青のスーラ

月芝

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71 王都編 騒乱の王都

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 王城内は、まだまだ王子毒殺未遂事件で浮ついている。
 捜査の方は完全に行き詰っている。毒の出所の一つである闇ギルドを抑えたらしいが、そこで止まっている。捜査関係者らも薄々気がついている。本気で突き詰めたら、正妃と第二側妃に行き着くことになることを。王族相手では城内の人間ならば誰だって二の足を踏む。事件の軟着陸を目指し、落としどころを探している。現状はそんなところか。
 幸いなことに生贄はオレが沢山与えた。そのうち適当な奴が罪のすべてをおっ被されて、首謀者として処理されることであろう。
 アンケル爺の元に王女を預かってから、すでに十日。
 クロアとメーサとファチナは、仮面女ことサファイア先生に付いて色々と学びつつ、一緒に遊んだりして、毎日を機嫌よく過ごしている。クロアの修行については興味深げに見守りつつも、決して混ざろうとはしない。どうやら二人には良識があるようだ。
 ファチナ王女と黒騎士アリオスくんの二人は、順調に親睦を深めつつある。周囲は生暖かい目でそっと見守っている。彼の部下たちの間では、どちらから告白をするのか、賭けているようだ。賭けは今のところ六対四で姫様優勢。

 そんな平穏な別宅とは裏腹に、ここのところオレはとっても忙しい。
 昼間は幼女らと戯れ、夜間は悪党どもと戯れる。
 正妃と第二側妃の力を削ぎ大人しくさせるために、関係各所を片っ端から潰す。
 分隊の活躍により完成した両陣営に所属する人間のリスト。中には絶対に他人には知られたくない個人情報から、悪事の数々までもが微細に渡り網羅されてある。こいつを元にリストの上位者から順番にオレは動く。
 自宅にお邪魔しては、オレ様印の怪しい薬にて昏睡、その間に屋敷中から根こそぎ金目の品を没収、ついでに悪巧みの証拠やら、不正を示す書類なんかも徹底的に集める。
 集めた資料は必要としている捜査機関や、マスコミ関係者のところに、こっそりとお届け。
 そうそう。この世界には本格的な新聞こそはまだないが、その前身ともいうべき瓦版みたいなものは存在している。内容は幾分ゴシップ臭がぷんぷんだが、そいつを扱っている人のところにも情報を流しまくる、ばっちりと証拠付きで。おかげでここのところ王都内は非常に騒がしい。貴族の不正、醜聞が市井を多いに賑わせている。
 先の奴隷商の摘発に始まり、連日出るわ出るわの悪行の数々。これにはさしもの日頃は従順な民も大層ご立腹。下から猛烈な突き上げを喰らう格好で、王都の警備を担う騎士団やら近衛隊の奴らは、朝から晩までどころか、夜通し走り回って処理対応に追われている。
 ザビア・レクトラムも同僚らと一緒になって、汗だくで駆けているのを何度か目撃した。
 ざまぁみやがれ。

 近頃、王都を騒がしていたのは何も貴族に関係する事ばかりじゃない。
 義賊の出現である。
 正体は一切不明。どこからともなく現れては、お金をそっと置いていく。
 しっかり戸締りをしていたのにも関わらず、人の目があったのにも関わらず、気が付いたら側にお金の入った袋が置かれてあったという。気配や匂いに敏感な獣人ですらも、まるで気づけない。
 お金が配られた人は、みながみな何らかの理由で本当に困っていた者ばかり。
 父親を亡くし生活に困窮している母娘、病や怪我で働けない者、親を失い途方に暮れていた幼い兄弟、不義理の犠牲になった女性……、それこそ喰うや喰わずの人から、様々な理不尽に晒されていた人のもとにまで、実に多くの人のところにその義賊は現れた。
 孤児院や施しを行っている教会にも出没する。それどころか子沢山で有名な家や、奇特にも個人で孤児を引き取っては、面倒をみているご婦人のもとにも訪れては施していく。
 一体どこで彼らの困窮を知ったのか? 一体どうやって彼らのもとを訪れたのか? 一体その正体はどこの誰なのか? 憶測が憶測を呼び、その正体を探るべく動くマスコミもいて、こちらも市井を多いに賑わせる。なにせ大衆はこの手の話が大好きだ。特集を組んだ記事は飛ぶように売れた。記事を片手に人々は勝手に想像の翼を飛ばし夢想する。
 やれ金持ちの慈善家だの、どこぞの貴族の御曹司だの、仮面の貴公子だの、絶世の美女だの、女神さまの御使いだの……、よもやその正体が青いスーラだとは誰も思うまい。
 そう。オレの仕業です。
 いやー、悪い奴らから活動資金を根こそぎ奪ったのはいいが、これを死蔵していると王国内の経済が、ちょこっとヤバいことになる。連中、びっくりするぐらい溜め込んでやがんの。全部を抱え込んでいたら、市場が貨幣不足になりかねない量。自分のアイテム収納の中に金銀財宝の山がデンと出現。これにはさすがにおっさんもビビったわ。
 そこでオレは考えました。
 金庫の中で大金を眠らせていたところで何も産み出さない。お金は世間に回してナンボ、それで思いついたのが義賊。パメラがウチのところに現れたのがヒントになった。
 あぁ、パメラなら妹のポメラちゃんと母親のアメラさん共々、すでにアンケル爺のお膝元にゲートで送ってある。後の事は執事長のクリプトさんに任せてあるらしいので、悪いようにはされないだろう。
 そんなワケにて、正妃と第二側妃の関係者から資金を集めては、それをせっせと排出するので、ここのところオレは毎晩忙しい。
 配り先の情報収集は手が空いた分隊のメンバーらを当てている。適当に配ってロクでもない奴の手に金が渡るのはさすがに嫌だし。
 目先の金をバラ撒いたところで本当の救いにはならない? そんなことは百も承知している。オレが与えるのはあくまでキッカケだけだ。赤の他人の面倒を一から百までみてやるほど、オレはお人好しでも善人でもないからな。
 汚れてようが腐ってようが金はカネ、活かすも殺すも使う者次第。アンケル爺ならば、もっとデカいスケールで活かすのだろうが、生憎とコイツは素直に表には出せない代物。前世が普通のおっさんに過ぎないスーラにあんまり期待すんなよ。こちとら自分の周りの連中に手を伸ばすだけで精一杯なんだ。

 やがて二週間が過ぎ、三週間目へと差し掛かる頃にもなると、手元のリストの中身がかなり寂しくなった。処理済みのところから名前の上に横線を引く。もう目ぼしいところはあらかた押さえた。領地が遠くて直接手が下せない奴にも、きっちりと悪事の証拠を揃えて提出してある。遅かれ早かれ王城の連中が処理してくれるだろう。

 くくくくっ。今頃、さぞや城内の高貴な二人はお冠のことであろうな。
 なにせ呼べども誰も応じず、ご機嫌伺いどころか連絡すらもない。欲した品も満足に届かない。何かしようにも金も思うように集まらない。派閥はすでに空中分解して、ほとんど消滅。じりじりと真綿で首を絞められるように、自分の支配力が弱まっていくのを、指を咥えて眺めていることしか出来ない。

《もう間もなくかな。終息宣言が出されるのは》

 思いのほかに長逗留となった王都での生活。
 おっさんはそろそろ料理長の味が恋しいのです。


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