいるが、前世でも実際にはお目にかかったことはない。少し興味を覚えた。時間にはまだ余裕があるし、ちょっと行ってみようか。
オレは先ほどの星が流れていった方角に向かった。
一時間近くもホバークラフト形態にて森の中を駆け抜けただろうか。
じきに開けた場所へと出る。短い草しか映えていない見通しのいい場所。
そこで光る岩を見つけた。
直径十メートルほどのクレータ。中心部にて淡く蒼い光が揺らめいている。
《さっきのはたぶんコレだな。隕石……じゃあないよなぁ》
もっとデコボコして焼け焦げた石を想像していたのだが、目の前のそれは輝いている。魔力を探ると反応がある。
迂闊に近づくのは怖いので、遠目から適当な小石を投げつけてみた。
キン! という金属音。
どうやら石ですらないらしい。ますますもってわからない。とりあえず同様に何個か石を投げてみる。やはり同様な金属音が鳴るばかり。
すると光が明滅し始めた。周期がだんだんと短くなり、強弱が激しくなっていく。それに混じってピシッ、パキッ、と何かが割れるような音。蒼い表面には細かいヒビが。
夜空から降ってきた輝くお星さま。
そしてここはドラゴンが空を舞いモンスターが闊歩する、ファンタジーな世界。
もしかして中からかぐや姫ならぬ妖精さんとか、可愛い女の子が飛び出してきたりしちゃう? ついに遅れてきたヒロインが登場か! これでおっさんもラノベの主人公の仲間入り!
パリンとひと際大きな音を立てて、ついに石が割れた。
黒い肌。
真っ赤な円らな瞳。
細い手足。
頭には金の冠。
四枚の羽で空に浮かぶ。
巨大な黒蝿だった。
ブーンと羽を震わし、忙しなく手をスリスリしている。全長は一メートル近くあった。
おっさんちょっぴり期待しちゃったよ。でもね……ここはそんな甘い世界じゃないって散々に経験したでしょうに。それでも……と妄想しちゃう、それが男という生き物。
地味に心にダメージを負ったおっさん。
そんなオレに容赦なく襲いかかる巨大黒蝿。
なんだか無性に腹が立ったのでプチっと潰してやった。
直接触るのは嫌だったので、その辺に落ちていた石を思い切りぶつける。地面に転がったところを、やはりその辺に落ちていた倒木でバンと、こうね。けっこう頑丈な奴で完全に動かなくなるまでに、何度も叩く羽目になる。
黒蝿はドロっとした黄色い体液を漏らしながらピクピク痙攣、じきに動かなくなった。
死骸を放置しておくとなんだか病原菌でもまき散らしそうなので、オレは念のために償却処分しておく。久々の火魔法は盛大な炎柱を立てた。奴の入っていた殻だか石だかわからないモノも、その中に放り込んで一緒に燃やした。
すべてが塵になるのを見届けてから、オレはその場を後にする。
そろそろ帰らないと朝食の時間に間に合わないからな。
虫型モンスター「ノスト」
容姿はコバエに似ているが体はずっと大きい。夜空の彼方から飛来すると云われているが真偽のほどは不明。ブーンと空を飛び、他者を襲っては、その体内に卵を産み付けて爆発的に繁殖する。個体そのものは弱く、落ち着いて当たれば女子供でも充分に対処可能。季節の変化にも弱く、冬になり気温が下がると大体死ぬ。
ただし金の冠を被った個体には注意が必要。おそらくは群れの女王と目されており、戦闘力、頑強さが他の個体とは比べものにならない。しかも病の元をまき散らすらしく、そこにいるだけで、かつては大きな街を一夜にして滅ぼしたこともある。
長い歴史の中で世に大病が蔓延するとき、いつもその陰にはノストがいたとも云われている。
星降る夜に、おっさんは知らないうちに世界を救った。
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